ガサリ、と木々が風で揺れる。辺りは真っ赤に染まり始めていて、陽が沈み始めているのだとわかった。
「こんなに遅くなるつもりはなかったんだけどなあ」
この辺りは怖いものが出る、と噂が立っている。その噂がいつからあるものなのか、そしてなにが出るのかはよく知らないけれど根も葉もない噂だとは、どうしても思えなくて。ぶるり、と恐怖で体が震えた。
よし、さっさと通り抜けてしま おうー歩くスピードを上げようと思った瞬間、聞き慣れた声で名前を呼ばれた。
「やっぱりお前か」
「ふ、しみくん?」
「こんな時間に1人は危ないし、送っていくよ」
にっこりと笑みを浮かべた彼に肩の力が抜けていく。お言葉に甘えます、と言えば、また彼は笑った。
この時、私は気がついていなかった―――彼の影に、あるはずのない角が生えていたことに。