得体の知れぬ


あれから数日。私達なりに色々調べていたら、葛西さんから例の怪しいオニーサンの身元がわかったと連絡が入った。さっすが葛西さん、お仕事が早いよね。それに私が探るより的確だろうし、だからいっつも頼りにしちゃうの。それは久保くんも一緒なんじゃないのかなー。
パソコンに向かったまま電話をしている彼に近づいて耳をそばだてれば、葛西さんの声が微かに聞こえる。うん、まぁ問題はないかな…と思ってたら、久保くんが少しだけ音量を上げてくれてさっきより聞き取りやすくなった。ありがとー。
肝心のあのオニーサンの身元なんだけど、肩書は私達がもらった名刺通りで間違いなかったみたい。ずいぶんといい大学を卒業してて、離婚した両親の間に姉と妹あり。滝沢は母方の姓、と。そして1年前―――彼の妹は病死、ついで母親は自殺してしまっているとのことだ。…ああ、成程。神様が1年前に死んだ、と言っていたのはそういうことだったのか。

でも私が一番気になったのは、滝沢サンが芸能関係担当の記者だってこと。カルト教団の内偵なんてお門違いのお仕事だと思わない?葛西さんもそこが気になってるみたい。担当からかけ離れすぎているモノを取材しようとしているってことは、何か別の目的があるってことなんだろうけど…ま、それは私達にとっては関係ない話ではあるかなぁ。
それはともかくとして。『W・A』が絡んでるかどうかはわかんないけど、あの教団の裏に暴力団がいるってことは間違いないって私達は踏んでる。だから何かあの薬に関するものが出てくるかもしれないから、もう少し調べてる必要はある。葛西さんは心配してくれてるみたいだけど、ね。
こまめに連絡する、とだけ告げて久保くんは電話を切った。それと同時にバタバタと時くんがこっちの部屋に走ってくる足音が響き渡る。


「あれ、2人共こっちの部屋にいたんだ」
「おっかえりー時くん」
「ネット?」
「うん、入会者向けのHP」


そのHPによれば5日後に新入会員向けの集会があるんだって。どんなことをするのか、どんな風に動いてるのか…内部を探るには正にうってつけよね。よって、即答で参加決定です。


「あの滝沢ってのも来るのかな」
「来るんじゃない?内部を探りたがってたし。…取材が目的なのかは、わからないけどね」
「…どーすんの、アイツと手ぇ組む?」
「さあ?どうだろうね。状況次第かな」
「ほたるは?」
「んー?私?私は組むよ、あのオニーサンの手伝いしてくる」


時くんが買ってきてくれた飴を口に放り込んでしれっと言ってみれば、時くんがびっくりした顔で詰め寄ってきた。うん、こんな反応されるだろーなとは予想してた。隣に寝転んできてた久保くんも怒りのオーラを薄らと出しちゃってまぁ…何でそんなにも私の行動を気にするのかね、君達は。
確かに一緒に行動しろ、って言われたけどさぁ…3人もいるんだから別々に動いた方が情報も集めやすいし、集めるペースも上がるってもんでしょ?さっさと何かを手に入れることが出来れば、あの教団から手を引けるかもしれないんだし。オシゴトはちゃっちゃと片づけるに限るってことよ。
クスリ、と笑ってそう言えば、僅かに訝しんだ視線を向けてくる久保くん。やぁね、怖い顔しちゃって…説明しろ、って言いたいんでしょう?珍しいわね、君がこんなにも気にするなんて。


「利害関係は一致してる、ってオニーサンは言ってたけど…アッチが情報を確実に教えてくれる保証はないでしょ?だったら自分でも探っておいた方が得ってこと」
「ふぅ〜ん…別にほたるが決めたんならいいけどさぁ、気を付けろよ?アイツ、お前に何するかわかんねーし」
「クスクス、心配性だねぇ時くんは。だいじょーぶだって」
「得体知れねぇんだよ、あの男。大体さァ何だよ、神様神様って。ンなモンいねーし、必要ねーじゃん」


…そう思えるのは、君が強いからだと思うよ?時くん。


「―――じゃあ、久保ちゃんとほたるの神様ってなんだよ」
「……さあ?」
「私は、」


脳裏に浮かぶのは、優しく微笑んで

『ほたる』

優しく私の名を紡いでくれる、あの人―――――


「ほたる?」
「…ないよ、そんなもの。縋ったって、何をしたって―――助けてなんてくれないもの」


どれだけ求めようと、心の拠り所にしようとも。いつかは見捨てられる時が来るのだから、そんなものを胸に抱いたって何にもならない。ただ虚しさが増していくだけだ。
複雑な表情を浮かべている時くんの頭を軽く撫でて、ご飯の準備をする為に寝室を後にした。


「さて、何を作ろうかなぁ」


頭を切り替えて、冷蔵庫の中身を確認しながら献立を頭の中で組み立てていたら久保くんと私の寝室からすっごい叫び声が聞こえてきた。まだ昼間とは言え、あんなに大きな声を出したら近所迷惑でしょうに…一体、何を騒いでるのかしらあの2人は。それでも原因を確認しに行く気も起きなくて、そのまま無視を決め込んでご飯の準備に取り掛かる。

野菜が結構余っちゃってるし今日は野菜炒めにしようかな。あとわかめとネギのお味噌汁と、ほうれん草の胡麻和え…あ、冷凍の鶏肉があるからこれと舞茸で炊き込みご飯にしちゃおう。あとはー…あ、卵の賞味期限が近いから卵焼きも追加しよう。
黙々と野菜を切り始めると、またもやバタバタと足音が響いてまいりました。うん、もうその正体はわかってるから何も言わないけど、私を巻き込むのを止めて頂けるととっっっっても有難いんだけどなぁ。本当に。


―――バッターン!!

「聞いてくれよほたる!!」
「はいはい、話ならちゃんと聞くからもう少し静かにドア開けてくれる?壊れちゃうでしょ」
「あ、ごめん。……じゃなくて!久保ちゃんてばひどいんだぞ?!」


ひどいって何さ。
準備の手を止めずにそう問いかければ、とんでもない爆弾を落とされました。何か、と言いますと…久保くんと時くんが集会に参加する為、怪しまれないように考えたらしい設定なんだ。ちなみに久保くん考案。でもこれがねー…あの、時くんの言う通りひどい。
どんな設定かと言うと、『俺達はホモのカップルな上、どーしょーもないセックス狂で、親族一同に引き裂かれそうになり駆け落ちした許されない愛に悩む腹違いの兄弟』だってさ。うん、まぁ時くんが嫌がる理由はよーーーくわかるでしょ?

時くんにあのオニーサンの手伝いなんて止めて、こっちに戻ってきてくれと泣かれそうになったけど、私がいたとしても…やっぱりとんでもない設定になってたと思うわよ?2人がホモカップルじゃなくなるだけで、3人でいないと安心できないとか、3人でセックスしないと眠れないとか、そんな感じで。
私がボソリ、と呟けば、時くんの顔が真っ青になった後に一気に真っ赤になりました。ほーんと可愛い反応してくれるなぁ、この子は。


「もー可愛いなぁ、時くんは!おねーさんが色々教えてあげたくなっちゃう」
「な?!」
「ほらほら、時任で遊ばないの」
「あら、いたの?久保くん」
「割と最初からね。…何か手伝うことある?」


おや、それは有難い。遠慮なく野菜を切ることをお任せすれば、時くんも「俺も手伝う!」と小学生並に元気よく手を挙げてくれたので、お米を炊いてもらうことにする。
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