可愛い後輩からの貰い物

2/14。世間じゃあ、恋する乙女達が想いを寄せる男にチョコレートをプレゼントする日だ。
まぁ、実際はそんな甘い日としてできたもんじゃねぇんだけどな…これは菓子界に踊らされた結果のようなもんだろ?俺だって男だし、興味が全くないわけでもねぇけど―――その反面、どうでもいいと思っている自分がいるのも本当。
…この日は俺にとって、一番どうでもいい日だ。

 side:大和

俺が所属するアイドルグループ、アイドリッシュセブンは本日バレンタインライブをやってる真っ最中だ。有難くもファンも着々と増え、マネージャー曰く、本日のライブチケットも発売日即日完売だったらしい。そんなわけで、眼下に映る客席は満席御礼ということになる。

(暗闇に浮かぶペンライトの光が綺麗だとか、そんな風に思うようになるとはねぇ…)

恐らく、俺がこの場所に立っている理由と、メンバーがこの場所に立っている理由は違っていると思う。
そりゃあ性格も何もかもが違うわけですから?理由なんて十人十色なんだが、…そういうことじゃない。根本的なもんが違う、っつーこと。行きつく先の目標が、俺とあいつらでは異なるんだ。絶対にな。
―――そう、思っていたんだけどなぁ。いつの間にかこの場所が、俺にとって大事なもんになりつつある気がしてる。俺の居場所なのだ、と…そう認識できるようになってきた。だからきっと、このペンライトの光を眩しいと感じるだけじゃなく、綺麗だと思うようになったのかもしれない。

「んじゃ、ここでMCという名の休憩を挟むとしましょーか。お兄さん、水飲みてーわ」
「あ、大和さん。オレの分の水も取って」
「ヤマさーん、ついでに俺のもお願い〜」
「お前らねぇ…!」

自分で取れ!と文句を言いつつも、ミツとタマの分のペットボトルを引っ掴んでぶん投げた。このくらい許されんだろ。まぁ、イチから危ないから投げないでくださいと言われたけどな。

「ライブやる度にオレ思うんだけどさ、」
「どうしました?七瀬さん」
「会場の、ってか…客席の電気が全部消えるでしょ?それでペンライトだけが光ってるこの感じ、すっごい綺麗だなって!」
「陸くんの言ってること、僕もわかる」
「そーちゃんも?」
「うん。ほら、こうやって改めて見ると綺麗だと思わない?」

水を飲み終え、タオルで汗を簡単に拭い終えたメンバーが黙って会場を見渡す。それに応えるかのように、ファンの子達が手に持っているであろうペンライトをゆらゆらと揺らしてくれた。一瞬だけ、幻想的な光景というのはこういうことを言うのだろうか―――なんて、柄でもないことを考えてしまう。…あれだな、所謂感傷的な気分ってやつ。
く、と苦笑を漏らしつつも、それを誤魔化すかようにいまだ黙ったままのメンバーに「どうよ?」と声をかける。そうするとあちこちから綺麗だとか、ここまで来たんだなとか、思い思いの感想が耳に届いた。だよなぁ、やっぱ感慨深いもんがあるよなーこの光景は。

「急に全員感傷的な感じだけど、ちょっと大事な話があるんだよな」
「Oh,忘れていました!とても、とても大事なお話です!」
「大事な話?んなのあったっけ?」

MCで話す内容は、基本的には行き当たりばったり。俺かミツが適当にメンバーに話を振るのが定番となっている。だから、事前にこんなことを話そうとか…んなのは決めないでいるのがほとんどなんだけど、何だか今回は違うっぽい。違うっぽいっつーか、俺抜きで話されてた感じか?これは。お兄さんだけ仲間外れとか、ちょっといじけるぞお前ら。
…というのは冗談だけど、本気で意味がわからん。何だ?大事な話って。どんなに考えてもわからなくて首を傾げていると、ステージ上のライトが消えて何故か俺だけがスポットライトで照らされている状態になった。は?!何だよこれ!!

「おい、お前らなに考えて―――」

―――パーンッ

突然聞こえた音に思わず、肩がビクリと跳ねた。でもすぐにその音の正体は、メンバーが手にしているクラッカーだということがわかり、僅かにホッとしたんだけど…本当に何なワケ?
余計に疑問が増えた俺を見たあいつらは、一層笑みを濃くして「誕生日おめでとう!」と、そうハッキリ口にした。

「…は?」
「今日、2/14はオレ達のバレンタインライブの日で、バレンタインで、そんでもって我らがリーダー・二階堂大和の誕生日だろ?」
「見て見て大和さんっ!バースデーケーキ!!」
「俺達6人で作った」
「といっても、僕達がちゃんと手伝えたのはデコレーションだけで、」
「スポンジケーキは、イオリとミツキが頑張ってくれました!」
「二階堂さん、改めて誕生日おめでとうございます」

ほら、とリクが押してきたワゴンに載せられてるのは、どデカいケーキ。6人でデコレーションしたというだけあって、統一性がない。本当に個々の好みで飾り付けられてるって感じだ。形はすっげー綺麗なのに。…でも、何よりも俺を祝おうとしてくれてるメンバーの気持ちが嬉しくて、勝手に顔がニヤけて、ついには吹き出しちまった。

「ははっ!何だよもー…愛されてんなぁ、お兄さん」
「そうデス、ヤマトは皆から愛されていますよ!」
「でもプレゼントはこれだけじゃありませんよ。覚悟してくださいね、二階堂さん」
「覚悟?覚悟って何だよ、イチ」
「それは見てからのお楽しみ〜」

