何度でもあなたの隣で

キャプテンと出会って、一緒に旅をするようになって、この人の誕生日を祝うのはもう何度目だろう。
私が初めてキャプテンの誕生日を祝ったのは、もう10年前になると思う。あの人も私もまだ子供で、でも誕生日を知ってしまったからには祝いたい!と強請るペンくんとシャッちゃんとベポくんに負けて、大人しく祝われていたのが最初。でもその時はプレゼントもごちそうもケーキも、なにひとつ用意できなかったんだよね。2人と1匹はごめんねって言いながら、それでも誕生日おめでとうって、生まれてきてくれてありがとう笑って―――キャプテンは、くすぐったそうに…そして困ったような笑みを浮かべていた。
私はあの表情と、ボソリと呟かれた言葉を今でも忘れられずにいる。





「キャプテーン飲んでるっすか〜?!」
「ああ飲んでるよ、しっかりな」
「へへっ今日はめでたい日ですからね!」
「…酒が飲みたいだけだろ」
「ンなわけないじゃないっすかぁ!我らがキャプテンの生まれた日っすよー?!」

本日の主役であるキャプテンの周りには、いつも以上に上機嫌なクルーの姿。そして入れ代わり立ち代わり、おめでとうございますの言葉とプレゼントを渡していくのです。クルー全員の誕生日を祝うウチの船だけれど、キャプテンの誕生日はそれはもう、全員の気合の入れようが違う。毎年、あの手この手でキャプテンを喜ばせよう・笑わせようと必死にプランを練っていたりするのだ。ペンくんとシャッちゃんを中心に。
私だってその輪の中には当然いるし、あの人を喜ばせたい気持ちは一緒なんだけど…キャプテン達に出会うまでこんなことしたことがなかったから、如何せん知識がないんだよね。どうしたらいいのかがわからない。それでも毎年開かれているから知識の量としては増えていってるんだけど、でも次の年にはもう使えない手段なわけで…結局、今までに一度もいい案を出すことができずにいる。
私の出した案で喜んでくれたら嬉しくてきっと泣きたくなるんだろうけど、今のままでも十分嬉しいって思えているからいいのかなって。だって、キャプテンの表情が穏やかだから。

「今年も大成功かなぁ」
「ああ。何だかんだ言って楽しんでくれているみたいだからな」
「宴の前はあんなに呆れ顔だったのにね」
「毎年やってるんだから、いい加減に諦めてくれりゃいいんだけどなぁ」

苦笑を浮かべたペンくんは、ジョッキの中身を一気に飲み干した。本当、その通りなんだよねぇ…もうキャプテンの誕生日を祝う宴を開くのは決まりきっていることなんだから、そろそろ諦めてお小言と呆れ顔は引っ込めてくれればいいと思うんですよ。どれだけお小言を言われても、大好きで仕方がないキャプテンの誕生日を祝わないなんていう選択肢はクルーの中には存在しないんだもん。
きっとキャプテンもわかっていないわけじゃないと思うんだ。でも何となく、言わないとどうしようもないんだろうなって最近は思うんです。これは私の推測でしかないけど、あのお小言と呆れ顔は照れ隠しだと思うんだよね。あの人はそういう人だから。ししっと笑みを零せば、欄干に寄り掛かっていたペンくんがどうした?と視線を寄越す。

「我らがキャプテンは、可愛い人だなぁって思って」
「くっ…はは!船長のことをそう言えるのは多分、お前だけだよ」
「だって可愛いじゃん。毎年、照れ隠しするんだよ?キャプテン」
「まぁな、……それでもやっぱり、可愛いなんて表現はできねぇって」

キャプテンはカッコイイ。それはもうとてつもなくカッコ良くて、世界中捜してもあの人以上にカッコイイ人なんて存在してないんじゃないの、ってくらいだ。それが盲目だと言われることはよーくわかってるけれど、私にとって―――いや、私達にとっては唯一無二の人だから。
でも、いつだってカッコイイ人にだって可愛い部分はひとつくらい存在しているものなんだよ。それを皆に話してみても、決まって返ってくるのはさっきのペンくんのような返事なんだけどさ。

