のんびり、のんびり
―――俺、京都タワー登りたいんだ!
場にそぐわない声音と言葉。でも彼のその一言に私とタツは励まされたんや。
…ほんで、ぜーんぶ片付いたら…皆で観光出来たらええなぁとか、密かに思うとったんよ。
―――ガラッ
「神楽」
「タツ?おはよぉ」
「おはよーさん。もう起きて平気なんか」
「おん。ぎょーさん寝たらスッキリしたわ、眩暈も治ったし」
「ほんなら行くで」
「?何処に」
「塾生全員と若先生で京都観光。具合良ぉなったなら、お前も行くやろ?」
タツの問い掛けにすぐさま応、と返して、嬉々として準備に取り掛かる。
お風呂と着替え、さっさと済ませといて良かったわ。持ってくんは財布と携帯とー…あとタオルくらいでええか。
小さめのショルダーバックに荷物を詰めとったら、何や視線を感じた。…視線ゆーても、此処にはタツと私しかおらへんよねぇ?
くるっと後ろを振り向いてみれば、やっぱりタツがこっちをじーっと見てはった。どないしたんやろか。
「なん?」
「…いや、お前そんな服持っとったか?」
私が今着てる服は、黒のショートパンツに薄いピンクのチュニックワンピース。透けるから、ワンピースの中には黒のキャミソールも着とる。
…あぁ、成程。見たことない服着とるから見られてたのか。
こっちにおった時もこんな服、着たことなかったもんね。驚くのも無理ないわ。
「…おば様がくれはった。それもぎょーさん」
「は?おかんが?!」
「おん。娘がおったら、こういう服着せたかったんやーってめっちゃ嬉しそうにしとった。おじ様も一緒に」
「何しとんねん、2人して…!!!」
ちっさい頃も女の子が着るかいらしい服、買いに行こうってよう言われとったけど…私、断固拒否しとったんよね。なんちゅーか…申し訳、なくて。
幼いながら自分の親がもうおらんってことは知っとったから、迷惑とかかけたらあかんって思っとって…せやから、タツ達のお下がりでええってずっと言っとったんや。
その度におじ様とおば様が悲しそうに笑うの、わかっとったんやけど…それでも嫌やった。
…そしたら、パーカーにジーンズばっか着るようになってしもたんやけど。
「…あんなぁ、タツ。おじ様とおば様、私のことほんまの娘のように思ってくれとったんやて。養子縁組なんてしとらんけど、それでも私らの大切な娘なんよって」
「…おん」
「せやから、もっと甘えぇって言われてしもた」
「お前ちっさい頃から変なとこ達観しとったからな…おかん達も心配やったんやろ」
「おん、心配やったって言われた。せやけど、私は所詮他人で、忌まれの家系に生まれて…厄介者やってずっと思っとったから」
血を対価に動く使い魔を使役する、呪われた家系。
それ故、佐伯家の当主は…あまり長生きせえへんのや。呼び出す度に血を対価に渡さなあかんから。…それも尋常やない量を。
普通、使い魔は対価を求めるわけやないみたいなんやけどね。ウチのは違たらしいわ。
せやから、忌まれの家系。呪われた家系。親戚や分家にはえらい勢いで嫌われとったなぁ。
「誰も厄介者なんて思ってないわ。お前、気に入られとるしな」
「…おん。今日、実感した」
嫌われてはいない、と思ってはおったんやけどね。
「此処はお前の家(じっか)や。遠慮せんでええ」
「ふふっおば様にも同じこと言われた!やっぱり親子やねぇ」
「喧しわ!…準備出来たんなら行くで」
「はーい」
私を引き取ってくれたんが、勝呂家でほんまに良かったわ。
タツと一緒に表へ出てみれば、もう皆集まっとった。
あ、燐くんとしえがめっちゃわくわくしとる。かいらしなぁ。
「あ、坊!神楽さん!」
「神楽、あんた大丈夫なの?貧血なんでしょ?」
「よう寝たから平気。無理はせえへんつもりやし」
タツやおば様にも気分が悪なったら休め、言われたしね。
「じゃあ、神楽ちゃんも一緒に観光出来るんだね!」
「おん。ほんで、何処から行くん?」
「東寺さんですよ。虎屋から近いですし」
皆の希望としては、伏見稲荷・甘味屋…あと京都タワーってとこらしい。
燐くんの京都タワー行きたい発言には、ねこが昨日の私らと同じ反応をしてたみたい。…まぁ、京都に住んでたお人ならそうなるわね。
