楽しかったなぁ……。関谷君もそう思っていてくれていたらいいなー。
「名前、さっきから頬が緩みっぱなしよ」
 夏海が変なものでも見るような目で私を見ていた。
 昼休み。私は夏海と二人、裏庭でお弁当を広げていた。
 そういえば、夏海に忍足君の話してなかったな……。
「実はね、」
「ちょっといいだろうか?」
 話を始めようとしたら、上から声がした。見上げると、馬鹿デカイ逆光眼鏡が立っていた。
 確か、こいつはテニス部レギュラー乾?
「なんの用、貞治?」
 夏海が返す。
 ってか、今、名前呼んだよね? 知り合いなのかな。
 表情に出ていたらしく、夏海がこちらに向きなおしため息をついた。
「こいつ、一応私の幼馴染なの」
「えっ嘘?」
「嘘つく必要なんてないでしょうが」
「だって、聞いてないし」
 夏海の口からテニス部の話題がでる時は大体、あいつ等ばっかり予算がいっぱいあってずるいとか、そんな部活の愚痴ばっかりだった。
「別に他のテニス部の奴らなんて知らないし、それに私だって好き好んで幼馴染なわけじゃないし、こいつとは……」
「「腐れ縁」だとお前は言う」
 乾君が夏海の言葉を遮って続けた。私達が座っているせいか、はたまた彼がデカすぎるのか、かなりの威圧感を感じる。
「相変わらずだな、お前は」
「それはあんたもでしょ、このデータバカ」
 なんだかんだで、仲良しみたいに見えるけど、どうなんだろう。
「で、結局なんのようなのよ? こないだもわざわざ教室まで来てたし」
 あっそーいえば私の事テニス部の人が探してたって夏海、言ってたな。でも、私本当に心当たりないんだけど?
「少し聞きたい事があるんだ、苗字いいか?」
「へっ? あっ別にいいけど」
 いきなり自分に話が戻ってきたからビックリしちゃった。
「苗字は忍足侑士と知り合いなのか?」
 オシタリ?
 忍足?
 忍足君!?
「なっなんで?」
 なんで、乾君が忍足君を知っているのだ?
「実はな、こないだ朝練の時に忍足と苗字が一緒にいるのを校門の辺りで見かけたんだが」
 あの携帯を返した時だ。確かに朝練をしている運動部がいっぱいいた。
「ってか、忍足って誰よ」
 一人納得していると、夏海が言った。
「えっと、ちょっと忍足君の携帯を私が拾ったというか、なんというか」
「ふーん、で、何でその忍足君を修司も知ってるの?」
 それは私も気になっていた所だ。
「忍足は氷帝学園のテニス部レギュラーだ」
 なんですと?
 あの忍足君が
 超セレブで、
 頭もめっちゃよくて、
 女子の制服人気第一位の
 氷帝学園のテニス部レギュラー????
 私がぽかんとしていると乾君が話しを進めた。
「その様子だと、知らなかったようだな。携帯を拾ったと言っていたな、それから交流などはあるのか?」
 乾君が何か質問してるけど、あんまり頭に入ってこない。
「もう、貞治帰んなよ、チャイムなるし」
 私の様子を見て、夏海が乾君を帰してくれた。
 ただただ、驚きだ。
 制服は何回も見たことあったけど気づかなかった。
 氷帝学園と言えばうちと同じくスポーツに力を入れている学校で、なにかとうちと比較されることも多い。特にテニス部は勝った負けたと繰り返している因縁の相手だと聞いたことがある。
「なんかごめんね、あいつ」
 夏海が申し訳なさそうに、私に手を合わせた。
「う、うん。いや、なんかびっくりしたよ」
「貞治がわざわざ聞きにくるんだし、きっと凄い選手なのね、その人」
「そうなのかもね、」
 私は小さく答えた。
 昨日は映画の話ばっかりで、そんな話なんかしなかったし。なんにも知らないな。忍足君のこと。