藪をつつけば、
「…大丈夫かなぁ、2人共」
あの2人が洗脳されるとは到底思えないし、それを疑ってはいないけれどそれでも少しは不安が残るというもの。それに変に首突っ込み過ぎて教団の人にマークされなきゃいいんだけど。…と、思ってはいるものの…マークされないっていうのはちょーっと難しい気がするな。私がいたとしてもその事実は覆りそうにないけれど。
久保くんと時くんが他の信者に紛れて潜入した日と同じ日に、私は滝沢のオニーサンと教団の裏側を調べるべく業者を装って潜入中。意外とすんなり入り込むことが出来て、ちょっとだけ拍子抜けしたのは秘密。
「瀬上ちゃんはずいぶんとあの2人に入れ込んでんな?」
「…そう見えます?」
「見えるから言ってんだろ?なのに、どうして俺と組んだの?」
本棚に大量に納められたファイルをパラパラと捲り、オニーサンの方へ視線を向けることなく私は独自に調べたことを言葉にする。
「アンタのお母さん、この教団に追い詰められて自殺…してるわよね?」
「!」
「御布施の為だけにつくった借金苦。それから闇金にまで手を染めてる。…病気の妹さんが、宗教に走った原因かしら」
口は閉じずに教団関係者の荷物を漁ってみれば、中から薬物が出てきちゃいましたよー?…そういえば、別の部屋から何かを燻したようないがらっぽい匂いががしていたっけ。あの香りは間違いなく大麻…きっと空気や水に少しずつ麻薬を混ぜて信者に与えていたんでしょ。気が付いた時にはもう手遅れ、立派なヤク中の出来上がりってわけなのよねぇ…実はこれ、よくある手だったりする。ヤク中にしてしまえばヤクザは薬のお客さんが増えるし、教団は御布施が儲かってめでたし、って所でしょう。
出てきた証拠となるモノをオニーサンに渡した時、外に人の気配を感じた。マズイ…関係者が戻ってきちゃったのかしら。そっと外を覗けば、そこにいたのは関係者なんかではなく―――私の関係者、だった。ああもう、集会に参加してるはずなのにどうしてこんな所にいるわけ?!
でも今はそれを聞いてる暇は、ないか。向こうから足音も聞こえてきてるし、あの2人を隠れさせなくちゃ。慌てたように向こうを凝視してる2人の口元を手で塞ぎ、力任せに思いっきり部屋の中へと引っ張り込む。あとはオニーサンにドアを閉めてもらえば、ひとまず安心かな。
「ほたる?!」
「しっ静かに!…何してんの、集会は?」
「つまんないから抜け出してきた」
…ああそう。でもまぁ、この2人が大人しくしてくれるわけないもんねぇ仕方ないか。
今の所はまだバレてないみたいだし、今のうちにさっさと逃げ出してしまった方が得策かもしれない。そうでないととっても面倒なことになりそうだものね。オニーサン達が話をしている間に、私は逃げる算段を頭の中で練っていた。
「証拠?」
「講習に使ってる薬物は厳重警備で手が出せんけど、幹部の荷物からこれが出てきた。瀬上ちゃんが見つけてくれたんだ」
「何コレ」
「ハシシって言ってね、大麻の樹脂だよ。信者に使ってるのは安いハッパみたいだけどね」
「純物?質によっちゃあ扱ってる組織も限られるよ」
純物かどうか、…それを判断するにはやってみないことには何とも言えないわよねぇ。それは久保くんも思ったらしく、自分の煙草にその樹脂を埋め込んでオニーサンに何気ない顔で渡しやがりました。あーあ、そんなことするからオニーサンてば久保くんのことを怪しい人を見るような目で見てるじゃない。
―――…っと?そんなこと、してる場合じゃなかったみたい。
ソレに気が付いた時はもう遅かった。勢い良く開いたドアの先には教団関係者がこわーい顔で立ってたわけで。緊張感のない久保くんの声に思わず笑いそうになってしまったけど、どうにか穏便に済ませようと「迷った」と口にしたのに頭っから全否定されました。おまけに教団内部を嗅ぎ廻る犬が、とか言われちゃった。それはちょーっと頭にくるんですけどねぇ?
「時くん、」
「おう!…誰が、行くかよ!!」
―――ガシャァンッ!
時くんが本棚をひっくり返してくれたおかげで僅かに怯んだ男共に久保くんと蹴りを一発お見舞いして、廊下へと飛び出した。
出口へ向かうにはエレベーターが手っ取り早いけど、でもそれはマズイ。非常階段を使って逃げるのが一番いいかも…!
「久保くん、こっち……?!」
視線の先にいたのは2人の警備員。あー…これはちょっとマズイ展開かも?こういう時に限って銃とか持ってきてないときた、いや、この状況で撃ったりしたら非常に危ないっていうのは重々承知してるけど!それでも目の前に男達を退けることは出来たでしょう?
…けど、持ってないものは仕方がない。素手でブッ倒すしか―――と思っていたんだけど、突然電気が消えて「しゃがめ、久保田!瀬上!!」とオニーサンの声が耳に届く。咄嗟にしゃがむと頭上で何かが光ったような気がした。でもその正体を探っているような暇はないわね…光によって目が一時的に見えなくなった男達を階段下へ落として非常階段へ繋がるドアのノブへと手を伸ばした、のに、それはただガチャガチャと音を立てるだけで一向に開く気配がない。外からロックされた、ってことか。
「ダメだ、一旦降りて…?!!」
「それも叶わないみたいよ?…どうやら一般信者さんのご登場みたい」
振り上げられた鉄の棒を辛うじて受け止めるけど、力が半端ない…!このままじゃ押し切られる、と目をつぶろうとした瞬間、鈍い音が聞こえて一瞬にして体が軽くなった。
そっと目を開けてみれば、さっきまで目の前にいた男はそこに倒れていた。そして私の前に立っているのは久保くん…彼が助けてくれたってことか。でも、助けてもらえなかったら確実に殴られてたわ。
「ダメだろ、無理しちゃあ。怪我、ない?」
「ん、ヘーキ。ありがと」
きっとあの大麻の効き目のせいね…瞳も虚ろだし、しきりに「殺せ」と叫んでいる所を見ると、…確実に薬にやられちゃってると見て間違いないでしょう。
とにかく今は開かないドアを時くんに壊してもらって、外に出るしか術がない。久保くんが時くんに指示して無理矢理こじ開けたんだけど、その先は黒服の男達によって封鎖されていた。そういえば、本棚の下敷きになっていた男…アイツが地下を封鎖しろとか何とか指示を出していたような気がする。…ここまでで、万事休すってやつね。