仕方がないから、

「うあー、暇っ!」

読んでいた雑誌をベッドの上に放り投げてひとりごちる。
今日分の課題はしっかり済ませてしまったし、友達と遊ぶ約束もしてないし、帰宅部である私は部活の予定も一切ない!バイトもしてないしなぁ。
はぁ、こんなことなら短期のバイトでも応募すれば良かったかも。今年はおばあちゃんの都合が悪くて、田舎には行かないーって言ってたし。

ごろり、と寝転がって、ふと目に入ったのはカレンダー。7月はあっという間に終了して、昨日から8月だ。
…ん?8月2日って何かあった気がするんだけど、何だったっけ?予定とか、そういうのじゃなくて…何かこう、イベント的な。
うーん?と首を捻って考えていると、終業式の時のとある会話が脳裏をよぎった。

『火神くんって誕生日、8月なんですか?』
『おー。8月2日』
『へー。んじゃ、夏休み真っ只中じゃん』

あぁ、そうか。今日って火神の誕生日か。そんな会話したことすら、今の今まで忘れてたよ。別にパーティするとか、会う約束してるとかじゃないから構わないんだろうけどさ。
でもそうか、誕生日か…。
チラッと見た時計は、もうすぐ正午を迎える。バスケ部は絶賛練習中だろうし、それも夕方もしくは夜までかかるだろう。
つまり、お昼ご飯を食べてから出かけたとしても、だ。プレゼントを買う時間はたっぷりあるわけだよワトソンくん。…一体、何キャラなんだ私は。

「…いっつも私の馬鹿話に付き合ってくれてるし、プレゼントの1つくらい、あげてもいいか」





時刻は夕方18時。さっすが夏だなぁ、まだまだ外は明るいよ。
結局私はあの後、さっさとお昼を済ませて火神の誕生日プレゼントを買いに行く為に街へと繰り出しました。…そして、出て早々問題発生。
何と私。アイツの好きなものまーったく知らないんだよね!!バスケくらいだよ好きだろうなーってわかるの!…まぁ、そんなの今更考えても仕方ないので、バスケ関連のもので探すことにしたんだけど。
ボールとかバッシュとかは持ってるだろうし(そして地味に高い)、練習用のジャージとかTシャツ!って思ったけど、サイズわかんなくて詰んだ。
それで最終的に見つけたのは、黒地に赤い線が入ったリストバンド。バスケやってるんならきっとリストバンドも使うだろうし、これならシックでカッコイイかも。悩みすぎてわからなくなってしまっていた私は即決して、お店を出た。

お店を出た後、何だか火神本人にメールする気にもなれず。連絡しないまま、学校へと向かってます。きっと学校で練習してると思うしね!してなかったら、その時はその時だ。
…とは思うものの、やっぱりせっかく買ったプレゼントを渡せないのは嫌だよなぁ、と思い直して、練習が終わったら即、正門に集合!ってメールをしてみた。

「…何だ、この可愛げのないメール…いや、可愛げを求められてるわけでもないけれど」

でももう少し何か言い方とかさ、あったよなぁと思いながらも、送ってしまったもんは仕方ないので大人しく待つことにした。
私服だから校内に入るのは何となく躊躇してしまって、校門の外の壁に背を向けてぼんやりと空を眺める。あー、空が赤く染まり始めてる。もう陽が沈む頃なんだなぁ。
ボケーッとしてると「みょうじ!」と呼ぶ声が聞こえた。それはいつも通りの元気なアイツの声。…でも、ちょっとだけ久しぶりな感じがするな。やっぱり。

「悪い!待たせたか?」
「いんや、だいじょーぶ。部活お疲れさん」
「おー、サンキュ!んで、どうしたんだよ?俺に用事あんだろ?」
「……ん。これあげる」

カバンの中から取り出した綺麗な包み。それはさっき買ったリストバンド。
誕生日プレゼントなんだ、と話したら、店員さんがめっちゃ綺麗に包んでくれたんだよね〜中身はリストバンド1つだけなのに。
それをぶっきらぼうに渡せば、本気で何だ?って顔で首傾げてる。…え、うそ、コイツ自分の誕生日忘れてんの?

「火神、今日誕生日なんでしょ?だから、あげる。……おめでと」
「えっマジで?!うっわ、めっちゃ嬉しい!サンキューみょうじ!」

嬉しそうに笑うその顔に、来年も祝ってあげてもいいかなーとか思ったのは、私だけの秘密だ。


(あ、体育館で誕生日祝ってくれんだって。お前も来ねぇ?)
(いいの?私、部外者だけど)
(別に平気だろ。それにこのまま帰すのもヤダ)