一方私の上に馬乗りになっている彼は目を丸くしてじっと視線が交わったまま。
え、いやもしかしてこれで決着じゃ納得できませんか…?

困りましたね…好戦的なようでしたからもっと長く手合わせしたかったんでしょうか?
それなら悪いことをしてしまいましたね…私も鬱憤を思いっきり晴らしたくてつい荒々しい手を使ってしまいましたから。
もっとこう、がんがん打ち合って激しく戦うようなのが良かったんですかねえ?

「…やっぱりお前はすごいな、実継!!」
「…え、ああ…ありがとうございます…?」

にかっと笑った彼は武器を収めてその手で私まで起こしてくれました。
納得してもらえたと思って良いんですよねこれ?
随分とご機嫌な様子なのでとりあえず一安心ですねえ。

「じゃあ次はいつ手合わせをするんだ?明日か?明後日か?」
「へ…えぇっ!?」

次って何ですか次って!しかも明日明後日ですか!?
やっぱりまだ納得されていなかったんですね…確かに手合わせ事態は問題ないんですが、そんなに頻繁ですと流石に…。


ポカッ


「あいてっ」

「………小平太…」

「痛いぞ長次!」


濃紺の彼の後ろからすっと伸びた手が彼の頭をぽかっと叩きました。
長身の彼が言葉少なく濃紺の彼を諌めてくれたみたいです。


って名前…そうですよこのお二人はろ組の方々ですよね!


濃紺の彼が七松君で、長身の彼が中在家君ですよ!
あー思い出せて良かった…まだなんとか呆けてないみたいですよ私…!

このお二人とはあまり接点がありませんでしたからねえ…こちらが一方的に知っているような状態だとばかり思っていました。


何せ実習の時なども、は組はい組と合同になる回数の方が多かったんですよ。
…尤も、私が参加できた実習に限っての話ですがね?
それ故自然とい組の方々はお名前も覚えていったのですが、ろ組の方々は情報として知っている程度の人が殆どなんです。
御二人は何かと名前を聞く機会が多かったので顔と名前と一致した、という具合です。

「いいだろ長次!私は早くまた実継と手合わせがしたいんだ!!」
「……実継にも予定があるだろう…?」
「む、それは……っ実継!!次は何時なら手合わせできるんだ?」

ええっ、い、何時ならと?
はっきり言えば明日の予定すらない私ですから何時でも…と言いたいところではあるんですが、そうとなると体がもちません。
いくら御使いで無茶な忍務をこなしてきて体力に自信はあるとしても、七松君と毎日のように手合わせするだけの容量は流石にありませんよ?

しかし彼からの手合わせの申し出を無下にすることだってできません。
寧ろ私にとっては渡りに船の状態ですし。
やはり武器を手に戦う実戦的な鍛練も必要だと考えていたんです。
普段であればそれが御使いの中で賄われていたんですが、この学園の中ではどうしようかと思っていたところだったんですよ。

あ、それなら時間をきっちりあけて定期的に行えば良いのではないでしょうか?

「それなら七松君、私と定期的にこうした手合わせをしてくれないかな?」
「定期的に…?」
「できれば二週間に一度、手合わせを御願いできたらと思ったんだけど…駄目かな?」

もしかしたら七松君はあと一回手合わせできればそれで良かったのかもしれませんが…私の都合優先の話に無理やり方向転換してしまったのでその確認ができなかったのは失敗しましたねえ。
しかしこれでもし承諾してもらえればありがたいんですが…。

ん?

七松君が俯いて……え、「うわぁっ!?」

「実継ー!!私は嬉しいぞ!!」

う、嬉しいのはいいんですがどうして抱きついてくるんですか!?
急に俯いたので何か気に触ったのかと思ったら喜色満面で飛びついてきたので驚いて情けない声が出てしまいました…。

「じゃあ次は二週間後だな?」
「あ、ああ…その、七松君は私と定期的に手合わせをしてくれるのかい?」
「?当たり前だろう、お前から言ったんだぞ実継。あと小平太と呼んでくれ」

わりと身長差があったので若干見上げてくるような七松君改め小平太君は、不思議そうにこちらを覗き込んでは目をきらきらっとさせて笑い掛けてきました。
…なんだか私がおかしなこと言っているみたいですが、よくよく考えておかしなことなんて言ってないですよね?
私が定期的な手合わせをお願いして、小平太君が嬉しいぞーって……嬉しいってことは手合わせ出来て嬉しいってことですよね?
あ、あれ…自分で何言ってるかわかんなくなってきてしまいました…。

「それじゃあ小平太君、これからよろしく」
「ああ!二週間後が楽しみだ!!」

私も楽しみではあるんですがちょっと不安にもなってきました。
やはり呆けが始まってきたんでしょうか…上手く思考の整理ができないだなんて。

ぐいっ

「おわっ!?長次か?」

気付けばすっかり蚊帳の外にしてしまっていた中在家君が私に引っ付いていた小平太君の襟首を掴んで引き剥がしていました。
…なんだか小平太君の面倒を見るのが慣れている感じがしますね。
お二人ともきっと長い付き合いがあるんじゃないでしょうか?

私には……そうした人がいないので、良くはわからないんですが、ね。


ぽふん


頭に何か暖かい感触が…顔をあげてみれば、中在家君が私の頭に手を置いていました。
そのまま二度ほどぽんぽんと優しく触れたかと思えば、すっと手を退けてしまいましたが…。

「…え、あの…中在家君?」
「………長次、と……」

それは名前で呼んでいいと言うことなんでしょうか?
それにしても頭を撫でられるなんて…何年ぶりでしょうか。
幼い頃には些細な御使いから帰ってくると学園長先生がしてくださった思い出もありましたが、流石にこの歳でされるとは思ってもみませんでした。
しかし悪い気なんてしないものなんですね、これ。
昨日も勢いあまって孫次郎君の頭を撫でてしまいましたが、こんな風に思っていてくれたらすっごく嬉しいんですけどね。

「……では、また…」
「ええまた。色々ありがとう、長次君」

「二週間後になー実継ー!!」
「はい!よろしくお願いするね、小平太君」

ぶんぶんと手を振る小平太君と静かに此方を見やっていった長次君。
二人はそのまま長屋の方へと行ってしまいました。

あーなんだか…いや、とっても嬉しいです、私。

名前で呼ぶことが許され、約束もできた。
おまけに楽しみにしていると……これが嬉しくないわけないじゃないですか!!
そして今日の午後は実質初めてになる委員会活動も控えているわけですし…幸せですね、本当に。

やっぱり私は、この学園の生徒でいられて良かった。


「……ありがとうございます、先生」


さて、午後まで部屋でのんびりとしていましょうか。





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