希望の場所を回りつつ、あとは観光としてはベタな場所を回るんが一番ええかなぁ。
金閣寺、銀閣寺、清水寺…あとは土産物屋巡りやろか。
「勝呂達も来たし、出発しよーぜ!」
「暑いのに元気やねぇ…」
「あはは。燐くんらしゅうてええやないの」
んー…けど、本音を言えば…もっと気まずいかも、て思ってたんやけど。
燐くんが拍子抜けするぐらいにいつも通りで…何やホッとしたっちゅーか、気が抜けたっちゅーか…。
昨日も思ったけど、まるで何もなかったみたいに思えてしまうから…不思議やなぁ。
一時はどうなることかと思ったし、こんな風にまた一緒に笑ったり出来るなんて…予想出来んかった。
せやから、今…めっちゃ嬉しい。こうやって一緒におれて。…あ、せや。タツ達に聞きたいことあったんや。
「なぁ、朝何や騒がしかったけど…また問題でも起きたん?」
「朝?……あぁ、柔造達のことか」
「柔兄、蝮姉さんと結婚するんやて」
「え、結婚?!何でまた急に…?」
「僕らも今日知ったんですけど、決めたんも急やったみたいですよ?」
柔にぃと蝮姉さまが結婚…いがみ合ってたから、お互いに嫌いなんやと思ってたけど。
でもそっかぁ…あの2人、結婚するんかぁ。
「金兄がぶつくさ文句言うとったわ…ちゅーか、相手が蝮姉さんてほとんど身内やんけ。ひくわぁ…お嬢かてそう思わん?」
「……ほーか?」
「え、ひかへんの?」
「別にええんちゃう?お互いに納得しとるんやったら。無理矢理に決めたんなら、私は反対するけど…柔にぃも蝮姉さまも納得して、お互いを好いとるんやったらええんちゃうかなぁ」
「大人の意見ですねぇ、神楽さん。志摩さんと違て」
「子猫さんひどい!!」
何かお祝いしたいなぁ…あの2人には可愛がってもろたし、お世話にもなっとったさかい。今までのお礼も兼ねて、何か渡したい。
何がええかなー…お菓子は食べてしもたら終いやし、着物は高いし、何よりサイズわからんしなぁ。悩んでもらちあかんし、色々見てから決めてもええか。
「なぁ、土産物屋さん回る時間て取れる?」
「取れますよ。ルームメイトの方にお土産ですか?」
「それもあるけど…柔にぃと蝮姉さまにお祝いあげたいねん」
「結婚祝いか」
「おん。お世話になっとるお礼も兼ねて、やけどね。タツも選ぶのつきおうてや」
「ええよ」
正十字学園に入学する為に、此処を出てったのは…今年の3月。
まだ4ヶ月ちょっとしか経ってへんのに、何やえらい久しぶりな気がしてしまう。
ずっと見ていた光景だったはずなのに、懐かしゅうて仕方ないんは…ようやくホッと出来たからなんやろか。
あん時と何も変わらん景色やのに、今までよりずぅっとキラキラしてるように見えて。何だか自然と笑みが零れて来る。
なーんも変わっとらんのが嬉しゅうて。皆が笑って―――ちゃうな、生きとるのが嬉しいんや。
怪我したり、疲れてたりはするやろけど…来た時と同じ、誰一人欠けとらんから。
きっとそれだけでいいんやね。幸せって、こういう些細なことなんかもしれんなぁ。
「でっかー…」
「あれは不動明王。聞いたことくらいはあるんやない?」
「え、あったかな…」
「あはは。燐くんは京都、初めてなんやっけ?」
「おう!今まで学校行事なんて参加したことなかったし」
「あぁ、なーる…」
友達と出かけるっちゅーのが初めてで、とても楽しみにしていたんだと教えてくれはった。
こうやって皆と色んなとこに行けるんが楽しくてしゃーないんやて。うん。でも…その気持ちはわかる気がするなぁ。私も楽しくてしゃーないもん。
明陀の皆と出かけたりすることは何度かあったけど、こんな…友達とか仲間って呼べる人達と出かけるなんてこと、私もしたことあらへんから。
タツ達は別にしてな?あのお人達は友達っちゅーより、家族やし。
東寺を出た後は出雲ちゃんご希望の伏見稲荷に行って、ぎょーさん歩いて、バスで移動して、桂川に辿り着いた。
何となく休憩、て雰囲気になりはって、燐くんとタツと廉は川ん中に入って遊んどる。この気温なら冷たくて気持ちええやろな。…怒られるから入らんけど。
