オヒメサマは頑張り屋
最近、ほたるが忙しそうだ。朝早くにモグリんとこに行って、夜遅くに帰ってきたかと思えばずーっとノーパソと何か紙?と睨めっこしてんだよなー。でも俺と久保ちゃんのメシだけはしっかりと作ってくれてっし、洗濯もしっかりしてるときた(掃除だけはごめん、って言われたけど)。
何してんのか気になって一回、ノーパソとか紙の束とか覗いてみたけどよくわかんなくて、余計に頭ん中がこんがらがっちまったんだよなぁ。頭ん上にクエスチョンマークをたくさん浮かべてる俺を見て、ほたるは楽しそうに笑ってたけどどこか疲れてるように見えて、目の下にも薄らとクマができてた。…久保ちゃんも言ってたけど、コイツあんまり寝てねぇみたい。
Side:時任
「…で?トッキーは瀬上ちゃんに構ってもらえなくて拗ねてる、ってわけか」
「べっ別に拗ねてねぇよ!!ただちょっと面白くねーなぁって…」
「時任、それを拗ねてるって言うの」
しれっと久保ちゃんは言ったけど、俺は知ってんぞ。お前だって密かに機嫌悪くしてんの。見た目はあんまり変わんねぇけど(こいつ表情滅多に変えねぇし)、ほたるがよくわかんねぇ作業を始めてから3日くらいした時かな…雰囲気がちょっとずつピリピリしてきたんだ。そんなんになってもう2週間経ってたりする。
そんな時に滝さんからメシ食わないか、って誘われて気分転換に出てきたんだけど…結局、そこでも話題に上がるのはほたるのことばっか。俺の世界は久保ちゃんとほたるで作られてっからどっちか1人でも欠けちまうとイヤなんだ。2人揃ってねーとどうしようもなくイヤだ、って思っちまう。それこそガキがわがまま言う時みたいに。
…別にさ、ほたるにはほたるの世界があるし人生があるんだろう、ってわかってんだけどさー…
「ま、時任はほたるに懐いてるから。放っておかれるのが嫌なんでしょ、今までこんなことなかったしね」
「でも瀬上ちゃんもバイトしてんだろ?家にいないこととかあるんじゃないの?」
「たまにあるけど、基本は家にいてくれてるよ。夕方には帰ってくるし」
俺の頭を撫でながらほたるのことを話す久保ちゃんは、さっきより少しだけ雰囲気が柔らかくなった。アイツの効果ってすげーんだな。
テーブルに突っ伏してコップで遊んでたら、滝さんのケータイが震え始めた。どうやら電話だったみてーで、座ったまんま話し始める。こういう時って外に出た方が良かったんじゃなかったっけ?何かほたるはそうした方がマナーとしていいんだよ、とか何とか話してたっけなー。実際、アイツは自分のケータイに電話かかってくると廊下かベランダに移動して電話してるし。冬は寒そうだけどな。
久保ちゃんも黙って煙草吸ってて、何か話しかけづらい雰囲気だし何話せばいいか今回に限ってわかんねぇし、…氷の溶けかけた水を飲みながら滝さんの電話にそっと耳を傾けてみる。盗み聞きかな、とか一瞬思ったけど目の前で話してんだから盗み聞きも何もねーよなって思い直す。でもやっぱり相手の声は聞こえるはずもなくて。滝さんの話だけを聞いててわかったのは、相手が滝さんとそれなりに仲が良いこと、これからこのファミレスに来るっぽいことだけ。男なのか女なのかもわかんね。
「滝さん、電話だれ?」
「ああ、2人の愛しの瀬上ちゃん」
「えっほたる?!」
「おいおい、落ち着けよトッキー。あと10分もすりゃあ此処に来るからさ」
俺はほたるが来るって聞いてテンションがめっちゃ上がったけど、久保ちゃんはさっきよりも不機嫌に拍車がかかったような…気がしないでもない。何でだ?せっかくほたるに会えんのに。や、昨日もその前の日もその前の前の日も…ずーっと会ってるけどさ。まともに顔合わせるのはすっげぇ久しぶりだ。多分、2週間くらい。
それなのに久保ちゃんは嬉しくなさそうだ。何つーか、…ちょっとだけ拗ねてる?けど、ほたるが来たら直るかもしんねーよな!
滝さんの言った通り、10分ちょっとしたらファミレスの中にほたるが入ってきた。滝さんが声をかけると、やっぱり少し疲れ気味のほたるの顔が見える。久保ちゃんと俺の姿を見つけてびっくりした顔してたけど、すぐにふんわり笑ってくれてこっちに向かって足早に歩いてきた。
「よー、瀬上ちゃん」
「こんにちは。もう、久保くんと時くんがいるなら教えてくれればいいのに」
「何か言いそびれちまってな」
「ほたる!お前こっち、俺と久保ちゃんの間に座れ」
「ええ?さっすがに男の子2人の間に座ったら狭いよ時くん…」
「むー…んじゃ、俺そっち行くからこっち座れって」
コートを持って滝さんの隣に移動すれば、それならまぁ…とか何とか言って、素直に久保ちゃんの隣に座るほたる。…あ、久保ちゃんの機嫌がちょっとだけ上がったような気がする。よっし、グッジョブ俺!!
