ハッピーデイ

私の想い人は、もうすぐ誕生日だ。…とは言っても、今までまともに祝ってきたことなんかないんだけどね、当人が興味ゼロだったから。誕生日でしょ、って声を掛けたこともあったんだけど、アイツってばそれがどうした?って冷めた目で見てきやがったもんだから…私もそのまま、口を閉じて、それっきり。本当にそれっきりなんだ、出会って3年になるけど、一度も―――誕生日おめでとうを、言えたためしがない。

言えなかったから何なんだ、って三蔵は言いそうだけど、そういう問題じゃない。『私』が三蔵の誕生日を祝ってあげたいの、嬉しい気持ちにさせてあげたいの。そう、思ってはいるんだけど、あんな冷めた目でまた見られたら…って思うと、ちょっとね、さすがに言う気が萎えちゃうよね。というかさ、多分、怖いんだ。三蔵にあの目で見られることが。
普段から冷たいしそっけないし、甘さの欠片もないような人だけどさ、それでも冷めた目で見られたことは一度もなくて。だからこそ、あの時は衝撃的だったなぁ…めちゃくちゃ怖くて、しばらく目を見れなかったくらいだもんね。

「でもなぁ…つき合って初めての誕生日くらい、ちゃんと祝いたいんだよ」
「まぁ、そう思うのが普通でしょうね。問題は三蔵ですか…確かに誕生日に思い入れがあるようには見えませんけど」

だけど、好きな女性におめでとうと言われて嫌な気持ちになるとも、思えませんけどね。
八戒は笑ってそう言ってくれた。きっとしょげている私を見兼ねて、気を遣ってくれたんだと思う。本当に彼の言う通りだったらいいのに、とは思うんだけど、…それは絶対にないだろうなぁ。
どうにかおめでとう、と言うことなく、三蔵に悟られることもなく、こっそりと祝うことができないだろうか。ダメ元でそんな無茶な質問を八戒に投げかけてみれば、それなら夕飯に気合をいれてみたらどうですか?だって。

「三蔵は時々、なまえの家に来るんでしょう?」
「うん、まぁ…付き合い始めてからは、フラッとやってくることが増えたけど」
「さすがにケーキを作ったらバレるでしょうから、…そうですね、葛きりとかお饅頭とか用意してみたらいいんじゃないかな」
「ああ…和菓子好きだもんね、三蔵。あとマヨネーズ」
「ええっと…マヨネーズは置いておきましょうか。ひとまず」

でもそうだなぁ…八戒の提案に乗ってみようかな。自己満に過ぎないけど、おめでとうって気持ちをいっぱい込めて作れば、もしかしたら三蔵に届くかもしれないもん。いつもよりちょっとだけ豪華な食事と、それから三蔵の好きな甘いものを用意してみよう。来てくれることを、前提に。





そして三蔵の誕生日当日。来るかもしれないし、来ないかもしれない…それは一種の賭けだった。当人は興味がなくても、毛嫌いしていようとも、慶雲院のお坊さん達はそれを良しとしないだろう。もしかしたら盛大に祝われているかもしれない、と思ったんだ。
三蔵の好きな甘いものと、今までに何度も作った中でアイツが気に入っているように感じた料理を作って待ってはいるものの、今日は来ないかもしれない―――半ば、諦めながらも私はリビングの椅子に座ってただひたすらに、ドアが叩かれるのを待っているのです。

ああでも、やっぱり今日は来なさそうだ。もう大分夜も更けてきているし、あと数時間で彼の誕生日も終わりを迎えちゃうし…頑張って作ったけど、これは明日にでも悟浄と八戒に持っていこう。それで一緒に食べてもらおう。
そう思ってラップをしよう、と立ち上がったのと同時にノックの音が、響き渡った。

―――ガチャッ

「三蔵、…」
「なんだ、呆けた顔をしやがって。マヌケな面だな」
「開口一番それかい!ほんっと、一言余計な奴だねアンタは!!」
「うるせぇ、いいからとっとと中に入れろ。さみぃんだよ」
「そんな軽装で来るからでしょ…なぁに?今日は正装じゃないんだ」
「あの格好で出かけると、町の奴らがうるせぇんだよ。特に今日はな」

何故か知れ渡っている三蔵の誕生日。
だからきっと、真っ白な法衣を着ていると色んな人から声を掛けられるんだろう。


「―――待っていたのか」
「?何を、」
「俺をだ。…じゃなきゃ、皿を並べたままにはしておかねぇだろ。箸もつけられてねぇしな」
「…そろそろ来るかな、って気がしてただけだよ。この時間だともう夕飯済ませちゃってるでしょ、どうする?」
「食う。」
「はいはい。今、温め直すから待ってて」

冷めてしまった料理達を温め直して、それを三蔵に出し直せば早速と言わんばかりに食べ始めた。…うん、気を遣ってるわけはないだろうと思ってたけど、本当にお腹空いてたんだねこの人。お寺だから誕生日を祝うってことはしないのかな、もしかして。あれ?でも、誕生日云々は抜いても夕飯は食べるよなぁ?普通。
気にはなるけど、私が知っても何の得にもならんし…理由はどうあれ、三蔵に食べてもらうことができたんだから別にいいか。来てくれただけで万々歳、だよね、本当に。

「葛きりとお饅頭もあるよ。三蔵、好きだったでしょ」
「…ああ。寄越せ」
「わかってるよ。お饅頭はたくさん作ったから、あとで包んであげる。悟空にもあげてよ」
「何でアイツにあげなきゃならん」
「ええ?だって1人で食べきれる量じゃないし…」
「てめぇが―――…なまえが俺に作ったものだろう。だったら1つ残らず、俺のもんだ。違うか?」
「違、わない、けど…それは横暴すぎるよ、三蔵…」

そう返すも、顔はひどく熱を持っているらしい。それに三蔵の言葉が嬉しすぎて勝手にニヤケちゃう。普段は氷みたいに冷たいくせに、こうやって時々、甘い(とは言い難いけど)言葉を吐いちゃうんだからどうしようもないなぁ。でも…本当にどうしようもないのは、そんな彼にときめいちゃってる私自身だと思うけど。

(誕生日おめでとう。…出会ってくれて、愛してくれて、生まれてきてくれて―――ありがとね、三蔵)

胸の内でだけ呟いた言葉。でもどの料理にもその気持ちをこれでもか!ってくらいに詰め込んだ。
だから、絶対に残さずに平らげてよね?…ね、私の愛しい人。