追いかける影


ストーカー事件(ってわけではないけど)の犯人は出雲会の奴らだとわかり、まぁゴタゴタありつつも何とか解決した…が、私はいまだあの家に帰っていない。成り行きで私の過去を話したんだけど、何となくさ…こう、後ろめたいというか何というか、気まずくて仕方ない。
あの日、話し終わった私は逃げるように鵠さんから頼まれたバイトに行き、その後も色んなバイトを詰め込んで暇になる時間を極力減らしてる現状だ。ああ、カラダを売るバイトはもうしてないよ?いいお金にはなるけど、何か今は気乗りしなくてさ。
ああでも、いい加減逃げるのをやめて家に帰らないと…とは思ってるんだけどなぁ。





『今日未明、横浜市内のホテル客室で女性の遺体が発見されました。遺体は頭部他数ヶ所に打撲等の外傷が見られ、室内に争った形跡のあることから他殺と断定―――』


何気なく耳に入ったニュース。何でもない、ただのニュースでしかないはずだけど…何だか気になって仕方がない。よくよくニュースを聞いてみると、何だか昨日、鵠さんが久保くんに頼んだ運びのオシゴトじゃない?このホテルって。詳しい場所は言ってないけど、一瞬だけ映ったあの建物の外観は間違いないと思う。それに…久保くんが渡せなかった、と荷物を持って帰ってきてた記憶もある。


「ねぇ、鵠さんこのニュース…」
「ええ、もしかして…おや、久保田くん」
「鵠さん、ニュース見た?」
「今しがた。亡くなった方が受け取り人でしょうか」


鵠さんと話をしていたら噂をすれば何とやら、当人である久保くんが現れた。いつもなら来ることがわかってるから予め外に出てるか、奥に引っ込んでいるんだけど、今日は突然やって来たから隠れる暇もなかったです。…けど、さっきのニュースが気になって仕方ないし、久保くんの様子がいつもと少し違ってるような気がして。今更奥に引っ込むのもアレだし、黙ってその場にいることを選択した。

久保くんはあのホテルの窓から逃げていく男に会ったみたい。サラリーマン風で背の低い30代後半の男だったんだって。状況からしてその人が犯人であることには間違いないと思うけど、でも…どうしてだろう。久保くんの表情が沈んでいるような気がする。鵠さんもその様子に気が付いたみたいでどうかしたのか、と声をかけたら、ちょっとミスったかもしれないと一言。鵠さんには迷惑かけないよ、って言ってるけど、鵠さんが言ったのはそういう意味じゃないと思うよ?
そのまま出ていくかと思いきや、久保くんは入り口で立ち止まって私を手招きした。


「なぁに?」
「多分、面倒なことになると思うから家に近寄らない方がいい…時任にもそう言っとくから」
「……君は、どうすんのさ」
「さっきも言ったでしょ?鵠さんには迷惑かけないよ、って。それはほたるにも同じことだ」
「そうじゃなくってっ…!」
「―――…ごめんね。悪いけど、時任のことよろしく」
「ちょっと久保くん!!」


バタン、と扉は虚しくも閉じられた。人混みに紛れてしまった久保くんの後ろ姿はもうどこにも見当たらない。
私には関係のないことだし、彼だって迷惑かけないよ、って言ってたじゃない。だから放っておけばいいし、気にしないで今まで通り過ごしていればいいんだと思うのに…どうして、こんなにも胸がイタイの?どうして、…頼ってくれればいいのにとか…そんなことを考えちゃってるんだろう。
はは、…ほーんと私は大バカだなぁ。勝手に気まずいからって理由で避けて、家にも一切帰らないでいたのに、それなのにいざ彼から突き放されちゃうと悲しい、寂しいって思っちゃうなんて。とんだ大バカで、身勝手だ。ほーんと我ながら呆れちゃうよ。





もやもやした気持ちを抱えながらもいつも通りバイトをして、お店を出た。
久保くん、時くんにも言っておくって言ってたけど…ちゃんと一から十まで説明したのかな?なかなかに切羽詰ってたけど、でも、もしかしたら心配かけないように―――とかで、簡単な説明しかしてないとかだったら彼、めっちゃくちゃ怒ってるような気がするんだけど。
とりあえず、時くんのケータイに電話をしてみようとポケットから取り出してみれば、タイミング良く着信があってちょっとびっくりした。表示されてる名前も確認せずに慌てて出てみれば、相手は思ってもみない人だった。


「えっ滝くん?!」
『久しぶり、瀬上ちゃん。トッキーに話聞いたよ、くぼっち何かあったのか?』
「ん、何か面倒なことになると思うって言われたわ。でも詳しいことはよくわかんなくて…」


きっとあのニュースでやっていた事件が関係しているんだとは思うけど、お店を出て行った後に彼が何処に行ったのかはわかんないの。家に近寄るな、って言ってたくらいだから、マンションにはいないとは思うんだけど…というか、今気が付いた。どうしてあの時、彼は家に近寄るなって言ったんだろう?だってそれはまるで、家に悪いものが来るってわかってるみたいじゃないか。

―――――あ、もしかして…!


『瀬上ちゃん?どした?』
「あ、…ごめん、滝くん。それで用件は?」
『そうそう、そうだったな。トッキーを預かってんだけど、彼、ケータイ壊れちゃってるみたいでさ?心配してるかも、って思って』
「え、そうなの?」
『そーなの。…で、君はどーすんだ?家、帰れないでしょ?』


…ああ、そう言われてみればそうだ。と言っても、ここしばらくずーっと家に帰らずに生活してたからどうにでもなるとは思ってるけどね。んー、でもさっすがに寒くなってきちゃったからなぁ…いい加減、野宿とかは無理そうだわね。
葛西さんの家、と思ったけど…さっき浮かんだ仮説が正しいとすれば、あの人の所にも手が回ってしまっている可能性が高いわよね。まぁ、私や時くんのことまで調べることはしないと思うけど、もし調べてたとしたら―――葛西さんにも迷惑がかかってしまうかもしれない。それを考えると、連絡は取らない方が賢明。向こうから連絡来た時は応対するけど。

電話してるのをまたもやすっかりと忘れて考え込んでいたら、「瀬上ちゃんもウチ来るか?」って声が聞こえた。滝くんの家か…時くんも転がり込んでるみたいだし、そうさせてもらおうかな。じゃあお願いします、とだけ告げて電話を切った。さすがに家の場所まで知らないので、迎えに来てもらうことにしたけどね。


「―――久保くん…」


ねぇ、私はどうしてこんなにも君のことが気になるんだと思う?
寒空に呟いた言葉は誰にも拾われることなく、泡のように弾けて消えていった。
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