「ほたる、お昼食べたの?」
「ううん…仕上げてたら食べ損ねちゃった。何か食べていい?」
「うん。はい、メニュー」
「ありがと。…あ、そうだ、先に渡しとく。はい、滝くん」
ドサリ、とテーブルの上に置かれたのはなかなかに重そうな紙袋。興味本位で中を覗いてみれば、何百枚とありそうな紙の束が入ってた。うっわ、何だこれ!!中を覗いても何も言われなかったのをいいことに紙を取り出してみれば、ホチキスで丁寧に綴じられてた。これもほたるがやったのか?俺だったら絶対に途中で飽きちまいそうだなぁ。
綴じられた紙に書かれてたのは読むのがすっげーめんどくさそうな量の文字。読んでみても何のことやらさっぱりだ、…あ、でもインタビュー?っぽい気はする。質問とその受け答えみてーなのがあるし。
「さっすが仕事が早い上に丁寧だね、瀬上ちゃん。助かったよー」
「え?コレ、滝さんがほたるに頼んだのか?」
「そーいうこと」
「ンだよ!俺らからほたる盗ったの滝さんなんじゃん!!」
店員に注文し終えたほたるが俺の言葉にびっくりして目をまん丸にしてる。滝さんは反省してんのかと思えば、カラカラ笑ってやがるし!笑い事じゃねーよ、俺らにとってみりゃあ大問題だっての。そりゃあ、メシは作ってくれてたし帰ってこなかったわけでもねーけどさぁ…こんなにも構ってもらえなかったの初めてだし。
…ん?俺、やっぱり拗ねてたのかな?ほたるがこっち見てくんなくて。
「盗った、ってなによ時くん。私はずっと家にいたでしょ?」
「でもずーっと何か作業してて構ってくんなかったじゃん。それにまともに寝てなかっただろ」
「あら、バレちゃってた?」
「一つ屋根の下で暮らしてて気が付いてなかったら、俺達どれだけ鈍いのよ」
「ははっ悪かったなぁ、くぼっちにトッキー。これで俺の頼んだ仕事は終わりだから、大分楽になるはずだぜ?」
「もー…滝くん人使い荒すぎでしょ!インタビュー3件を2週間で書き起こしてくれ、なんて。それも1つ1つがなかなかの量だしさ」
「その分、給料も弾むって。この飯代も奢るからさ」
つーか、全然知らなかったなー滝さんから仕事依頼されてたの。元々、ほたるは自分のこと話すような奴じゃないし別に全然いいんだけどさ。
「全部片付いたの?」
「うん、終わったよ。これでようやくゆっくり眠れるー…!」
「それは良かった。明日は?」
「いつものバイトはお休み。突発でオシゴトが入らなければゆっくり出来ると思うけど」
「そ。ならちゃんと休みなさいネ」
目の前で和やかに話す久保ちゃんとほたるを見て、何つーか…こう、すっげぇホッとした気分。やっぱりこの2人は今みたいに一緒にいるのが一番だ、って思う。そこに俺も一緒にいられればもっと最高。
久保ちゃんが警察にパクられたあの事件から、2人の距離っつーか関係?が深くなったよーに俺には見えて。今までも深い絆みてーなもんが、俺には入り込めないナニかがあんだろーなとは感じてたんだ。でも最近はもっと、深いっつーかさ?あ、あれだ!近くて優しいんだ、2人の距離と雰囲気が。お互いがお互いを求めてて、それ以外いらないっつー感じ。
そんな2人を見て素直に嬉しいって思うんだけど、でも、時々。本当に時々だけど、そこに俺は入れないんだって思うとめちゃくちゃ寂しくなる。俺も混ぜろ!って言いたくなるんだけど、そういう時の久保ちゃんとほたるの顔って今までに見たことないくらい幸せそうに笑うから何も言えなくなるんだよな。寂しい、と思うのは嘘じゃねーけど、だけど…2人の中が壊れちまうのはもっと寂しくて、イヤだ。コイツらはずーっと一緒にいてくんなきゃ。そんで俺のことも求めてくんなきゃ、もっとイヤだ。わがままかもしんねーけど、これが俺の本音。
「何か、…あまーい雰囲気出すようになったね?君ら」
「そう?今までと何も変わらないと思うけど」
「ね」
「だって。どー思う?トッキー」
「変わったけど、変わってねぇよ。久保ちゃんとほたるはいつも通り」
「時任、…それ意味ワカンナイよ?」
「いーんだよ!俺がわかってればそれで!」
ふんぞり返ってそう言えば、なによソレ、とほたるが楽しそうにクスクス笑ってて。久保ちゃんもその笑顔を穏やかに眺めてて。…ああ、戻ってきたって思った。
やっぱりさ、久保ちゃんがいて、ほたるがいて、俺がいて。そんな当たり前の変わらない毎日が一番だって!