忍足君との待ち合わせは駅の前だった。
 本当は直接映画館でもよかったのだが、私が場所がわからないから駅前にしてもらったのだ。
 忍足君に会うのは、携帯を返した時ぶり。あれから、私がバイトのシフトにあんまり入ってなかったのと、入っても忍足君が来る時間からは外れてたからだ。
 なので、少し緊張してしまう。
 あの日以来、ふとした時に忍足君の顔が頭に浮かぶ時がある。
「苗字さんっ」
 忍足君が駆けて来た。
「すまんな、待ったやろか?」
 あぁなんて爽やかなんだろ。オーラがあるね、やっぱり。
「ううん、大丈夫だよ」
 実際、待ち合わせの時間にはあと数分あるし。私がちょっとはやく来てただけ。私がはやめに行動するなんて滅多にないことなんだけど、今日は不思議とはやく行動してしまった。
「おおきに! ほな、行こうか!」
 忍足君が歩き出し、私も少し後ろを着いて行く。

「面白かったね!!」
 映画が見終わり、私のテンションは急上昇していた。
 久しぶりにあんなきゅんとくる映画見たよ。でも、忍足君は楽しかったかな? こってこての恋愛物だし。
「おん、よかったな! 最後のシーンは特に胸きゅんやった!!」
 胸きゅん? 忍足君の口から出たのかい?
「…ふふっ」
 思わず、笑い声が漏れてしまった。
「なんや?! なんで、笑おとるん?」
「いや、だってそのね、まさか忍足君の口から胸きゅんなんて言葉が出るなんてっ思って
もいなかったからっはは、ごめんごめん」
 やばい、なんかツボに入った。
「似合わへんよな……」
 私の言葉に傷ついたように、忍足君が肩を落す。
どーしよ、もしかして傷つけちゃったのかな?私笑いすぎたよね、あぁやってしまった。
 沈黙が流れて、私まで泣きそうだよ。
「くくっ」
「へ?」
「だめやー、苗字さん面白すぎやわ。オロオロしてんの丸わかりやで」
 そう言って、忍足君は笑った。
 ……私、もしかしてからかわれた?
 空いた口がふさがらない。
「口ポカーンって、口ポカーンなってるで、ククっ」
 二回もいいやがった、こんクソ眼鏡が。さっきまで、あんな辛そうな、寂しそうな顔してたくせに……。
「忍足君のばーかっ」
 私は思い切り忍足君の頭をこずいた。
「ばかはだめや、あほ言わな!!」
「いやっ忍足君のばかばかばかばかカバー!!」
 なんか楽しくなってきちゃったなー。こんな馬鹿みたいに男の子とはしゃぐのなんてはじめてかもしれない。

 
「それじゃあ…またね」
「おん、またな」
 待ち合わせをした駅前で私たちは別れた。
 またってかえしてくれたのが嬉しかった。