楽しそうに笑う皆をしばらく眺めてから、少し離れたとこで立っとる雪くんに近づいた。
「雪くん」
「…神楽さん」
「大丈夫?疲れとらん?私らが休んでた間も、報告書まとめたりしはってたんやろ?燐くんが心配しとったで」
「兄さんが…」
今日の雪くんはいつもよりピリピリしてはって。
きっと燐くんのことで悩んではるんやろなとは思っとるんやけど、それは私が口出していい問題ではないから。
もちろん、彼が話してくれはるっちゅーんなら聞くけど…雪くんは、絶対に言わない気がするから。
本当ならそっとしとくのが一番なんやろけどね?それは嫌やってん。せっかく皆で来とるんやし。
「お疲れの雪くんに私からの差し入れ。…どーぞ」
「あ、ありがとう…」
「…なぁ。少し相談してもええ?」
「相談?僕に?」
「おん。こんな時にあれなんやけど…奥村先生に進路相談させてもらいたいんよ」
にっこりと笑ってそう言えば、少し驚いた顔をした雪くん。
あは。その顔、あんまり見ぃひん表情やね。ちょぉ可愛いかもしれん。怒るやろうから直接は言わへんけども。
「神楽さんが進路相談なんて珍しい気がするけど…悩み事?」
「んー…悩んでる、のかもしれん。あんな?私、希望は詠唱騎士と騎士なんよ」
「神楽さんの授業態度、実力から見て何も問題ないと思うけど」
あ、何や雪くんに言われると自信になるなぁ。
おおきに、とお礼を言うてからまた言葉を紡ぐ。
「せやけど、今回不浄王討伐の任務に同行することになって、実戦に参加して…思ったことがあるんです」
今回の実戦参加で、たくさんのことを学ぶことも出来た。
自分の実力とか、何が足りひんのかとか…良いことも悪いことも、全部。ほんで、1つの結論に辿り着いた。
「騎士って…遠距離攻撃には向かんし、至近距離の攻撃だけじゃあ私は弱い気がすんねん。せやから―――」
「竜騎士?」
「…おん。竜騎士の資格も、取ろうかなって考えとる」
銃なんて使うたことあらへんし、私に向いとるんかとか…そんなんわからんけど、それでも大切なもんを護る為の幅が広がるんなら、試したいて思ったから。
「向上心があるのは良いことなんじゃない?無茶しそうで心配だけど」
「無茶なぁ…してるつもりは全然ないんやけど、あかんね。自分ではわからん」
これでもセーブしてるつもりやし、自分に出来ることはやるって決めとるから…私の中ではまだまだって思う部分が多くて。…と、思ってるんやけども。
どうやら周りには無茶してるように見えるらしく、しょっちゅう注意される。
怒られるっちゅーより、諭される感じ…だけど。あ、タツはめっちゃ怒るけど。
せやけど、無茶してるつもりなんて全くないから…何やろ。不本意?って思ってしまうんよね。タツにはめっちゃ言い返すし。やって、あっちかて無茶しとるもん。
雪くんやねこだって、色々抱え込んだり、溜め込んだりするお人やし…………あ、そうか。
「こんな、気持ちなんやね…皆」
ようやく、わかったような気がした。
「おーい神楽ー、雪男ー!お前らもこっち来いよ!」
川に入っとった燐くんが笑顔で私達を呼ぶ。
アイコンタクトでどうする?と問いかければ、苦笑しながら首を振られた。私は混ざってこよかな。ちょぉ涼みたい気分やし!
雪くんに今度、竜騎士について色々聞かせてとだけ言って、土手を駆け降りた。こけそうになったんは言うまでもない。
「気ィつけんとまた怪我すんで?」
「お、おん…今のはちょぉ危なかったわ…」
「雪男と何話してたんだ?」
「えらい仲良さげな雰囲気でしたけど」
「進路相談しとっただけ〜。…わ、冷とうて気持ちええ」
サンダルを脱ぎ捨てて川に足を突っ込めば、ひんやりとして良い感じ。
奥まで行くつもりはあらへんかったから、川ん中に足を突っ込んだまま、川べりに腰掛ける。
あっついけど良い天気やし、寝っ転がりたくなるなぁ…あ、でも芝生やなく河原やし直にいくんは痛いかな。けど、敷くもんなんて何も持ってきてないし。
うー…痛いやろうけども、それでも寝っ転がりたい。
よし。ちょぉ痛いくらいなら何とかなる。やりたいことは我慢せえへんのや!
