風邪っぴき、1日目。


唯一、自分の中で誇れるのは滅多に病気をしない元気な体だけ。
久保くんに拾われるまではもちろん、拾われてからも病気で寝込むなんてことは一度もなかった。滅多に大きな怪我もしなかったから、この前の肋骨骨折した時と眠くて仕方ない時だけかなーベッドとお友達になるのは。それくらいしかなかったのに、何で私は今、ベッドに寝かされてるのでしょうか。


「39.5度…思ってたより高いね」
「うわ、そんなにあるの…?どうりで頭痛くて、動くのがダルイわけだわ」
「その状態で今日一日、バイトしてきたのがすごいと思うけど」
「寝不足かと思ったんだも、…ッゲホ、ゴホッ」


喋ったせいか思いきり咳き込んでしまった私の背中を、大きな久保くんの手が優しく撫でてくれる。そのおかげか何とか咳は止まった。あーでもこれ、思ってたより苦しいかも。
痛む頭と喉、そして関節。これはもう立派な風邪ですねー…てか、私の体温って39度まで上がるんだ、初めて知ったよ。ほとんど風邪らしい風邪をひいてこなかった私は、熱が出るってことすら初体験状態なんだもん。いや、実際は出たことあるのかもしんないけど、ほとんど記憶にないしさ。そっかぁ…風邪ってこんなに辛いもんなんだねぇ。
額にのってる濡れタオルにそっと触れてみるとめっちゃ温かった。冷たいのかと思ったらまさかの温さ…あ、そうか、私の体温が高いからそれで温くなっちゃってるのか。最初はきっと冷たかったんだろうね。


「…寒い」
「あら、ってことはまだ熱上がりそうだねぇ…」


ちょっと待ってて、とだけ言い残して、久保くんは部屋を出ていった。途端にしーんと静まり返る室内に何だか言い様のない寂しさを覚える。…変なの、この部屋で1人でいることも寝てることも初めてじゃないのに。それに1人にはずいぶんと前から慣れているはずなのになぁ、何でこんなに人恋しくなってるんだろ。
風邪ひいて、熱出て、寒いから?だから誰かに傍にいてほしい、って思っちゃってるのか?そうだとしたら、それはそれで困りもんだと思うんだけど。そんなに弱くなっちゃって、これからどーすんのよ私。今は一緒に住んでる久保くんだって、時くんだって、いついなくなってしまうのかわからない。今日かもしれないし、明日かもしれない…突然、前触れもなくいなくなってしまうことは、このご時世では珍しいことじゃないんだから。なのに、寂しいとか―――思っちゃダメ、でしょう。どう考えたって。
グルグルと考え込んでいたら余計に頭痛くなってきた…やめよ。

ブルリ、と体が震えたので、更に深く布団に潜り込んだらドアがガチャリと開く気配。目だけ出して誰が来たのかだけ確認すると、さっき出ていった久保くんだった。その手にはいつもリビングで時くんが愛用してる毛布が握られている。もしかして、私が寒いって言ったからそれを取りに行ってたのかな。なーんか今日の彼、優しいなぁ…あー、でも普段から時くんと一緒に甘やかされてる自覚はちょっとあるけど。こういう風にされるから冷たいんだか、そうじゃないんだかわかんなくなるんだよなぁ久保くんは。


―――バサッ

「これで少しはマシになると思うけど」
「…ん、ごめん。ありがと」
「いーえ。俺と時任、これから外せないバイト入っちゃってるから出かけるけど大丈夫?」
「寝てるからヘーキ。いってらっしゃい…」
「じゃあ行ってくるけど…何かあったら電話しなサイ」


パソコンデスクの上に放置しっ放しだった携帯をベッドサイドに置いて、最後に頭を撫でてから廊下へと繋がるドアが閉じられていった。外からは時くんの私の身を案じる声が微かに聞こえてくる…彼にまで心配かけちゃってるのかぁ。早く治して元気になった姿見せてあげなくちゃ、だよね。
ガチャリ、と鍵が閉まる音を合図に私は深い眠りへと落ちていった―――――。





あれからどれくらい眠っていたんだろう。ふっと目が覚めて、まだ痛む体を起こしてみれば窓から淡い月光が室内に降り注いでいる。月が出てるってことはまだ朝じゃないってことか…今、何時なんだろ?出かける前に久保くんが置いていってくれたケータイを開いてみると、夜中の3時。彼らが出ていってからすでに8時間が経過していることになる。
自分が思っていたより眠っていたことにも驚いたけど、それよりもまだ2人が帰ってきてないことに余計驚いてる自分がいて。だって鵠さんからの頼まれごとのバイトでしょう?きっと運び関係で、そんなに時間はかからないと思っていたのに…もしかして何か厄介ごとにでも巻き込まれた?
ちょっとだけ不安を覚えつつも、もしかしたら寝ていないだけで帰ってきているのかもしれないと思って部屋のドアを開けてみるけど、そこから見えるリビングのドアは真っ暗。そっと開けてみてもやっぱりそこは真っ暗で、誰もいる気配がない。…というか、家の中に私以外の気配…してない。やっぱりまだバイトが終わってないんだ、と肩を落として寝室へと戻ることにした。
寒気に体を震わせベッドに潜り込んではみるものの、一向に眠れる気がしない。頭は痛くてボーッとするし、寒気はするし、咳はひどいし、喉も関節もまだまだ痛みが引きそうにないし。眠ってしまえば回復力も高まるし、何より体が楽になるのに…何で眠れないんだろうか。
気が付けば私は、ケータイを手にしてとある人に電話をかけていた。


『もしもし、ほたる?』
「………」
『どした?何かあったの?』
「く、ぼく……」
『ん〜?』
「早く帰ってきて……隣に、いて」


その後のことはあんまり覚えてない。でもベッドの端に座った久保くんが優しい顔で私の頭を撫でてくれているのは見た、気が、する。



(久保ちゃん、電話だれ?)
(ほたる。…なんかサミシーみたい)
(えっマジで?!すげー珍しいじゃん、ほたるが頼ってくんの)
(うん。スポドリとか買って、早く帰ろうか)
- 13 -
prevbacknext