シュガーソング

学校の帰り道にある、小さな洋菓子屋さん。そこのショーケースにはいつでも、可愛らしくてとても美味しそうなケーキやプリンが並べられている。美味しそうだなぁ、と通る度に思うんだけど、1人で食べるのは少し淋しくて。両親は帰りが遅いし、友人達は全くの逆方向だ。よって、一緒に食べてくれる人がいなくて素通りしてしまっている。
別に1人だと食べられない、ってわけでもないけど、ほら、感想を誰とも共有できないのって淋しいじゃない?せっかく美味しいものを食べるなら、誰かとその感想と思いを共有したいって思うんだもの。いや、それを友人に話して後日一緒に行く、っていうのも1つの手なんだろうけど―――そんなことを考えながら、今日も件の洋菓子店の前を通りかかる。すると、そこには1人の男の子が中をじっと見つめるようにして立っていた。

(あれ、ウチの制服……あ、同じクラスの兵頭くんだ)

ショーケースを外からじっと見つめているのは、1年の時から同じクラスの兵頭くんだった。見た目こそ不良っぽくて怖いけど、いざ話してみるとそんなこと全然ないんだよね。不器用だとは思うし、多分、愛想も悪いとは思うんだけどさ。でも話しかければ反応が返ってくるし、理不尽な暴力を振るわれることもないのです。人は見かけによらない、と言うけれど、あれはあながち間違っていないのかもしれない。

「―――甘いもの、好きなの?」
「ッ!…みょうじ」
「こんにちは、兵頭くん。今、帰り?」
「…ああ。お前もか?」
「うん。ちなみにこの道、通学路なの」

いらない情報だなぁ、と思いつつも、気がつけば口をついて出ていた。そうなのか、と返事は返ってきたけど、彼の視線はいつの間にか私から店内のショーケースへと戻っている。
うん、本人は何も言っていないけれど甘いものが好きなんだな。また知らない一面を知ることができたかも。

「兵頭くんは何が好き?」
「甘いものならなんで、―――いや、何でもねぇ。帰る」

―――ガシッ

「まぁ、待ちたまえよ。兵頭くん」
「…何キャラだ、それ」
「あはは。細かいことは気にしないで」

せっかくだ。ここは甘いもの好き(であろう)の彼を巻き込んでしまおうじゃないか。
毎日通っているから知っている、この洋菓子店の奥にはひっそりとカフェスペースが設けられているのです。時々、そこでケーキを食べている奥様方や学生達を見かけるし。道路側に面している席もあるけど、奥の席に座ってしまえば表からは見えないし。そこだったら兵頭くんも気兼ねなくケーキを食べられると思うんだよね。

「おい、みょうじ…!」
「毎日通るからずっと気になってたんだけど、1人で入る勇気がなかったの。本当に嫌じゃなかったらつき合ってほしいな」
「う、…」
「兵頭くん?」
「……仕方ねぇからつき合ってやる」

ドアを開ければカラン、と鐘が鳴り、奥からいらっしゃいませーと言いながらにこやかな女性が顔を出した。

「どれも美味しそう…」
「みょうじはどんなのが好きなんだ?」
「私?私はチョコ系が好きかなぁ。あ、チョコレートタルトがある…!」

でも王道のショートケーキも美味しそうで迷ってしまう。兵頭くんは何にするんだろう。チラッと隣に立つ彼を見て見ると、僅かに表情を緩ませてショーケースをガン見していた。わぁ、レアな表情。写真撮りたいけど、撮ったら絶対怒られるやつだよね。我慢しよう、我慢。
再びショーケースに視線を戻そうとした時、彼の視線が一点で止まっていることに気がついた。いちごのショートケーキ。彼の心はこのケーキに射止められたらしい。そのまま視線が動く気配もないし、きっとこれが食べたいと推測して間違いはないと思う。

「すみませーん。チョコレートタルトとショートケーキを1つずつ、それからアイスティーと…兵頭くんは飲み物どうする?」
「あ、…じゃあアンタと同じやつで」
「アイスティー2つでお願いします」
「カフェのご利用でよろしいですか?」
「はい」
「かしこまりました」

ポカン、としている兵頭くんを尻目に、淡々と注文と清算まで済ませた。そこでようやく我に返ったのか、慌ててパンツの後ろポケットから財布を取り出しているのが見える。お金を取り出そうとしている彼を手だけで制し、注文したケーキと飲み物が載せられたトレイを受け取った。

「おい、みょうじ…」
「いいの、いいの。今日さ、兵頭くんの誕生日なんでしょ?」
「何で知って、」
「後輩の七尾くんが嬉しそうに教えてくれた」
「太一…」
「でも知ったのが今日で、どうしようかなぁって思ってたんだけど…グッドタイミングだったね」

そう、そうなのだ。本日は兵頭くんの誕生日だったらしいのです。めちゃくちゃ仲が良いってわけではないけれど、挨拶はするし、世間話をすることだって少なくない。それに他校の不良に絡まれているのを助けてもらったことだってある。そんな恩人の誕生日だと聞けば、お祝いしたいなぁって思うじゃない。
でも如何せん、七尾くんから誕生日のことを聞いたのは今日のお昼休み。偶然会った彼がとてもご機嫌だったから、理由を聞いてみたら兵頭くんが誕生日だってことを教えてもらったわけですよ。でもそこからプレゼントを探すとなると週明けになっちゃうし、どうしたもんかなー…って思ってたんだ。そうしたら気になっている洋菓子店の前に、まさかの張本人がいるという、ね!

「だから、プレゼント。嫌じゃなければ受け取ってほしいな」
「…悪い、気を遣わせた」
「ダメだよ、兵頭くん」
「あ?」
「こういう時、欲しいのは謝罪じゃないんだよ。はい、やり直しー」
「あ、…あり、がとう」
「ふふっうん、どういたしまして!」

一緒に食べたケーキは、今までで一番おいしい気がした。