想いを、ありったけ!

彼の誕生日を教えてくれたのは、悟空でした。それが確か、出会って初めての誕生日で…でも知ったのが当日だったからそんなに凝ったものは用意できなかったんですよね。だから来年こそはもっと凝ったものを、と意気込んで。
…けど、おめでとうございますと言われた彼が…少しだけ辛そうに笑っていたのは、今でも色濃く記憶に残ってるんです。あの時はどうしてそんな風に笑うのだろう、と思っていたのだけれど、今なら、彼の過去を知った今ならわかるんです。その笑顔の理由が。





「あ、…」

受付でふと目に入ったカレンダー。思わず出てしまった声は、いつも通りの悟浄くんと悟空の元気な声にかき消されて誰の耳にも入らなかったみたい。それにホッと息を吐いて、もう一度カレンダーに目を向ける。この旅を始めてから時間とか、日付を気にしなくなってきていたから全然気がついてませんでした…今日は八戒くんの、誕生日なんですね。
きっと彼自身もあまり気にしてはいないでしょうけれど、今でも祝われるのは辛いかもしれませんけど…それでもやっぱり、愛しい方の誕生日ですもの。心からおめでとう、って言ってあげたいなぁ。
嫌がるかもしれない、悲しむかもしれない。…でも彼は今、確かにこの場所で生きているんです。そのことに感謝したいって思うし、生まれてきてくれてありがとう、って思うから。

「なまえ?部屋取れましたから、行きましょう」
「あっはい!」

にっこりと手招きをされて、八戒くんの背を追う。彼の背中を見つめながら何をプレゼントしよう、と思考を巡らせる。さっきから考えているのはそればかりだ、何をあげれば喜んでくれるだろう・笑ってくれるだろうって。
本当はね、優しい八戒くんのことだから何をプレゼントしても喜んでくれるような気がするんです。ありがとうございます、って言ってくれるような気はしてるんです。でもね、やっぱり心から喜んでもらいたいなぁって思う気持ちが強くて。そんなものを、あげたいなぁって思うんだ。

…とは言っても、私は八戒くんが何が好きなのかよく知らなかったりするんですけど。そりゃあ一緒に住んでいましたし、付き合いもそこそこ長い方だと思ってますけど…あの方、悟浄くん達みたいに特別これが好き!ってものがないように感じちゃうんです。
お酒は強いけど、そこまで好んで飲んではいないし、コーヒーマニアというわけでもない。本はよく読んでいましたけど、…好きなジャンルまではわかりません。何でも読んでいましたし。料理関係のものを旅先でプレゼントした所で、ただ邪魔になるだけですしねぇ。洋服や靴はサイズがわかりませんし、アクセサリーはつけている所を見たことがありません。
…マズイ、どん詰まりってやつですね。これ。

「とりあえず町に出てみれば、と思ったけれど…」

キョロキョロと露店やたくさんのお店を見て回ってみるけれど、何だかピンとくるものがない。素敵なものはたくさんあるんだけどなぁ…去年も思いましたけど、誰かへのプレゼント選びがこんなにも大変なものだとは思わなかった。今思い出してみると、家族へのプレゼントだってお花ばかりをあげていましたもんねぇ。こんな風に悩んで何かを買う、ってことをしたのは、彼らに出会ってからでした。
大変だし、毎年悩んでしまうのだけれど、…でもどこか楽しくて、胸が踊るような感覚があるのはどうしてなんでしょう。喜んでくれるかなとか、笑ってくれるかなとか、そんなことを考えながらプレゼントを選ぶのは―――うん、やっぱり楽しいかもしれません。悩むけど。どうしても悩んじゃうけど。

『悩むのは、相手のことを本気で考えてるからじゃねーの?』

ふっと悟浄くんの言葉を思い出しました。そういえば、2回目の誕生日の時、何をあげたらいいか悩んでる私にそう言ってくれたんですよね。大切に思っているから、だから喜んでほしくて悩むんじゃないのかって。俺もそんな経験ねーから勘みてぇなもんだけど、って苦笑しながら…だけど、彼の言葉はすとんと胸に落ちてきて、それですんなり納得した記憶があります。

