始まりの太陽


タイミング良く来てくれた葛西さんに私は今、お説教されてます。何故だ。


「ったく、テメーはまた無茶しやがって!」
「仕方ないじゃないですか、あんな所で襲われるなんて思ってもみなかったんですから」


無傷だったし、誰も殺してないし傷つけてもいないし、時くんとつゆりちゃんだって無事だったからいいじゃないですか、と言ってみたら、脳天に拳骨食らった。
今回ばかりは葛西さんもかなり心配してくれていたらしく、本気で怒られちゃいました。…この人に怒られるのすっごい久しぶりだ。ちなみに久保くんにも怒られたの。何かあったら連絡しなさいって言ったでしょ、って。うん、それはもちろん覚えてたんだけど…そんな暇なかったんだから仕方ないじゃないのー!

あ、あのタイミングで何故葛西さんが現れたのかと疑問に思っていたら、バイトが早くに終わった久保くんが連絡してくれたんだって。家に帰ってきたら誰もいないし、買い物してくるにしたって帰りが遅すぎるーって思ったみたいね。
さすがに場所まではわからなかったらしいけど、位置関係からすると此処が可能性高いだろう、って踏んだ場所に私達がいたってオチ。


「それでデータと試薬、見つかりました?」
「ああ、貸し金庫の中からな。これからもう一度、捜査のやり直しだ…恐らく、2人の事件は事故から殺人に切り替えられるだろう」
「…そっか」
「証拠が出てくるかはわからんが、捕まえてやるさ。犯人をな」


佐久間先生達が隠していたデータと試薬は、横浜のとある貸し金庫の中から見つかった。その金庫の鍵は私の推測通り、つゆりちゃんのネックレスの中にうまーく隠されていたんです。よく入ったなぁ、と思わないでもなかったけど…そこしかない、って思ったんでしょうね。あの2人も。
もちろんつゆりちゃん自身もすごくびっくりしてた、肌身離さず着けていたネックレスに鍵が隠されていたなんて思いも寄らなかったでしょうし。


「そーいえばほたる、どうして殺さなかったの?」
「…つゆりちゃんね、私が撃った時と銃を構え直した時…怯えてたの。だからきっと、目の前で人が殺されたら一生トラウマになる、そう思っちゃって」
「だから止めた?」
「多分ね。…あの子は、明るい所で生きていかなくちゃダメだよ。先生達もきっと、それを望んでるんじゃないかなーって」


いくつもの命を奪ってきた私が言えることじゃないけどね。
そう笑って言えば、いーんでないの?って久保くんが笑った。


「その時にね、ちょっと思ったの。だったら警察に任せて捕まえてもらった方がずっといいんじゃないか、って。依頼を果たしたことにはならないけど、少しはさ…気持ちが晴れるかもしれない、って」
「…そーね、そうだといいね」
「うん」


一応、事件は解決。これでもうつゆりちゃんが狙われることはなくなるだろう、ということで、明日には自宅に帰ることになったんだ。意外にも仲良くなっていた時くんは淋しそうな顔をしていたけど。
なので、今日はつゆりちゃんの好きなものをたくさん作ってあげるって決めた!だって自宅に帰ったらもう会うことはないだろうし、最後くらい甘やかしてあげたくなっちゃって。


「う、わぁ…!ほたるさんすごい!」
「料理は大好きだからね。いっぱい食べてね、つゆりちゃん」
「はい!」


美味しいです、と満面の笑みを浮かべた彼女を見て、私達も箸をつける。4人で囲む食卓もこれで最後だと思うと、やっぱりちょっと淋しいかも。女の子がいるってだけで華やかになるし、思っていた以上に楽しかったからなぁ…この子が家にいた間は。

…でもまぁ、これ以上は関わらない方が彼女の為でもあるかなぁ。私達も堅気の人間ではないし、真っ当な生き方をしているわけでもないからいつか巻き込んでしまうかも、って心配はいつまでも付きまとうでしょうし。これっきりにしておいた方がいいんだと思う。


遅くまで4人で過ごし、翌朝―――学校に行く彼女を送り出して、4人での共同生活は幕を閉じました。


「んー…!これでひと段落、かなぁ」
「だぁね。お疲れ様、ほたる」
「ふふ、ありがとー久保くん。あ、時くーん寝直すなら部屋に行きなさいってば」
「うー…めんどいから此処でいい……」
「もう、仕方ないなぁ」