タマにそう言われたけど、覚悟しろって言われて楽しめるかよ!って感じだよな。一体、何を企んでやがるのかと思えば―――スピーカーから、今回のライブで歌う予定のない曲のイントロが聞こえた。これは同じ事務所の後輩で戦友でもある、みょうじなまえとのデュエットソングじゃねーか!
おいちょっと待て、あの曲を俺1人で歌うのか?恥ずかしいことこの上ねーぞ?!…成程、イチが言ってた『覚悟』っつーのはこういうことか…なぁ、これ本当に俺の誕生日祝ってる?思わず溜息をつきそうになった瞬間―――

「可愛い可愛いお姫様達―――Are you Ready?」

なまえの声が、耳に届いた。慌てて顔を上げてみりゃあ、この曲の為に作られた衣装を身に纏っているなまえの姿が目に飛び込んでくる。そして歌いながら階段を下りてきた彼女は、俺をその瞳に捉えて、お得意のウインクひとつ。それだけで会場にいるファンの子達は、喜びの声を上げている。俺はただひたすらに呆然と、マヌケ面を晒すのみなんだけど。
だけどワケを聞いてる時間は、今はないらしい。この曲はなまえだけの曲じゃない、『俺達』の曲だ。それだったら、俺も歌わねぇとダメだろう。打ち合わせなんてひとつもしていない。それでもステージの真ん中で歌い、踊るなまえに近づけば勝手に体は動くし、歌える。あいつの動きに合わせられる。
ずっと気が合う、息ピッタリだと言われてはきていたが…今正に、その言葉を実感したような気がする。

「というわけで、本日のスペシャルゲスト!みょうじなまえでーす」
「あはは、どうも〜お邪魔してすみませんね。アイナナのファンの皆さん」
「いや、なまえさんの例のセリフが聞こえた瞬間のファンの子達の声、すごかったですよ?」
「大和さんとのデュエット、評判良かったもんね!」
「素敵でした、マイプリンセス!」
「ナギ、抱き着こうとすんなっての!!」





なまえとはまともに話せないまま、でも大盛り上がりしたライブは無事終了。シャワー浴びて、着替えて、ようやく一息ついた所で新着メッセージが届いていることに気がついた。
送信相手は、まさかのなまえ。ドクリ、と慌ただしく動き始めた心臓を無視するようにラビチャを起動させる。そこに表示されたメッセージは、尚更俺の心臓をうるさくさせた。

『お疲れ様です。今、アイナナの楽屋近くの階段にいます。少しだけ、会えませんか?』

返信する時間すら惜しい。場所さえわかっていれば、返信しなくとも問題はないだろう。まだゆっくり帰る準備をしたり、くつろいでるメンバーに少し出てくる、とだけ声をかけ、俺は楽屋を飛び出した。

「なまえ!」
「あ、お疲れ様です。すみません、疲れてる所…」
「いや、全然大丈夫だけど…つーか、此処寒いだろ?楽屋に来れば良かったのに」
「それはさすがに恐れ多いっす」
「はぁ?今更そんなこと言っちゃうの?お前さん」

番組の収録の時ならともかく、ライブ後はやっぱり遠慮しちゃいますよ。
そう言って苦笑したなまえ。ライブ中や練習中に見る顔とは違い、年相応に見える可愛い女の子だ。さっきまではあーんなにカッコ良かったくせにな?

「それに用事はすぐ済みますし」
「用事?」
「はい。あの、ですね…これをお渡ししたくて」

ズイッと出されたのは、小さな紙袋。もらっていいの?と改めて問いかけると、嫌でなければ…と小さな声が返ってきた。俺が嫌だ、って言うと思うのかね?この子は。
くつくつと笑いながら、震える手に握られている紙袋を受け取った。そうするとホッとしたようになまえが笑うもんだから、年甲斐もなく心臓が跳ねた。ああもう、本当にこの子は無防備に笑うから敵わない。

(このプレゼントに特別な意味があるとは思ってないけどな)

事務所の先輩の誕生日とあれば、律儀ななまえがプレゼントを用意するのは手に取るようにわかる。現に今までもそうだったしな。先月のイチの誕生日だって、オフの日だっつーのにわざわざ事務所へプレゼントを届けに来たらしいし。それに今日だって、このライブに出る為にわざわざ時間を空けてくれたのだろう。

「サンキュ、なまえ」
「いいえ。大事な先輩の誕生日ですから。…おめでとうございます」
「ん」

目的を果たしたなまえは、パタパタと次の仕事へ向かっていった。ほーんと律儀で、健気な子だこと。何だかそのまま戻る気にはなれなくて、階段に腰掛け、もらったばかりのプレゼントを開けてみることにした。
豪快に開ける気に何故かなれなくて、そっとテープを外すと、中にはプレゼントらしき物とHappy Birthday!と書かれたカードが。こんなものまで用意してくれてんのね。ほーんと可愛いったらありゃしねぇ。

(…ん?底にもう一個入ってる)

一番下にあったのは、赤い包装紙に包まれ、更にはリボンがつけられている小さな箱。リボンに挟まれていたカードを何気なく開いて、…とんでもない爆弾を落とされた。
おいおいおい、これはマズイでしょうなまえちゃん…!じわじわと上がってくる体温、熱くなる頬を自覚して、それを隠すように頭を抱える。あいつはどれだけ俺を翻弄すれば気が済むのだろうか。

「…お兄さん、本気にしちゃうよ?」

さあ、可愛くて可愛くて仕方ないあの子を、どうやって口説き落とそうか。



―――大和さんはずっとずっと特別です。大好き。
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