最後の定番のプレゼント

万くんの誕生日を祝うのは、これで何度目だろう。知り合った頃からの回数を指折り数えてみると、今回で何と7回目となっていた。そりゃあ誕生日プレゼントもネタ切れするわ…そう、今私は来週に控えた彼の誕生日にあげるプレゼントを探しに来ているのだけれど、もうあげすぎて何をあげたらいいのかわかんない。定番の財布とかキーケースとか時計とか、当たり障りがなくハズレもないものはもうあげてしまった。去年も悩みに悩んでケーキワンホールにして、その前は服だったっけ。
こうなったら今回は靴だろうか。でもさすがに靴は本人に試し履きしてもらわないと怖くて買えない。服はサイズさえわかっていれば、あまりタイトなものでない限り何とかイケるんだけどね。靴はサイズわかってても履き心地とかあるし、同じサイズでも靴の種類によってキツかったり緩かったりするのだ。本当、靴ばかりは履いてみないと何とも言えないのですよ。
というわけで、あげたいものが見つからなくて詰んだ。どうしよう。

「―――というわけなのだよ。どうしよう、百ちゃん、千ちゃん」
「それをオレ達に聞いちゃうの、なまえさん…」
「聞いちゃうの。つき合い長いでしょ?」
「それはなまえだって同じだろ?Re:valeがインディーズの頃からのつき合いなんだから」
「そうなんだけど、…ほら、男同士だとまた違うじゃん」

違うって何が?!
百ちゃんの的確なツッコミが入り、千ちゃんが吹き出した。この子、相変わらず笑いのツボが浅いっていうか意味不明っていうか…変な所で笑うんだよね。こういう所は昔から変わっていないと思う。

「そういえばなまえは、万に告白しないの?」
「こっ…?!」
「もう片思いして大分長いでしょ。それこそ、僕達が知り合ってからと同じ年数くらい?」
「えっなまえさんがバンさんを好きなのは知ってたけど、そんなに?!」

あ、何か話があらぬ方向へと向かっている気がする。残り少なくなっていたグラスの中身を一気に飲み干し、店員さんに飲み物とおつまみを追加注文しながら内心、冷や汗ダラダラです。だってまっさかそっちに話が飛ぶとは思わないじゃん!まぁ、万くんの話題を出してしまったらその話になるのは自然な流れなのかもしれないけれども!!
白熱トークを繰り広げる2人に、溜息をつきたくなってしまったのは仕方がないと思うんだ。何で本人を余所に大盛り上がりなんだ、君達は。
千ちゃんの言う通り、私は万くんに絶賛片思い中。片思い歴=知り合ってからの年数なので、実は一目惚れだったりする。一目惚れって本当にあるんだよ、都市伝説じゃないんだよ!私も初体験した時はマジか!すごい!!ってなったけど。

「告白かぁ…考えたことなかったなぁ」
「何で?バンさんとつき合いたいとか思ったことないの?」
「なくはないけど、OKしてもらえなかったらもう気まずさ大爆発じゃん。関係ぶっ壊れるじゃん」
「意外。そういうの怖がる質なんだ」
「千ちゃんは私のことを何だと思ってるんだ」
「物怖じしない物好き。」
「あ、それはちょっとわかるかも」
「百ちゃんまで?!」

なんかもう色々と解せないよ。トップアイドルである2人を叩きたくはないけど、昔のノリで手が出そうになるよ。つーか、相変わらず容赦ないなぁ千ちゃん。いいけど、慣れてるし。そして私の悩み相談はどこにいったんだ、勝手に始めただけではあるけどさ。本気で悩んでるんだから、アドバイスの1つや2つくれてもいいと思うんですよねー。
追加で頼んでいたレモンサワーをちびちび飲みながら、心の中で悪態をつく。ハッキリ言ってもいいんだけど、またもや白熱トークが始まっちゃったもんだから(これまた当人を置いてきぼりで)黙ってるしかないのです。そして万くんへの誕生日プレゼントを何か思いついたらしい百ちゃんがパッと顔を輝かせて、勢い良くこっちを向いた。本気の本気で困っていた私は耳を傾けたのだけれど、すぐに驚きで叫ぶ羽目になったとさ。





