拾われ猫


「じゃあ帰ります。お疲れ様、鵠さん」
「お疲れさまです、ほたるさん。気を付けてくださいね」


お店を出て時計を確認してみれば、時刻はすでに夜中の2時を回っていた。あーあ、そりゃお腹も空くし眠気もくるはずよね…仕事している間は意外と大丈夫だけど、全て終わってしまうと空腹感とか眠気とかくるから困っちゃう。コンビニで何か買っていこうかな、寒いし肉まんとかおでんにしようかなぁ…ガッツリお弁当でもいいけど、さすがにこの時間にそれはダメよね女として。
…同居人の2人はもう寝たかしら。それともまだゲームで遊んだり、パソコンで調べものしたりしてるのかしらね。ご飯は昨日のうちに冷凍したものを用意しておいたからちゃんと食べてくれてると思うけど、…って、用意してなくてもあの子達なら自分達で調達して勝手に食べるでしょうけど。
その様子を思い浮かべるだけで何だか和むし、自然と笑みが浮かんできちゃう。ほんと、あの2人といると飽きないわよねぇ。…あ、そうだ。何か甘い物でも買っていってあげようかなぁ。確か新発売のプリンがあったはずだし。





マンションの近くのコンビニで夜食とお土産のプリンやお菓子を調達して、居候している401号室のドアをそっと開けると何だか奥から怒鳴り声、のようなものが聞こえた。奥っていうか、…確実にリビングよね?こんな時間に大きな声出したらご近所迷惑…って、あら?この靴、女性物…?


「…悪いね。コイツ口のきき方知らなくてさ、本当のことしか言えないんだわ」
「…ッごめ…」
「え、なに、これ修羅場中?」
「あら、おかえりーほたる」


リビングに繋がるドアを開ければ、時くんの首を締め上げてる久保くんと、名前も知らない可愛らしい女の子が泣いている現場に遭遇。
てか久保くん、んな呑気におかえりとか言わないでよね?つーか、これ本当にどういう状況なの。傍から見ると「俺ら付き合ってるから君とは付き合えないやーごめんねー」みたいな感じに見えるんだけど。いや、久保くんと時くんはそういう関係じゃないのは私がよーく知ってるけれどもね?


「帰ってくんのおっせーよ、ほたる!てか、遅くなる時は連絡してっつってんじゃん」
「ごめんて、時くん。さすがにこの時間は寝てると思ったんだよ。それでこの可愛いお嬢さんはどちら様?」
「久保ちゃんが連れ込んだ」
「ちょっと時任…」
「ふぅん…その拾い癖、治ってなかったのね?ひとまず、妊婦さんの前で煙草はきーんし!」


久保くんが咥えている煙草をぶんどって火を消せば、驚いた顔でこっちを見上げているお嬢さんと目が合った。あら、一体どうしたのでしょうかね。
首を傾げてん?と問いかけてみれば、「何で妊娠…」と呟いた。ああ、どうして君が妊娠してるのかわかったのかを聞きたいのね。まぁ、それは疑問にも思うわよねぇ。まだお腹も出てないし、しかも私は今しがた帰ってきたばかりで彼らから説明も受けていない。普通ならそんなのわかるわけない、って思うだろうから。でもなー、何でわかったかと聞かれても…所謂、勘っていうやつなのよねー。明確な証拠があったわけでも、確信があったわけでもないわけよ。


「か、勘…?」
「ざっくり言っちゃうとね。君、名前は?私はほたる、瀬上ほたるよ」
「さ、…沙織」
「沙織ちゃんね、あ、こっちの2人は、」
「ラブリー久保田と、」
「ビューティー時任。」
「……もーちょい真面目に名乗りなさいな、君達は」


沙織ちゃんが笑ってくれたからこの際いいけどね。
…ああ、そうだ。こんな時間じゃ沙織ちゃんはウチに泊めるんだろうし、何かかけるもの用意してあげないとよね。寝室で寝かせてあげられれば一番いいんだろうけど、残念ながらお客さんを案内できるような状態ではないのよね〜掃除はしてるけど、それでもやっぱり…ね。
買ってきたおでん(ちょっと冷めてるけど)をもぐもぐ咀嚼しながら、寝室から毛布と枕代わりのクッションを持ってきて椅子に腰かけたままの彼女に手渡す。その間に久保くんから「こぉら、行儀悪いでしょ」って怒られたけど、そんなの気にしませーん!だってもう皆、寝るモードでしょ?沙織ちゃんは申し訳ないけど、このリビングのソファで寝てもらうわけだし…それなのに私が此処でのんびりおでん食べるわけにもいかないもん。致し方ない状況なんです!


「ほたる、食べ終わった?」
「ん、だいじょーぶ。あ、久保くんに時くん、お土産のプリンやらお菓子やら買ってきたから食べて」
「マジ?!サンキュー!」
「あ、狙ってた新作のプリン」
「あとで感想教えてね、美味しかったら私の分も買ってくる。…それじゃ沙織ちゃん、ソファで申し訳ないけど…おやすみなさい」
「ぜ、全然大丈夫!ありがとう、おやすみ…なさい」


ドアを閉めれば時くんもおやすみ、と自分の部屋へと戻っていった。さて…私はお風呂に入ってこようかな、眠いけどこのまま寝るのはどうにもねー抵抗があるんですよ。
チェストから下着やパジャマを出していると、突然抱き上げられた。こんなことする人は1人しかいないし、そもそもこの部屋にいるのは私と久保くんだけだ。だからどう考えたって久保くんしか犯人はいないのだけど、…いきなり何すんのかなこの人は。腰ホールドされちゃったら動けないんですけど?というか、明日…いや、もう今日か。朝から仕事だから早く休みたいです。


「くーぼーくーん」
「ん〜?」
「いや、んー?じゃなくてさ。私、お風呂に入ってきたいんだけど」
「いんでない?入んなくても。十分、いい匂いするし」


君が良くても私が良くないのよ。
はぁ、…こうなってしまったらしばらく離してくれないのよね、久保くんてば。溜息を1つ吐いてしばらく好きにさせていたら、次第に雲行きが怪しくなってきたことに気がつく。お腹の前で組まれていた手は服の中に入り込み、仕事で結んでいた為に露わになっている項を甘噛みしたり。ああもう、この人、確実にソノ気になっちゃってるじゃない…!いっつも思うけど、久保くんの夜のスイッチって一体どこで入ってるの?さっきまで全くそんな雰囲気なかったよね?!
プチン、と音がしたかと思えば、胸元の締め付けが緩んでる。あ、マズイ、これを外しにかかったってことは本気だ。


「っ、ちょっと久保く、…」
「だいじょーぶ、加減するから。ね?」
「そう言ってしたことないでしょ?!っん…!」
「否定はしないけど」


お客さんもいるのに久保くんの馬鹿…!
徐々に押し寄せてくる快感の波に逆らえるはずもなく、リビングで眠る沙織ちゃんや隣の部屋で眠る時くんを起こしたりしないように声を押し殺すことに必死になる他、術はない。
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