後日談 02
目が覚めて、顔洗って歯も磨いてからリビングに顔を出せば、そこにいたのは久保ちゃんだけだった。それも珍しくキッチンで料理中。
料理っつーか、家事全般を担ってんのはほたるだから、俺らがキッチンに立つことってほっとんどない。それこそアイツが急用でいない時とか、風邪で寝込んだ時くらい。
「あれ、起きたの?時任。おはよ」
「はよ。久保ちゃんが料理してんの珍しーな。ほたるは?」
「まだ熟睡中。疲れてんでない?ほとんど寝てなかったみたいだし」
「ふぅん…」
なぁんだ、ツマンネーの。今日はモグリんとこのバイト休みって言ってたし、3人でどっか出かけよーとか思ってたんだけどなぁ。けど、久保ちゃんの話を聞いてる限りまだしばらく起きてくる様子なさそうだし…俺様の予定丸潰れじゃん、別にいーけどさ。疲れてるほたる見てるより、しっかり休んでもらって元気な姿見てる方が全然いーし!
「…なんかいー匂い。なー久保ちゃん、なに作ってんの?」
「ホットケーキ。お前、前に食ってみたいって言ってたっしょ」
「あ、そーいえば言ったような気もする」
ひょいっと久保ちゃんの後ろから手元を覗き込めば、綺麗なキツネ色をしたホットケーキが何枚も皿に盛られていた。おお、テレビで見たのと同じだっうまそーじゃん!…でも3人分にしたって焼きすぎじゃね?ボウルにはまだまだホットケーキの種が残ってるしよ。全部焼いたらどのくらいの量になるんだ?これ。
久保ちゃんに多すぎ、って言ってみれば、冷凍しておけばもつから大丈夫でしょ、だってさ。ああ成程なー、確かに冷凍しておきゃあ日持ちしそーだし、朝メシとか小腹空いた時に温めればすぐに食えるもんな。食いたくなった時に温めりゃすぐ食えるっつーのはすげぇ魅力的。リビングに充満する甘い匂いで腹減ってきたなー…。
「時任、コーヒーの準備してくれる?もーちょいで焼き終わるから」
「ん。とりあえず2人分?」
「そぉねぇ…まだ起きてきそうにないし―――」
―――ガチャッ
―――パタン、
「ほたるの奴、起きたのか?」
「みたい。シャワー浴びに行ったんでない?コーヒー3人分ね」
「わかった」
テーブルに3人分のホットケーキとコーヒーを淹れたマグカップが並べられた頃、まだ眠そうな顔をしたほたるがリビングに顔を出した。眠そうだし、気怠そうだけど、昨日まで顔に浮かんでた疲労は少し薄れたような気もする。オマケにあれだけピリピリしてた久保ちゃんの雰囲気も、いつの間にか普段通りに戻ってたし。
…ってことは、昨日はオタノシミだったのかもなー。俺、爆睡してたから全然知らねーけど。起きてたとしたら俺、平然とした顔で久保ちゃんとほたるに接する自信ねぇし。
「ホットケーキ…」
「前に時任が食ってみたいって言ってたからね。食べれそう?」
「食べる。お腹空いた」
3人揃った所で早速食べ始める。ちょっと甘いけど、でも美味い。
「初めて食ったけど美味いな」
「生クリームとかアイスとか、あとフルーツのっけたりするともっと美味しいんだよ」
「あ、それいいな」
「残りは冷凍するんでしょ?今度、作ってあげるよ」
そーいや久保ちゃんはかなりの甘党で辛党だったな。生クリームたっぷりの特大パフェ食べた後に、七味たっぷりの牛丼食ってんの見た時はさすがに引いた。何で両方イケんだよ、コイツ。
一緒に住んで長いほたるでさえ、その時は引きつった笑い浮かべてたな。何度も見てるけど、どうしても慣れねーんだって苦笑してたっけ。そんなほたるも甘党だけど久保ちゃん程じゃない。多分、一般的な甘党の分類に入る―――はず。ケーキとかパフェとか食ってんのは見たことあるけど、特大サイズのは食ってんの見たことない。あ、でもホールケーキを半分くらいならイケるとか言ってたような気ィする。……想像するだけで口ん中激甘。うえー。
「美味しかった、ごちそーさま!」
「あ、なー久保ちゃん、ほたる」
「なぁに?時任」
「んー?」
「この後さ、どっか出かけよーぜ!ほたるバイト休みなんだろ?」
食べ終わった食器を片づけようとしてる2人に弾んだ声でそう問いかければ、すぐに笑って頷いてくれた。
(そーだ、久保ちゃん。俺はあんま気にしねーけど、気をつけた方がいいぜ)
(?何が)
(痕つける場所だよ。ほたるの首、めっちゃついてたぞ。隠れんの?アレ)
(あー…ちょっちやり過ぎたかもねぇ)