春先の麗らかな日差しが差し込む今日この頃。
私はどうして六年長屋の自分以外の部屋にいるんでしょうか?

座って待つように言われた後、戸棚の中から出てくる化粧道具の数々。
彼、立花君の持つそれらの数は忍たま随一と言えるのではないかというくらいです。
しかもその何れもが中々高価なものだというのも驚くべきところなんでしょうねえ。
都で有名な問屋のものまで混じっているでありませんか!
…このあたりの事情に詳しくなったのも御使いで諸々あったからなんですが。

しかしちらりと見ただけでも立花君は綺麗な顔立ちをしていますよね。
きっと女装をしても美しい女性になれるんでしょう…羨ましい限りです。
忍たるもの、他者に成りきれる術が多いに越したことはありませんから。

それにしても作法委員会の委員長とは知りませんでした。
…と言うよりも、委員会の委員長が誰であるかほとんど把握出来ていないのが実情なんですがね。
保健は伊作君で、用具は留三郎君だというのは覚えましたよ!
あとは…さっぱりわかりません。
校内の情報収集も怠っていたつもりはなかったんですが…少し見るべき点がずれていたんでしょうか?
んーまた情報を集めてみなければいけませんねえ。

「建穂…いや、実継と呼んでも?」
「勿論名前で呼んでくれて構わないよ、立花君」
「それならお前も私のことは名前で呼べばいい」

おや、そういえば自然と苗字で呼んでいました。
それこそ名前で呼んでる人のほうが少ないですよね私。
同じ組の二人は前に名前で呼びあおうと組の中で言われたのでそのようにしているんですがね?
他は…特に何か言われたことはなかったですし、いきなり仲良くもない私から名前で呼ばれても驚くだけでしょう?
向こうから名前呼びをして良いと言われればそうしますしね、嬉しいことですから。

「では…仙蔵君と呼ぶね」
「っ、ああ…よし、化粧を直すぞ。目を閉じていろ」

あーいよいよ化粧の時間ですか…なんだか妙に緊張しますね。
人に化粧をしていただくなんて御使い以来ありませんでしたから。
いや…普通に男であればそんな機会がある方が珍しいんでした。


刷毛が鼻先を掠めていくのがなんともくすぐったい!
笑わないように変に力んでしまっているのでさぞかし面白い表情をしていることでしょうね私…。
しかし丁寧に化粧を施してくれているのは目を閉じていてもよくわかります。
…私の化粧がよっぽど酷かったということでしょうか?
まあそれを抜きにしても仙蔵君の手捌きは無駄なく繊細です。
流石は作法委員会委員長ですね。

………ん?

作法委員会の作法とは、たしか戦場での作法のことだった筈。
戦場において化粧が施される場と言えば…首実検、ですよねえ…?

あ、もしかして死化粧…だなんてこと、ありませんよね…?
いやいや仙蔵君を信頼していないわけじゃないんですよ?
ただ私の女装があんまりで、それが一周回って死化粧が似合いそうだから実験台にされたなんてこと…す、少しだけ考えてしまいました…。

「動くな実継」
「あ、すまない…」

不覚にも思わず体が揺れてしまいました。
仙蔵君のことですからそんなことはありませんよね?

とはいえ。
私もあまり仙蔵君のことを知っているわけではないんですよねえ…。
優秀でいて顔立ちも整った同級生がいる、という認識だったように思います。
実習でも一緒になったことはなかった筈ですよ?

同じ組の潮江君とは何度か一緒になったことはありましたがねえ。
潮江君はとにかく真面目で、直向きに立派な忍になろうとする姿勢に感心させられっぱなしでした。
先程の集会の時にも少しだけ姿を見ましたけど、何やら顔に渋さが増していて貫禄のようなものまでありましたよね!

他にも同級生は数々いますけれども、私はこれまでその殆どと関わってきませんでしたから。
だからこうして仙蔵君が声をかけてくれたことは、とても嬉しいんです。


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