風邪っぴき、2日目。


昏々と眠り続け、ようやく意識が覚醒した時にはもう陽が大分てっぺんに近い所まで昇っていた。わ、これは確実にお昼だなぁ。
まだ頭はボーっとするし、ダルさもとれてないけど昨日に比べれば幾分マシになってると思う。だって起き上がるの苦痛じゃないもん。ふと隣に目を向けてみれば、そこにいるはずの家主の姿はなかった。…って当たり前か、もう昼近ければ起きてるに決まってるよねぇ。さすがの時くんももうリビングにいるのかなぁ。お腹が空いた気もするので、食糧調達がてらリビングに行ってみるとしようか。
床に落ちてたパーカー(@久保くん)を羽織ってリビングに行けば、そこにいたのはあら意外、時くんだけ。久保くんの姿は見当たらなかった。


「お?ほたる、目ぇ覚めたのか?」
「うん…ね、久保くんは…?」
「久保ちゃんならモグリんトコ。バイトだってさ」
「連日なんて珍し…」


フラフラしながらキッチンに足を向けると、コンロの上に小さなお鍋―――所謂、1人用の土鍋が鎮座していました。何だろ、これ。…ああダメだ、上手く頭が回ってない。考えようとするとフラフラしちゃう。
コンロを見つめながらじっとしていたら、後ろから久保ちゃんが作ってったぞ、と時くんが教えてくれた。お鍋の中身は卵おじやですって、風邪ひいてる時はこういうのがいいんだって誰かが言ってたような気がするね、うん。とりあえず温めて有難く頂くとしましょう。コンロのつまみに手をかけようとしたら、俺がやるから座ってろ!、と怒られちゃった。そのままソファに運ばれ、大人しくしてろ!と、一言残して再びキッチンへ。

んー…何だか時くんまで優しい。なぁんか調子狂っちゃうなぁ、2人にこんなに甘やかされて優しくされちゃうと。あんまり優しくされちゃうと、風邪が治った後とか大変そうだわ…この優しさを当たり前、と思ってしまった瞬間、私の負けだと思う。しっかり、線引きしておかなくちゃ…いつか来る別れに対応できなくなるんだから。
ソファに横たわって自分の体を抱きしめるように丸まれば、急速に意識が沈んでいくのがわかった。あ、これ絶対寝ちゃう…せっかく時くんがおじや温めてくれてるのになぁ。そう考えながらも襲ってくる眠気に逆らうことは出来ずにあっという間に夢の世界へと旅立った。





「なー久保ちゃん、ほたるの奴ベッドで寝かせなくていいのか?」
「そうしてあげたいんだけど、まだご飯食べてないんでしょ?それなら起きるまで待ってた方がいんでない?」
「まぁそうだけどさー…」


ふわふわとした意識の中、耳に届くのは久保くんと時くんの声。ああ、いつの間にか彼は帰ってきてたんだぁ…ってことはもう夕方くらいかなぁ。
…ん?ソファで寝てた割にはずいぶんと温かいし、頭も痛くない…というか、ソファの感触じゃない気がする。
不思議に思って目を開けてみれば、煙草を吸いながら新聞を読んでる久保くんの姿が目に映った。あれ?私の今の状態って仰向け、よね?普通なら天井が真っ先に飛び込んでくるはずなのに、何で久保くん?あれ、私って今どういう状況で寝てるの?


「…あ、起きた?」
「う、ん…これ、どういう状況?」
「帰ってきたら毛布でぐるぐる巻きにされたほたるがソファで丸まってたから、膝枕してみたんだけど」
「………何で膝枕…」
「クッションは時任が抱えてたからなかったの。ご飯食べる?」


起き上がりながら頷けば、恐らく朝作ってくれていたおじやを温めに行くのだろう…後ろで久保くんが立ち上がる気配がした。
うーん、と伸びをすれば背中がパキパキ鳴った。あー、ソファで丸まって寝ちゃったみたいだからなぁ。背中とか凝り固まるわけですよね。ご飯食べたら今度はベッドで横になろう、もうここでは絶対横にならない…!次やったら絶対に風邪も悪化しちゃうし。


「メシ温めてる間に寝ちまうとは思わなかった。毛布かけといたけど寒くねーか?」
「ヘーキ…ありがと、助かりました。そしてごめんね?」
「別にいーよ。まだ本調子じゃねぇんだし…ん、体温計」


時くんから体温計を受け取り、素直に脇の下に挟む。昨日ほどは高くなさそうだけど、まだ下がりきった感じもないから微熱くらいかなぁ。風邪薬飲めばもう少し回復も早いのかもしれないけど、誰も風邪をひかない久保田家にはんなもんありません。包帯とか消毒液とか絆創膏はめっちゃたくさんあるのに。

計りながらボケーッと時くんがゲームしてる後ろ姿を眺めていると、ピピッと電子音が鳴り響いた。ちょうどおじやを温め終わったらしい久保くんに見せて、と言われたから自分で確認する暇もなく手渡しましたとさ。少しは下がってるといいんだけどなぁ。
体温計の代わりに受け取ったお鍋の蓋を開けるととても食欲を誘ういい香りがする。知らなかったけど、久保くんってご飯作れるんだなぁ。


「おいし…」
「それは良かった。まだ熱高いね、38度だって」
「昨日よりはマシだけど顔赤いもんなー。あ、昨日薬買ってきたから食ったら飲めよ?」
「冷蔵庫にスポドリもあるからベッドのサイドボードに置いときなさい」
「……何か至れり尽くせり…」
「お前、こういう時くらい甘えときなさいって。後で蒸しタオル持ってったげるから体拭くといいよ、汗かいたっしょ?」


おじやをむぐむぐと咀嚼しながら家族がいたらこんな感じなのかな、とぼんやり考えていた。
ただ、無理矢理体を拭こうとした久保くんには鉄拳制裁を下したのは致し方ないことだと思う。何考えてんだ、ホント。
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