「土方さん、今日お誕生日なんですってね」
「…………おう」
たっぷり間を開けてそう答えた彼の顔には、驚きと、そしてやっべ怒られるとかまずったとかそんな感情が浮かんでいた。まるで私がお誕生日だってことを教えてもらえなくて、拗ねてるみたいに。拗ねませんよ、そのくらいじゃ。だってわかっていますから、貴方が…わざと私に伝えなかったわけではないことを。
土方十四郎という男は真選組の副長で、ヘビースモーカーで、極度のマヨラーで、とてもとても真面目で、そして———不器用で、己のことに然程興味をもたないひと。だからきっと、今日がお誕生日だってことも最初は忘れていたのでしょう。
「先に言っておきますが、怒っていませんからね?」
「……おう」
「ふふっ先ほどからそればかりです」
「…るせ」
拗ねてしまったのは土方さんの方だった。その様子にクスリ、と笑みを零す。本当にこの方は、大人のようで子どもみたいな所があること。でもこういう所も可愛いと思うのです、私は。
今は、今だけは鬼の副長・土方十四郎の皮を脱いだって誰も咎めないのですから。
「…誰に聞いた」
「え?」
「俺の誕生日。誰に聞いたんだ」
「ああ…沖田くんと山崎さん、それから局長さんに」
「近藤さんにまで…?!」
少し前、土方さんと私は局長さんと沖田くんに挨拶に伺ったのです。おつき合いをしています、と。別にすぐにでも結婚する、というわけではなかったのですが、非番の日に土方さんをお借りすることもありますし…ずっと隠しておけることでもないだろう、と思っていたので。そしてその事実は、あっという間に屯所内に広がってしまったそうです。あの時の土方さんの顔は、思い出すといまだに笑ってしまう。
そのことがあったからでしょうか。町で偶然会った沖田くんと山崎さんと、お妙ちゃんの所へ向かうらしい局長さんに今日が土方さんのお誕生日だってことを聞いたのです。正確に申し上げますと、『夜に祝いの宴をやるから是非に』とお誘いを頂きました。
でも私はお誕生日を知らなかったので、口を開けたままぽかーんとしてしまい、マヌケ面を晒してしまいましたが。そしてとりあえずは土方さんにお会いしようと、捜し回って今に至るわけです。
「非番だったのなら、連絡してほしかったです」
「今日の朝、急遽休みだって近藤さんに言われたんだ。さすがに、…急すぎるだろ」
「急かもしれませんが、お休みの日はお伝えしてありましたよね?」
そう。私の職場は固定のシフト制になっているので、出勤日とお休みの日が決まっているのです。突然、誰かが休まない限りはお伺いの連絡も来ません。それはおつき合いをし始めた頃、連絡先と共に土方さんにお伝えしてあるんです。
そして今日はそのお休みの日。朝イチで連絡を頂いても、全く問題はなかったのに。
「何か用事があったら、お前は絶対に困った顔をするだろ」
「それは…」
「で、どうにか時間作ろうとするだろ」
「……そりゃあ、私だってお会いしたいですもの」
好きな殿方から連絡を頂けば、天にも昇る気持ちになるのも当然でしょう?時間を作りたいと思うのだって、普通のことなのではないのかしら。
土方さんはそういうのを望まない?重たいと、感じてしまうのかしら。
「それが重いとか、迷惑だとか…そういうわけじゃない」
「はい…?」
「……何となく、俺が嫌だっただけだ」
そっぽを向いてそう言った土方さんの耳は、微かに赤くなっていた。ふふ、慣れないことを言うからですよ。嬉しいですけど。
「土方さん、今お暇ですよね?」
「あ?」
「私、何も予定がなくて困っていたんです。ですから、柏餅を食べに行きましょう!」
「は?!」
「行きつけのお団子屋さんがあるんです。そこの柏餅がとても美味しくて、土方さんにも食べて頂きたいなって」
立ち上がって土方さんの手を取れば、戸惑ってはいらっしゃるようだけれど嫌ではないみたい。その証拠に手を振り払われないし、やめろ!と怒鳴ることもないですから。
振り払われないことを良いことにそのまま歩き出せば、土方さんは黙って私の後をついてきてくれている。大方、諦めたという感じでしょうか。
「…来るのか」
「何処にです?」
「屯所。総悟と山崎と近藤さんに誘われたんだろ、宴会」
「ええ。貴方が邪魔にならないと仰るのでしたら、伺います」
「邪魔にはならねぇよ。…あの人達が誘ったんなら、他の奴らも邪険にはしねェさ」
「では、有難く」
後ろを歩いていた土方さんは私の隣に並び、さり気ない仕草でするりと指を絡ませた。驚いて顔を上げれば、そこには僅かに頬を赤く染め、でもいたずらっ子のような笑みを浮かべる彼がいたのです。