7月4日。今日はクラスメートの志摩くん、の、誕生日。…らしい。
少し前に志摩の幼なじみでもある勝呂くんと三輪くんに偶然聞いたのだけれど。そして誕生日プレゼントも用意したのだけれど。
「(思っていた以上に話しかける隙がない…!)」
彼自身の性格なのか、それとも人を引き寄せる雰囲気をもっているのかはわからないけれど、いつだって志摩くんの傍には誰かがいる。勝呂くんと三輪くんがいない時でも、彼が1人になっている所を私は見たことがない。
私が見たことないだけで、実際にはあるのかもしれないけれど。
それはともかく。今日は志摩くんの誕生日っていうイベントもあるせいか、休み時間も、昼休みも、そして全ての授業が終わった放課後でさえも…代わる代わる誰かが彼に声をかけ、何かを渡して去っていく。その繰り返し。
そして、ようやく人の流れが切れたと思ったのに、声をかけようとした瞬間、彼はカバンを持って何処かへ行ってしまいました。つまり、今日はもう会えないということ。
教室を出ていった彼を追いかければいいんだろうけど、如何せんそんな勇気はありません。それなりに仲は良い方、だと、思ってはいる、けど。
わざわざ呼び止めてまで、となると、やっぱり緊張しちゃうんだ。だって、私は彼に恋をしているから。
「はぁ、…」
でもやっぱり、渡しに行けばよかったな。他の人達の流れに乗って、さりげなくあげるって言ってしまえば良かった。そうすれば、今頃こんなに悩んだり、自己嫌悪に陥ったりしなかったかもしれないのに。
まぁ、そんなの自業自得だから仕方ないんだけどさ。
…いつまでもうじうじしていても仕方ない。私ももう帰ろう。このプレゼント…どうしようかなぁ。
ガサリ、と持ち上げた紙袋が鳴る。中に入ってるのは、悩みに悩んで買った志摩くんへのプレゼント。
お洒落さんな彼に合う物を、一応選んだつもり。気に入ってもらえるかは別として。…それも意味のない物になってしまったけれど。
よし。いい加減、帰ろう。
誰もいなくなってしまった教室を出ようとした瞬間、閉まっていたはずの扉が大きな音をたてて開いた。びっくりして肩がビクッと揺れたよね!み、見られてないかな…!誰が来たのかはわからないけど!!
「…あれ?みょうじさん?」
開いた扉の先から響いた声は、間違いなく志摩くんの声だった。
彼を認識した瞬間、心臓がドクドクと忙しなく動き始める。ま、まさか戻ってくるなんて思ってなかったから、心の準備も何も出来てない…!
で、でも!もしかしなくても、これはチャンスなのではないか?
「し、志摩くん…どうしたの?もう帰ったんだと思ってた」
「これからちょお用事あるんやけど、筆箱忘れてしもて」
そう言って困った笑みを浮かべる彼。自分の机の中からペンケースを取り出すと、「みょうじさんはどないしてん?」と話しかけられた。
だ、だから、急に話しかけられると心臓がね…?!いや、志摩くんは知ったこっちゃないだろうけど。
「もう誰もおらんのに、…あ、誰か待ってるん?彼氏、とか」
「う、ううん!彼氏なんかいないし、…ちょっと、考え事してて」
「ふーん、そうなんや…もう夏やし、そないに暗くなってへんけど気ぃつけてな?ほな、また明日〜」
あ…行っちゃう…!
「ま、待って志摩くん!」
今しかチャンスがない、と思ったら、私は無意識に彼の腕にしがみついていた。
突然のことに志摩くんもキョトンとしてるし、私は恥ずかしさで死にそうだしで、もう頭ん中は大パニックです。めちゃくちゃ大変なことになってますフル回転です。
「…みょうじさん?」
「あ、ああああああの…たっ…誕生日!オメデトウゴザイマス!!」
「へ?知ってたん?」
「う、うん、少し前に偶然聞いて……そ、それでね?ご迷惑じゃなかったらこれ……!」
ズイッと差し出したのは、プレゼントが入った紙袋。
恥ずかしくて、志摩くんの顔が見れなくて、俯いたまま差し出してしまいました。うわ、これ、態度悪く見られちゃうかも!さっきのおめでとう、だって何でか知らないけど片言になっちゃってたし!!
というか、さっきから志摩くん、反応が一切ないんですけど…もしかして、やっぱり迷惑だったのかな…?!私からなんかのプレゼントは受け取れないから、って悩んでる?!
どんどん思考がマイナスにいってしまって、そっと視線だけを上げてみれば、映ったのは真っ赤な顔をしてる志摩くんでした。
「……真っ赤…?」
「うわっみ、見んといて!!」
「えっあっご、ごめんなさい!!」
バッと私に背中を向けてしまった志摩くん。よくよく見てみれば、耳や首まで真っ赤になっててまた驚いてしまったんです。
だって、…さっきまでたくさんのプレゼントをもらったり、祝福の言葉をもらっていたのを見てたけど、赤くなってることなんか、一度もなかったんだもの。…こんな反応されたら、変に期待しちゃうんだよ?志摩くん。君にその気が一切ないとしても、だよ。
「あ、あの、おおきに。むっちゃ嬉しい…!」
ようやくこっちを向いた志摩くんの顔は、変わらず真っ赤。でも幸せそうに笑いながら、私のプレゼントをそっと受け取ってくれた。とても大事そうに。
わ…!彼のこんな笑顔、初めて見た。何だかすごく、可愛い。こっちの笑顔の方が、本当に嬉しそうに見えて好き、だなぁ。
「みょうじさんにもらえるなんて思ってなかったわ。ほんまにおおきに」
「ううん、喜んでもらえて、私も嬉しいです」
「………なぁ、みょうじさん」
「は、はい」
「俺―――…心底、欲しいものがあんねん」
耳元で囁かれた"欲しいもの"には驚きを隠せなかったけど、私は大きく頷いたのです。そしたら彼はまたとても幸せそうに笑って、ありがとぉ!ってぎゅうっと抱きしめてくれました。
恥ずかしくて死にそうだけど、私がプレゼントもらっちゃったみたいな感じだけど、今、すっごく幸せ!
(あれ?志摩、そんなブレスレットつけてたか?)
(カッコイイでっしゃろ?プレゼントにもらってん!)
(志摩くんにピッタリだね!)