「ふふ、でも悟浄くんの言葉は間違ってないですよねぇ」

八戒くんのことも、悟浄くんのことも、悟空のことも、三蔵様のことも…大好きで、大切だ。だからせっかくあげるなら喜んでもらいたいし、笑ってもらいたいって思う。そう思うからプレゼントはいつも真剣に悩んでしまうのです。きっと妥協を、したくないのでしょうね。適当に選んだものを渡したくないんだと思います。

さて、そうは言ってもずっと悩んでいられるわけではない。あまり遅くなってしまったら心配をかけてしまうし、夕食の時間までにはどうしても戻りたいですもん。
どうしたものか、とまた辺りのお店を見て回り始める。手あたり次第に覗いていって、もうこれ以上はお店もないぞって所まで来た時、たくさんの石やチャームが所狭しと並べられている露店を見つけたんです。太陽の光を浴びてキラキラと輝くソレはとても綺麗で、思わず目を奪われる。
じっと見ていると、店主である女性に綺麗でしょう、と声をかけられてしまいました。突然のことでびっくりして僅かに肩が震えたけれど、同意を示すように頷きだけを返す。

「好きな石とチャームを1つずつ選んで、アクセサリーやキーホルダーを作ることができるんですよ」
「そうなんですか?」
「ええ。恋人同士でお揃いで作られる方もいらっしゃいますね」
「へぇ…」

少し時間はかかるけど、プレートの裏に名前や好きな言葉を彫ることもできますよ、と教えてくださいました。
その時、何故かわからないけれど私はこれだ!と思ってしまったんですよね。あの方にこれをプレゼントしよう、って。

「すみません、1つお願いしたいんですけど…」
「まぁ、ありがとうございます!彼氏さんにですか?」
「へっ?!え、い、いや、彼氏じゃないです…!私が勝手に、想いを寄せている、だけで、」
「…ふふっお客さん、顔が真っ赤です。その人のことがよっぽど好きなんですね」
「ッ!」
「好きな方へのプレゼントでしたら…ローズクォーツが一般的ではありますね」

愛を司る石なんですよ、と教えて頂きましたけど、これを贈るのはさすがに恥ずかしいかも…私は貴方が好きです、と言っているようなものですし。それは非常にマズイと思うんです、私にとっても彼にとっても。だからできれば、彼自身を守ってくれるような…そう、幸運を招いてくれるような、そんな意味を持つ石がいいですよね。
そういう石があるか聞いてみれば、でしたらオパールがオススメです、と。実際にその石を見せてもらうと、白っぽい色で…でもとても綺麗だった。あまり派手な色ではないし、八戒くんに似合いそうだなぁって直感的に、そう思ったんです。
よし、石はこれにしよう。あとは一緒につけるチャームですけど…どれにしよう。イメージ的に鍵か十字架、ですよねぇ?もしくはクローバーだけど、…うん、彼のイメージだとやっぱり十字架かな。

「ではこちらでお作りしますね。アクセサリーとキーホルダー、どちらになさいます?」
「えっと…じゃあアクセサリーで。ネックレスでお願いします」
「かしこまりました。5分少々、お待ちくださいね」

組み立てている間は暇なので、商品である石やチャームを眺めていることにした。でも本当にたくさんの種類があるんだなぁ…いくつかは知っているものがあるけれど、石に関してはほとんど知らないものだし。

「…石が持つ意味を調べてみるの、面白そう」

さっき店主の女性が、石にはそれぞれ意味があるんですよって言っていたから、本屋や図書館に行く機会があったらそういう本を探してみることにしよう。花言葉は聞いたことがあるから知っていましたけど、石にもあったなんて初耳でした。…そういえば、お酒―――というか、カクテルにも意味があるんだよって前に誰かから聞いたことがあったような気がします。告白に使えるカクテルなどがあるんです、って。

ぼんやりと眺めながら考えていると、5分はあっという間に経っていたようで。完成したアクセサリーはプレゼント用に包装されていて、ちょっとだけビックリしちゃいました。でもこの気遣いは有難いかもしれません。支払いを済ませ、店主の女性にお礼を告げてから私は急いで宿へと向かう。