「ほら、いい加減になまえもキャプテンの所へ行ってこい」
「うんっそうする!」

左手に飲みかけのジョッキ、右手にキャプテンへのプレゼントを持って立ち上がる。さっきまではあんなに賑やかだったのに、キャプテンの周りには酔いつぶれて甲板に寝転がっているクルー達の姿がありました。その中でいまだに涼しい顔で飲み続けてるキャプテン…見慣れているとはいえ、いつ見ても異様な光景だなぁコレ。
誕生日を祝う宴で私がキャプテンの所へ行くのは、大体終盤に差し掛かった頃だ。それまでは料理を食べたり、お酒を飲んだり、一発芸を披露するクルーを見てゲラゲラ笑い転げたり、薄らと笑みを浮かべるキャプテンの姿を遠くから眺めたりして過ごしている。
本当は一番に飛んでいきたい所なんだけど、キャプテンにおめでとうって言いたいのもプレゼントを渡したいのも、それから話をしたいのもみーんな一緒だから。クルーが増えていくのと比例するかのように、私はキャプテンの所へ行くのを自然と後回し―――って言うのはおかしいけど―――にするようになったんだよね。今ではそれが当たり前になっている。

「キャープテン!」
「…なまえか」
「にししっおめでとうございます、キャプテン」
「ああ」
「はい、これは恒例のプレゼントね」
「毎年毎年、律儀なもんだな…お前も、こいつらも」

そりゃあ敬愛するキャプテンの誕生日ですもの。絶対に宴は開くし、ひとりひとりプレゼントだって用意しますって!

「開けていいのか」
「いいけど、…私のが一番最初でいいの?いっぱいもらったでしょ」
「毎年、一番最初に開けてるのはお前からもらったやつだ」
「そっ………うですか」

ガサガサと袋を開けながらとんでもないセリフを吐きやがったな、この人。お酒によってもたらされた熱とは確実に違うモノが、じわじわと顔を染めていく気がした。うっわ、あっつ……!こうやって突然、飴を放り投げるのやめようよ…本当にもう。
そんな文句を心の中でつらつらと並べつつも、顔はニヤけちゃうんだから嫌になるよね。私、こんなにも顔に出やすいタイプだったっけなぁ。昔はもっと、ポーカーフェイスが得意なはずだったんだけど。
ちびちびとお酒を飲みながら、一向に何も反応を示さない・言葉も発しないキャプテンへ視線を向けた。彼の手には私がプレゼントした薄い青色のブレスレットが握られている。それを月の光にかざし、じっと見つめている横顔は…終始穏やかだ。

「…珍しいチョイスだな」
「あい?」
「お前は毎年、よくわからねぇもんを寄越してきただろ」
「そうだったっけ…?」


首を傾げて記憶を辿ってみる。初めてあげたのはそこら辺の原っぱで摘んだ名前も知らない花でー…それからベポくんの換毛期で抜けた毛をしっかり消毒・乾燥させて作ったミニベポくんでしょ、それからそれからもっふもふのクッションや部屋着、ええっと…真っ赤なバラの花束をあげたこともあったっけ。
…思い出してみたものの、そんなに変なものあげてたのかな?これ。

「あ、キャプテンの顔面にパイ投げつけたこともあったね」
「それがプレゼントだと聞いた時は、怒りを通り越して呆れた」
「いや〜…面白いかな、って思ったら、つい」
「プレゼントに面白さはいらねぇんだよ」

うん、あの時も同じこと言われた。そして十分に呆れたらしい彼は、沸々と怒りが戻ってきたらしく脳天に拳骨を落としやがりました。それでも怒りが収まらなかったらしく、首を斬り落とされましたよね。もちろん、能力で。能力なしでやられたらさすがに死んじゃうよ、私。
顔面パイ投げは、それっきりキャプテンにはしてない。シャッちゃんにはやったけど。そんなことがあったもんだから、今回のプレゼントは意外すぎるチョイスだったそうです。ブレスレットを腕に嵌め、再び月の光にかざしたキャプテンは―――満足気な笑みを浮かべていた。

「…気に入った」
「それなら良かったです」
「ありがとな」
「いーえ。…生まれてきてくれてありがとう、キャプテン」

貴方が、…何を考えているのか。何をしようとしているのか。どんな過去を歩んできたのか。私はそれを知らない、この先もきっと知ることはないだろう。でも、それでも願いたいんだ。どうか貴方を守ってくれるように、来年もまたこうして祝えますようにって。
そんな願いを、ブレスレットにただひたすらに込めて―――愛しいキャプテン、貴方へ。



―――生まれてきてくれてありがとうなんて、…
久しぶりに言われた