つゆりちゃんがいる間、私達3人はずっとリビングで寝ていたから布団はあるけどさぁ…というか、本当に何でこの子は自分の部屋で寝ずにソファで寝てたのかしらね?体痛めちゃうし、絶対にベッドでの方がよく眠れたでしょうに。
溜息交じりにそう呟けば、珍しく楽しそうな声音で久保くんが「俺達と一緒に寝たかったんだって」とか何とか言い出しました。

普段はそれぞれの部屋のベッドで寝てるから3人で寝ることができなかったけど、リビングなら自分がソファで寝れば3人で寝れる!って思ったらしく…それを実践してたんだってさ。
何というか、…ものすっごく可愛らしい理由だったのね時くんってば。すでに夢の中にいる彼を見て、そっと笑みを零す。何でそんなに一緒に寝たいって思ってたのか、それは本人にしかわからないことだけどそれだけ好かれてるのは嬉しいかなぁ。


「嬉しそうね」
「うん?…ん、そうだね、時くんが可愛いなぁって。久保くんが執着する気持ち、ちょっとわかった気がする」
「そ?」
「うん」


時くんの頭を撫でていたら、後ろからぎゅうっと抱きしめられた。表情は見えないけど、でもきっとちょっとだけ拗ねた顔してるんだろうなー。この人、意外とヤキモチ焼きだから。クスクス笑っていたら顎を掬われて、そのまま唇が重なった。
リビングだし手は出してこないだろう、と踏んで好きにさせていたら、段々キスが深くなってきて内心焦り始める。このまま久保くんのスイッチが入っちゃったら、時くんがいるこの場所で押し倒される可能性が高いんだもん…!スリルがあっていいでしょ、とか言い出しそうだしどうにか止めなくちゃ―――と思うんだけど、相変わらずキスが上手くて体中から力が抜けていくような気がした。


「んっ…ふ、ぁ…くぼく、ちょっと待って…!」
「いーや。散々、我慢したんだからそろそろいーでしょ?」
「も、…せめてベッド、」
「…此処は時任がいるから嫌?」


コクコクと頷けば、久保くんはんー、と思案顔。かと思えば、ニヤリと笑みを浮かべた。…彼がこんな風に笑う時って、もう嫌な予感しかしないんですけど。


「いいじゃない、見せつけちゃえば」


ほら!案の定だよ、もうっ!!こういうこと言う奴だから嫌になっちゃんだってば。…でも、それでも嫌いだと思えないのはそれだけ惚れてしまっているということでもあるんだけど。だからと言って、今回の提案を承諾するわけにはいかないっての。
頬を思いっきり抓って嫌だ、と意思表示をすれば、渋々といった感じだったけど何とか止めてくれた。これでも止めてくれなかったら急所を蹴り上げてやろうと思ってたんだけど、それはせずに済んだみたい。
…というかさ、まだ朝なのに何でこの子は盛っちゃってるかね?そりゃここしばらくは色々あって忙しかったし、つゆりちゃんもいたからスる機会が一切なかったのも本当なんだけど…ほんと、いつどこでスイッチが入ってるのかいまだわかんないんだよね。久保くんって。彼曰く、とても単純らしいけども。


「見られながら、っていうのもコーフンすると思うんだけど」
「お生憎様。私にはそんな趣味なーいの」
「…ま、いーや。ね、ギュッてしてよ」
「いいけど、…ずいぶんと甘えたね?」
「ほたる限定。充電させてよ」


頭を抱え込むように抱きしめて、敷きっぱなしだった布団に倒れ込む。ああ、このまま彼の体温を感じながら二度寝をするのも悪くないかもしれない。


「…久保くん、私眠い…」
「奇遇だね、俺も…時任も寝てるし、もう少し寝よっか」
「ん、おやすみ…」


掛け布団を引き上げて2人で包まれば寒さなんて、何のその。あったかい…戻ってきたんだなぁ、私達の日常が。
ゆるゆると落ちてくる瞼、肌に感じる温かさにガラにもなく幸せを感じながら眠りについた。
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