騒がしい―――もとい、賑やかな夕食を終えて私達は割り振られた部屋へと戻ってきました。
今回は大部屋ではなく、2人部屋と3人部屋がそれぞれ1つずつ。部屋割りは八戒くん・三蔵様・私と、悟浄くんと悟空で分かれたんですけど…絶対、あの2人を一緒にするとうるさくなっちゃうんですよねぇ。でもこれが一番最善の部屋割、なのかなぁ?
…欲を言えば、八戒くんと2人部屋だと有難かったんですが、そうすると三蔵様の機嫌が最悪になってしまいますから。

「風呂に行ってくる」
「はいはい、いってらっしゃい三蔵」
「…八戒くんは行かないんですか?」
「僕はもう少ししてから行きますよ。貴方こそいいんですか?この宿のお風呂、大きいみたいですけど」
「んー…用事を済ませたら、いってきます」

用事?と首を傾げる八戒くんににっこり笑みを向けて、昼間のうちに買っておいたプレゼントを取り出した。どうぞ、と差し出せば、更にきょとんとした表情になってすごく可愛らしい。ふふっ八戒くんがこんな顔するなんて、珍しいですよね。

「…これは?」
「やっぱり気がつかれてませんでした?…誕生日、おめでとうございます八戒くん」
「!…そうか、今日って」
「旅に出てからは日付感覚ないですもんね、仕方ないです」
「あはは、確かにそうですよね。…昼間、いないと思ったらこれを買いに?」
「はい。悩んじゃって時間がかかってしまいましたけど」

ふんわりと笑ってありがとうございます、と受け取って頂けて、ホッとしました。いらないって言われちゃったらどうしようって、思っていましたからね。

「おめでとうって言われるの、辛いかもしれないって思ったんですけど…でもやっぱり伝えたくて」
「ああ…花喃のこと、気にしてくださっていたんですね」
「―――ねぇ、八戒くん」
「はい?何ですか、なまえ」
「私、…私ね?貴方が生まれてきてくれて、今ここにいてくれて、すごく嬉しいです。生まれてきてくれて…ありがとう」

ギュッと手を握ってそう伝えれば、一瞬だけ驚いた表情になって、でもすぐ嬉しそうに笑ってくれました。その笑顔は初めて誕生日を祝った時のような辛そうな笑顔では、なかったんです。
彼の心に刻まれた傷が癒えたわけではないだろうけれど、それでもこうやって笑えるようになったのなら…良かったです。

「プレゼント開けてみてもいいですか?」
「え、あ、…はい。目の前で開けられるのってちょっと恥ずかしいですね」
「ネックレス…?」
「町で露店を見つけたんです。好きな石とチャームを選んで、作ってもらえるんですよ」
「僕には似合わない気もしますが、」
「そんなことないです!八戒くんに似合いそう、って思って選んだんですから!…貸してください」
「へ?」

つけてあげますから、と半ば奪うようにネックレスを受け取って、彼の後ろに回る。ちょうどさっき上着を脱いでいらっしゃったのでつけやすいですね…ん、よし、できました。
,
「やっぱり。よく似合います」
「なまえ、貴方って人は―――…」

はぁ、と大きな溜息を吐いて、片手で顔を覆ってしまった八戒くん。どんな表情をしているのか全くわからないけれど、でも耳が赤くなっているのが見えるから…照れてる、のかなぁ?んーと、察しづらいけど…嫌がっている感じではない気がします。じゃあ喜んでもらえてるのか、と言えば、あの、それもまた微妙な感じなんですけれど。
無理矢理に感想を聞くのも良くないだろう、とそのまま黙って待っていると、ずっと顔を手で覆って俯いていた八戒くんが、手を外して顔を上げた。

「―――ありがとう、ございます…嬉しいです。大切にしますね」
「ッ、は、っかい、」
「なまえ、…僕も貴方に出会えて良かったです」

その言葉はお礼よりも、何よりも、嬉しい一言。