「…っ建穂先輩!」
「はい?」
小松田さんに外出届を見せて出門表に名前を書き終えた頃、背後から私を呼ぶ声がしました。
な、なかなかの大声で呼ばれたのですが、そうまでして私を呼び止める人だなんて一体何方……おや?
「君は…」
「…っ五年い組、久々知兵助です!」
久々知というのが名字なんですね。
っていやそうではなくて!
急に呼び止めて自己紹介始めるだなんてどうしたんでしょうか!?
「私になにか用かな?」
「はいっ、その…街に向かわれると聞いて、私もこれから街に行くので…ご、御一緒させていただけないかと…」
御一緒?
街へ用事だなんて、土井先生と何かお話があったのではないのですか?
いやでも、先程の話だと炭屋さんへの発注をお願いされていましたねえ。
もしかしてそれでしょうか?
「構わないけど私は今こんな成りだし…久々知君の方こそ構わないのかな?」
仙蔵君のお陰でかなりましな状態ですが一応女装した男ですからねえ。
しかしこれを機会に彼の誤解について話すのもいいかもしれません。
彼にいつまでも私を命の恩人だなんて思わせておくのも気が悪いですし。
「はい、お願いします!」
そ、そんなに深く頭を下げなくていいんですよ?
何はともあれ旅は路ずれ世は情けともいいますし、これも後輩と交流を深める機会と思いましょう!
「じゃあ学園を出てからは私のことを実と呼んでくれ」
「実さん…?」
「はい、久々知君」
一応女装名で呼ばれたので女声で応えてみました。
女装で気を付けるのは見た目や所作もそうですが、私は声もかなり気を付けているつもりです。
流石に声変わりをしているので完璧に女性らしい声は難しいのですが、これも単に鍛練の賜物。
声が低めの女性に聞こえなくもないくらいにはなりましたからね!
あとは立ち振舞いで女性らしさを印象付ければこっちのものです。
急に声が変わってきょとんとしている久々知君の腕をとり、少々悪いことをしてしまったと思いつつ門を潜りました。
さあ、買い物ですよ!!
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