夜の華
肋骨が2本折れた。けど、腕とか足みたいに固定できる箇所ではないのでサポーター?みたいなのを付けてしばらく生活することになりました。あと動いたり大笑いしたりするとめっちゃ痛いので、ぶっちゃけ不便。…仕方ないけど。そういうわけなのでしばらくバイトはお休みー。診てくれた雇い主の鵠さんに休みなさい、って言われたら休むしかないしね。
休みなのはいいんだけど、することなくて暇なんだよね。こういう時にこそ掃除とかしちゃいたいのに、激しい動きができないもんだからリビングでテレビ見たり、時くんがゲームしてるのを見たり、時々プレイしたり。あとは部屋でひたっすら寝てるか、本読んでるかしかすることないんですよ。家の中だと。ああもう、早く骨くっつかないかなー。
―――ドンッドドンッ
「ん、……?」
ベッドに転がりながら本を読んでいたはずなのに、いつの間にか眠り込んでしまっていたらしい。何か音が聞こえた気がして目を開ければ、部屋の中は真っ暗になっていた。最後に時計を見た時はまだ15時前だったよね…うーわ、私、何時間眠ってたんだろ。どう考えても5時間近くは寝てたよね?じゃなきゃ、外が真っ暗になったりしないはずだし。まだまだ蒸し暑い日が続いてるから、日も長いんです。…っと、また聞こえた。この音、何だろう?外から聞こえてくる気がするんだけど。
ふあ、と欠伸を1つ漏らして寝室を出ると、久保くんが何やらクローゼットを覗き込んで漁っていた。え、なに、家捜し?…なわけないか、此処、この子の家だし。
「…何をしてるの久保くん」
「あ、起きたの?ほたる。ちょうど今、起こしに行こうと思ってたんだ」
彼の手に握られていたのはコンビニの袋。中に入ってるのはー…あ、花火だ。それも一昨年買ったやつ。買ったはいいけど、何でか忘れちゃってたんだよね。で、結局やらず仕舞い。去年も思い出してやろうかー、なんて話はしてたけど、その時も話だけで終わっちゃったんだった。
てか、一昨年の花火ってできるものなの?どう考えても湿気ってて火がつかないような気がしてならないんだけど。そして更に気になるのは、どうして今更それを引っ張り出してきたのかーってことだ。
気になるものは気になるので、漁ったクローゼットの中を簡単に片づけてる久保くんに問いかける。返ってきた答えは、米軍キャンプの花火大会の音を聞いた時くんの言葉で花火があったことを思い出した…らしい。うん、何かよくわかんないけど、時くんの為に探してた―――のかな?きっと。でもそっか、あの音は花火の音だったのね…そういえばもうそんな時期だったわ。今の今まですっかり忘れてたけど。あそこの花火も一回くらい見に行きたい、と思うものの、やっぱり見に行かないまま夏が終わっていく。
今は時くんがいるし、来年辺りには見に行ったりしてるかもね。3人で。
「時任、花火あったよ」
「じゃあほたるも起こしてやろーぜ!…って、お?」
「私なら今、起きたよ〜花火やるのはいいけど、何処でやんの?」
「ベランダ?」
…うん、まぁやるとこなんて限られちゃあいるけれどもさ。ベランダっていいの?とか何とか思いつつも、私も花火は割と好きな方だから参加しちゃうけどね。バケツに水張って、火は……あ、久保くんのライターでいいか。
果たして火はつくのか、と恐る恐るつけてみれば、思っていたより綺麗な火花が勢い良く吹き出して何か感動。立ったまんま火をつけた時くんは、裸足の足に火花が当たってあっつ!って叫んでるけどね。ダメだよー、危ないから座ってやらないと。
花火なんて久しぶりにやったけど、やっぱり綺麗。あっという間に散っていくのがちょっと寂しいな、って思うけど…それもきっと花火の醍醐味。線香花火なんてそれの典型例よね?あれやってるとどーしても物悲しい気分になっちゃう。淡い火の光がとても綺麗だって思うんだけどなぁ。
「あ、ちょっと時くん!何で線香花火の束に火をつけちゃうかな?!」
「まとめて火ィつけちまった方がいーじゃん!」
「短気だなぁ」
「もー…これは1本、1本やっていくのがいいの!まとめてつけちゃったら情緒も何もないじゃんか」
「ほたるって線香花火好きよね」
「ん?んー…そうだね、一番好きかも」
火をつけてしまったのは仕方がないので、やったらでかい線香花火を眺めることにした。うーん、これはこれで綺麗…なのか?1本でやるより長く楽しむことは出来そうだけど、でもやっぱりこれは線香花火としてどうなんだろう…アリかナシかでいったら、ナシの気がするなぁ。
結構あったかのように見えた花火は気が付けば、1本も残っていなかった。あっという間だ。
「はい、おしまい」
「ね、コンクリ焦げちゃってるけど」
「うわ、ほんとだ。大家に怒られんぞ」
「ん〜?……共犯。」
そう言って笑った久保くんは、どこか楽し気で。