「…で、真に受けてそのままやって来たってこと?」

そして今、私の前には誕生日だというのに困り果てた表情を浮かべた万くんがいます。ちなみにここ、万くんの自宅です。仕事終わりに押しかけました。

そして―――バカップルには定番らしい『私がプレゼント!』(頭にリボン)をバカ正直にやりました。百ちゃん案です。

ご本人は名案!って笑ってたけど、実際にやってみると名案でも何でもねーや。そもそも、つき合ってない万くんにこれやってもドン引きされるだけじゃんかよ。酔っ払いの提案にノッちゃう酔っ払い怖い。はい、私のことです。

「もー本気の本気で思い浮かばなくて、それで2人に相談して…」
「そこでユキに相談しちゃったのが運の尽きだよね、なまえの。まぁ、発案者は百くんみたいだけどさ」
「冷静になるとめっちゃ恥ずかしいね…聞いた時はなにそれ天才!!って思ったけど」
「酔っ払いの思考回路は鈍ってるからね」
「痛感したわ…あ、はい。これケーキ」
「ありがと。なまえの好きなお店のやつじゃない。あとで一緒に食べようか」

ケーキが2つ入った小さな箱を受け取った万くんは、冷蔵庫にしまう為キッチンへと消えていく。その背中を見送り、リボンをしゅるりと解いた。これ以上、恥を晒すことはできない…!
百ちゃんと千ちゃんにはあとで苦情のメッセージを入れておこう。きっと千ちゃんの入れ知恵でもあるんだろうから。

「あれ?リボン、解いちゃったの?」
「え?うん。だって恥ずかしいじゃんか」
「否定はしないけど、俺に解かせてくれるのかと思った」

…………はい?

「だって俺へのプレゼントなんでしょ?」
「うん……?」
「それってつまり、俺のものってことじゃない」
「う、うん……」
「だから結んであったリボンは俺が、」
「ねぇ万くん酔ってるの?!!」
「酔ってないよ。疲れてはいるけど」

じゃあ疲れからくる発言ってやつですか?!それって本気で言ってる?それとも私をからかう為に言ってる?どっち?!いや、疲れからくる発言なら…からかう為、か?万くんって意外とそういう所あるし。
…そうだ、昔っから私をからかって楽しむような人だ。そういう一面がある人だ。つまり、真に受けてはいけないってやつ。うんうん、と1人納得して頷きを繰り返す。だから気が付かなかったんだ、いつの間にか万くんが距離を詰めていたなんて。

「ぅ、わ…?!ば、万くん?」
「ねぇ、なまえ。もらっていいんでしょ?俺へのプレゼントだもんね?」
「え、いや、あの…!か、からかうのもそこまでにして頂かないと」

―――色々、パンクするぞ。私。

「からかってないんだけどなぁ」

するり、と万くんの大きな手が私の頬に触れる。その手は温かくて、安心できて、でも…ドキドキして。緊張でビシッと固まった私を見て、彼はフッと笑って、でも触れた手はそのままだ。離してくれる様子もないし、更に距離を詰めてきて逃げ場がなくなる。
無意識に後退りをして、気がつけば背中がトンッと壁にぶつかった。あ、これ本当にもう逃げ場がなくなった…!

「ば、んく、」
「うん、ちょっと黙ってね」

チュ、と唇が重なる。すぐに離れて、また重なって―――もう何が何だかわからない。
私の身に今、一体なにが起きているというのだろうか。

「百くんの提案で、君の意思が一番じゃなかったことはちょっと癪だけど…でも嬉しいんだよ、一番ほしいものがもらえて」
「え…?」
「なまえ。―――どうして百くんの提案を、受け入れてくれたの?」

至近距離で万くんが微笑んだ。それはもう、全てをわかっているような笑み。わかってて聞くなんて、やっぱり万くんは意地悪だと思う。

「すき、」
「うん」
「万くんが好き。好きだよ」
「ありがと。俺もなまえが好きだよ」