「私も配慮なく言葉を重ねてしまったね。さ、学園へ帰ろう」

そろそろ歩き始めないと夕飯に間に合わなくなってしまいますからねえ。
おばちゃんのご飯を食いっぱぐれるのはごめんですし!
軽く俯いたままではあるものの久々知君も歩き始めてくれました。
誤解についてはまた後日弁解することにしましょう…けして先輩面できなくて気落ちしたからではありませんよ…!

なんて思いつつ学園の方へと歩き始めた、その時。


ー…随分とまた、無粋じゃありませんか?


「…っ、実さん…!」
「足を止めないで。歩き続けて」

私達の周囲に忽然と現れたいくつかの気配に久々知君も気が付いたみたいですね。
しかし此処は立ち止まれば忽ち詰め寄られてしまいますから、まずは気付いていることを悟られぬよう振る舞うしかありません。

そもそも私達が狙われているのかがまず定かではありませんからねえ。
どこぞの誰かと勘違いして囲んでるということもあり得なくはないでしょう?
もしそうなら警戒するような素振りをした瞬間、目標と誤解されかねません。
ですが。
それを相手に悟られることなく察するのが忍というものですよねえ。

一歩間違えば危険を伴うもの……いやでも、勝算はありますよ?


「えっと…兵助君?」
「はへっ!?」

「私…手、繋いで帰りたいな?」

名付けて、馬鹿っぷる大作戦ですよ!!
私が御使いで身につけた女性らしい仕草を最大限に活用してあたかも普通の若いお二人さんに見せかけるというものです!
囲んでいる連中もまさか馬鹿っぷるを標的にしている筈はありませんからねえ。
…難点をあげるとすれば私の女性らしさがどこまで皆さんに通用するかというところですか…。

「駄目…かな?」

体を屈めてわざと下から顔を覗き込んで小首を傾げてみせる…巷で手練れと言われていた可愛い娘さんがこの技術で何人もの男を手玉に取っていたのを見たことがあったのでやってみました。
大の男がやっているので見苦しさは否めませんがこれも相手の出方を探るため…久々知君、ごめんなさい。

……く、久々知君?
いや、気持ち悪いのは自覚済みなので意図をくんで反応してもらいたいんですが…?

「………建穂先輩」
「ごめんねこんな作戦で…他に思い付かなくて、」


あれ、なんだか久々知君の目に剣呑な光が見える…?

「とっとと帰りましょう」

小声で失礼しますとか聞こえま…え、ええ?

どうして私が抱き抱えられてるんですかこれ!?

そのまま学園への道を爆走していく久々知君…私はもう頭が状況に追い付いて無くてですね…。
呆然と高速で流れていく景色を眺めつつ、私達を囲んでいた気配も何一つこちらに着いてこないなあとぼんやり感じ取っているうちに、学園に到着していました。

その後。
久々知君は私を態々部屋まで運んでくれたのですが、お礼を言う間もなく立ち去ってしまいました。
……とりあえず、久々知君に色々と助けてもらってしまいましたね。
また何かお礼をしないといけませんね、これは。



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