ミセの店主となった四月一日くんのお仕事を手伝うようになった静くん。高校時代はあんなに犬猿の仲って感じだったのに、大人になったのか、あんな風に喧嘩をするようなことがなくなった。…というか、四月一日くんが静くんに突っかかっていかなくなった、っていうのが正しいかもしれません。
ずっと傍で見ていた私としては、今の関係性の方がとても嬉しいからいいんだけど。
「なまえちゃん、あのさ…ってあれ?何か作ってる?」
「今日は静くんの誕生日だから、ケーキでも作ろうかなぁって。四月一日くんが作るお菓子には敵わないと思うけど」
「いやいや、こういうのは好きな相手からもらった物の方が美味しいって思うから。きっと喜ぶよ、あいつも」
「だといいんだけど。…それで何か用事?」
「ああ、うん。実はね―――…」
キッチンにやって来た四月一日くんから聞いたのは、これからちょっと厄介なお客さんが来そうだから絶対に外に出ないで、ケーキを作ってるならキッチンから出ないように、って言われちゃいました。
彼と同じようにアヤカシが視える私は、どうやらそれらに気に入られるらしく―――狂暴な奴だと、私を自らの糧にしようと襲ってくることもあるらしい。それに気がついたのは、前・店主の侑子さんだった。
それまでは別段困ったことなどなかったんだけど、高校生に上がったくらいからアヤカシに追いかけることが増えちゃって…静くんに相談したら、四月一日くんを紹介されて、更に彼に侑子さんを紹介されたっていう流れ。
それからずっとこのミセに住まわせてもらってるんだ。此処なら襲われることは絶対にないから、って。
今では大分、私自身の力も強くなってきたから外出することもできるんだけど…でもやっぱりアヤカシに好かれる体質なのは、全く変わってないみたいで、今回みたいなことがあると部屋から出ないで、って言われちゃう。四月一日くんや、静くんと違って―――私には祓う力はないから。
「わかった。しばらくキッチンにいるわ」
「うん、お願い。終わったら百目鬼をこっちに寄越すから、それまで我慢してて」
「え?静くんも来るの?」
「あいつの力が今回必要になりそうだから、念の為―――な」
せっかくの誕生日なのに、彼氏借りちゃってごめんね。
申し訳なさそうに謝る四月一日くんに大丈夫、と首を横に振れば、安心したような笑みを浮かべてくれた。怪我だけはしないように、とだけ伝えると、彼は1つ頷いてキッチンを出て行ってしまいました。
「…いつまで経っても、2人は危険な道を辿るのね…」
焼き上がったスポンジケーキの具合を見ながら溜息1つ。
こんなことがあるのなら、先に渡しておけば良かったかな…ポケットにいれたままだったモノにそっと触れ、ひとりごちる。でもまぁ、いつ何が起きるかなんて予言者でない限りわからないんだし…後悔するだけ無駄かもしれないわね。
「―――なまえ、」
「静くん!終わった、の?」
「ああ」
「…怪我は?してない?」
「俺も四月一日も無傷だ、心配するな」
その言葉にようやく肩の力が抜けたような気がした。キッチンから出るな、と言われてから2時間…それはもう、気が気でなかったんだから。
「良かった…」
「何か作ってたのか?甘い匂いがする」
「ああ、今日は貴方の誕生日でしょう?だからケーキを作ってたの」
「…そうか」
「誕生日おめでとう、静くん」
にっこり笑ってポケットにいれたままだった袋を手渡せば、それを受け取った格好のまま固まってしまった。…あら?どうしたのかしら。貴方へのプレゼントなんだから開けていいんだよ、と教えてあげれば、ようやくピリピリとテープを剥がし始める。
その様子を見て、何だかおあずけされてる犬みたいって思ってしまったのは私だけの秘密。
「ブレスレット?」
「3月の誕生石で、アクアマリンっていうの。幸運を呼ぶ、って意味があるのよ」
パワーストーンなんて気休めにしかならないかもしれない、それに静くん自身を守ってくれないかもしれない。…でも、それでも少しでもその手助けになれば―――そう思って、このブレスレットを選んだの。
誰よりも優しく、他人を思ってくれる貴方にもっともっと、幸せが訪れますようにって。
「きゃっ…静、くん…?」
「お前がいれば幸せだが、…でも、ありがとう」
「…うん、どういたしまして」