さようなら、また会う日まで。


「え?」
「だぁから、それは受け取れないって言ったのよ?つゆりちゃん」


 side:つゆり


お父さんとお母さんは事故ではなく殺人だった、犯人も無事に捕まえることができた、って葛西のおじさんから連絡があったのは、私がほたるさん達の家を出てから2週間後のことだった。
あの後、私は何となく連絡を取ることをしていなくて…でも葛西のおじさんから連絡をもらった後、お礼をしていないことをようやく思い出して慌てて連絡を取ったの。それでほたるさんのバイトと私の学校がお休みの今日、彼女がお気に入りだというこのカフェで会うことになったんです。
久保田さんと時任さんは一緒じゃないみたい、きっと一緒に来るんだろうって思っていたからちょっとだけ拍子抜け。あの2人にもお世話になったから、改めてお礼をしようと思っていたんだけどな。

それはさておき。依頼を果たしてもらったお礼として準備したお金を、ほたるさんに差し出したんだけど…受け取れない、って言われちゃった。でも、と言い募る私に苦笑を浮かべながら、受け取れないものは受け取れないのよ、って繰り返す。
どうしてだろう?元々、そういう約束だったはずだし…まだ少ないって理由なら、もう少しだけ上乗せすることは可能なのに。


「うーん…こんな所で話をするのはアレだけど、私は結果的に依頼を果たしてないからね」
「そんなことありません!ちゃんと、…見つけてくれたもん」
「けど、そこで終わり!って依頼じゃなかったでしょう?」


君の本当の願いは、あの男達を殺すこと。そうでしょ?
お店の中だから、と私に聞こえるだけの声量で紡がれた言葉は、確かに私があの日、ほたるさんにお願いしたことだ。犯人を捜して殺してほしい、そうお願いした。

…でも、何て言うか…勘でしかないけど、この人はあの時わざと撃たなかったんじゃないか、って思うの。最初の2発は何の躊躇いもなく撃っていたし、タイミング良く警察の人達が来たからって言っても、いくらでも殺すチャンスはあったはずだった。
だけど、ほたるさんは敢えてそうしなかった。その理由の全てを私が知ることは出来ないけど、きっと警察に引き渡すことで、私の復讐を遂げてくれた―――ってことなんじゃないのかなって。

私からお父さんとお母さんを奪った人達のことはやっぱり憎いけど、でも今はこれで良かったって思えてるの。本当よ?


「だからっだか、ら…」
「―――…じゃあ、ケーキセットのお代払ってくれない?」
「え…?」
「このカフェね、ケーキがすっごく美味しくてお気に入りなの!だからケーキ、奢ってくれる?」
「…もちろんです!」


中学生の女の子に奢ってもらうのは気が引けるけど、って申し訳なさそうな顔をしているけど、そんなことないです。むしろ、そうしてもらった方が私も嬉しい。そう言って笑えば変わった子、ってほたるさんもようやく見慣れた笑顔を浮かべてくれました。
せっかくだから私もケーキ食べてみよう、とメニューを開いてみれば、ほたるさんの言っていた通り美味しそうなケーキの写真がたくさん載っていた。種類もたくさんあって迷っちゃうなぁ…どれにしよう。生クリームのケーキも美味しそうだし、でもチョコレートも捨てがたい…あっでもこのパフェも美味しそうだなぁ。


「やっぱり君は、そうやって無邪気に笑っていた方が可愛いよ」
「か、かわっ…?!」
「ふふっようやく年相応の反応を見れた気がするなぁ。さ、どれにする?」
「えっえっと、…」


結局、1つに絞れなかった私達は1人2個ずつ―――計4つのケーキを頼むことにしました。頼みすぎちゃったかな、と思ったけど、でもテーブルに並べられたケーキは宝石みたいにキラキラ輝いていて、とても美味しそう!
一口食べてみれば見た目通り、とっても美味しくて幸せです。


「うわ、2人で食うのか?それ」
「ま、ほたるは甘いもの好きだからねぇ」
「あら、久保くんに時くん。バイトは終わったの?」
「ん、さっきね。相席してい?」
「つゆりちゃん、いい?」
「はい、大丈夫です」


突然聞こえた声に驚いて顔を上げてみれば、久保田さんと時任さんが立っていました。ほたるさん曰く、2人は今日バイトが入ってしまっていたから一緒には来なかったんですって。でも場所と時間は元々教えていたから、バイトが終わった後に覗きに来たみたい。

何の迷いもなくほたるさんの隣に腰を下ろした久保田さんは、とても優しい顔でほたるさんとお話し中。お家にお邪魔している時は気がつかなかったけど、この2人の間に流れる空気…というか、雰囲気?ってとても柔らかくて優しいんです。時任さんと3人でいる時も柔らかい雰囲気はあるんですけど、ほたるさんとは全然違うように感じる。
本当に仲がいいというか、あれだ、お父さん達の雰囲気とよく似ているんだ。きっと、お互いのことがとても大切なんですね。2人共。

そっと私の隣に腰を下ろした時任さんを見上げてみると、そんな2人の様子を嬉しそうに見ていました。あ、この人、こんな柔らかい笑みを浮かべること出来るんだ…初めて見たかも。


「…仲、いいんですね。ほたるさんと久保田さんって」
「んぁ?おお、そうだな、めちゃくちゃ仲いいぞ」
「羨ましいって、思わないんですか?」


ふと浮かんだ疑問を口にすれば、時任さんはびっくり顔。でもすぐに笑顔に戻ってぜーんぜん、と言い切った。2人共、傍にいてくれるから全然羨ましいとは思わないんだ、って、仲がいい2人が好きだからこれでいいんだ、ってこっそり教えてくれて。

家族じゃないけど、でも家族みたいに温かい3人の空気感が私は、とても羨ましい。もう会うことはないかもしれないけど、この人達に会えて…良かったって、心の底からそう思います。
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