カチコチ、と時計が時間を刻む。あと5分…あと3分…あと1分……カチリ、と長針と短針が重なり、0時になったことを知らせてくれる。日が変わった、今日は―――10月12日。恋人である龍の誕生日。…とはいえ、彼は東京にいて私は生まれ故郷である沖縄在住なので、直接お祝いなんてできやしないんだけど。
それでもメッセージだけは残したくて、0時になるのと同時に『Happy Birthday!』というプレートを持ったうさぎのスタンプを送った。仮にも恋人の誕生日メッセージなのに、スタンプ1つで済ませるとかどうなのって我ながら思うけれども、0時きっかりに送るにはそれが一番手っ取り早いのだ。ちゃんとしたメッセージは手紙にしたため、プレゼントと共に東京へ郵送したもの。
(つき合って初めての誕生日なのに、直接お祝いできないなんて…)
当初は私が泊まりで東京へ行く予定だった。飛行機のチケットも予約したし、仕事の休みももぎ取った。龍の家に滞在することも許可をもらっていたし、あとは飛び立つだけ…だったのだけれど、直前になって龍に地方ロケの仕事が入ってしまったのです。
でもさすがに仕事を断って私といて、なんて言えるわけもないので、電話の向こうでしゅんとしているであろう龍に大丈夫だよ、と努めて明るく言う他、術はなかった。そこまでわがままは言いたくないもんね。…淋しいは、淋しいけど。無理矢理行くことだってできたけど、肝心の龍がいないんじゃ何の意味もないから。
「来年はお祝いできるかなぁ…」
既読のつかないラビチャを閉じ、スマホをベッドに放り投げながら独り言ちる。いや、仕事があるのはいいことじゃないか。龍が求められているという証拠だし、何より頑張っている姿をテレビで見られるのは何よりも嬉しいし楽しい。…と、常々思うようにはしているものの、そんな簡単に割り切れる程、私は優しくないし出来た人間でもないのです。だって恋人のことは、いつだって独占したい。誰にも渡したくない、と思っているんだから。
よし、どんどんドツボにハマッてきたし寝てしまおう。きっと明日には既読マークがついているだろうし、運が良ければ返信がくるかもしれないもんね!誕生日プレゼントだって近いうちに届くだろうし、そうすれば律儀な龍はありがとうってメッセージをくれるはずだから。だから今日はさっさと寝て、いつかくるであろう連絡を大人しく待つことにする。
電気を消しもぞもぞと布団に潜りこんだ時、サイドボードに置いたスマホがヴーッヴーッと震え出した。ビクッと体が揺れたのは致し方ないと思う…!誰だよ、こんな時間に!!それもラビチャじゃなくて電話、だ、し……?!画面に表示されている名前を見て、思わず固まった。数秒固まり、ハッと我に返るのと通話ボタンを押すのはほぼ同時だったんじゃないだろうか。
「もっもしもし!」
『あ、良かった。もう寝ちゃったかな、と思ったんだけど…』
「今、寝ようとしてたとこ…」
『あはは。じゃあギリギリセーフだったんだね。…ねぇ、なまえ』
「ん?」
『君の家の近くまで来てるんだ、って言ったら…引く?』
…は?一体、何を言っているんだろう。この人は。
私の記憶が間違っていなければ、龍は一昨日から明日まで地方ロケに行っているはずなんだ。つまり、沖縄に来れるはずもない。でも心配になる程に真っ直ぐな龍にそんな嘘がつけるとは思えない。というか、こういうのはあまり好まないと思っているし。
ええっと、…マジで来てるのか?すぐそこまで?こんな夜中に?!そこに至るまで数秒、そして電話を繋いだまま私は家を飛び出した。部屋着のままだとか、鍵も開けっぱなしだとか、気にしている余裕なんてない。だって、だって本当に龍が来ているなら―――今すぐ会いたい。階段を駆け下りてアパートの入口に辿り着くと、そこにはへらりと笑顔を浮かべている恋人の姿があった。
「ごめんね、なまえ。こんな時間に」
「な、…なにしてるのよ龍っ!明日まで地方ロケで泊まりだ、って」
「うん。でも早く終わってさ、今日と明日は珍しく連続のオフになったんだ」
「ええええ…」
「気がついたら沖縄行き最終の飛行機のチケット買ってて、…さっき着いたとこ」
どうしても今日、なまえと過ごしたくて。
そう言って笑う龍の胸に、私は無言で飛び込んだ。それでもガタイのいい彼の体はびくともしなくて、「おっと」なんて言ってるけど難なく受け止められてるからね?私。
「龍、龍〜〜〜…!」
「珍しい。泣いてるのか?なまえ」
「泣くに決まってるでしょ、こんなの!!も〜…龍の誕生日なのに、私がサプライズされてどうすんのよ」
「いいじゃない。俺も嬉しいから」
「こんなことならプレゼント送らなければ良かった…」
「それは帰ってからのお楽しみにする。だから今は―――」
耳元で囁かれた言葉に、私は真っ赤になりつつも頷いた。