自問自答して、そのまま後ろに倒れ込んで、うーんと伸びをすれば。
…あぁ。やっぱり気持ちええわ。太陽が眩しいけど、キラキラしとって綺麗やし。
「神楽さーん…下に何も敷いとらんのやし、そのまま寝転がるんはやめましょうよ」
「私も最初はそう思ったんやで?でも気持ち良さそうやなーと思ったらなー…」
「ふふっでも神楽ちゃんの顔、気持ち良さそうに緩んでるね。そんな表情、初めて見たよ」
「しまりない顔しちゃって…だらしないわよ!」
「あはは。ええやん今日くらい〜」
しまりない顔でも、だらしのうても、今日くらいは許してぇな。やって、ようやくゆっくり出来るのやし。
皆かてずーっと気張っとったんやし、少しくらい気ィ抜いたって誰も文句言わへんやろ。
東京に戻ったらまた忙しくなるんやし、夏休みらしいことが出来んのも今日だけやと思うから。
せやから思いっきり遊んで、思いっきり笑って、色んな話をして…ほんでまた頑張ろう。自分の夢に、向かって。また一歩ずつ。
「神楽、そろそろ移動すんで。起きぃや」
うとうとし始めた所でタツにぺちぺちと頬を叩かれた。
…あかん。此処、気持ち良くて寝てしまいそうになった。てか、一瞬意識が飛んでたわ。
ふわぁ、と欠伸を1つ。伸びをしつつ起き上がって、持ってきとったタオルで濡れた足を拭いて。差し伸べられたタツの手を掴んで立ち上がる。
他の皆はもう準備出来とったみたいで、すでに土手を登り始めとった。早いなぁ…それとも私が遅いだけか?
「…お腹空いてきた」
「朝飯、ちゃんと食うたんか?」
「食べたけどー…昨日、何も口にしてへんから」
「あぁ、そういやあのまま爆睡しとったもんな」
そうなんや。燐くんと話をして、タツと話をして、ほんで大泣きして…そのまま寝てしもたから。
その後、廉達が食事を持って来てくれたらしいんやけど…私、全く起きんかったらしくてな?ご飯食べ損ねてん。
確かにへとへとやったけど、一度も起きることなく朝を迎えるってどうなん?
まぁ、そのおかげで体調は良うなったけども。眩暈も治ったし、頭と体もすっかり軽うなったしなぁ。
「途中で何か食うもん買うたるわ」
「わ、ほんま?ありがとぉ」
「ほな行こか。皆、待っとるで」
「おん!」
その後は金閣寺に行って、しえご希望の甘味を食べて、清水寺に行って、最後に京都タワー。
燐くんがめっちゃ嬉しそうにしとんなー。行きたい、って豪語しとったもんね。
私達からしてみれば、他に見るとこはぎょーさんあるんやけど……まぁ、ええか。楽しそうにしとくれとるし。
てか、こうなっとるんやなぁ…京都タワーて。
「コレ欲しい!…あ、でもたっけぇな…」
「……燐くん。さすがにそれはやめとこうや…」
「え?何で?京都タワーに来た記念だぜ?」
「うん、まぁ、そうなんやけどな?」
「神楽、何も言うな。好きにさせとき」
ええ…?せやけど、さすがにあれお土産にすんのはいかがなもんかと思うで?
結局、人形は高かったからストラップにしてはったけど…それもどうかと思うんは私だけなんやろか。
……ようわからんけど、グッズが作られとるくらいやし、密かに人気あるんかも。どう考えても、理解出来ひんのやけどもね?(いい加減、失礼ですよ?)
陳列されとるグッズ見て、そんなこと考えとったら燐くんに声を掛けられた。
「あ…あのさ、頼みがあるんだ。俺、こんな奴だけどこれから皆と…此処で一緒に写真撮ってもらってもいーかな!」
此処、と燐くんが指したんは…京都タワー展望記念、と書かれたパネルと…京都タワーのキャラクターの置物が置かれた、所謂撮影スポット。
えらいかしこまって、何言い出すんかと思えば…
「チッ断ってサタンの息子に燃やされたらかなわんしなぁ」
「サタンの息子の命令ならしょーがないわね…」
「そんな遠慮がちにゆーても脅迫にしか聞かれへん」
「サタンの息子さんの仰せのままに…」
「まだそのネタ引っ張ってんの?!イジメ?!」
「いや、むしろそこ生かしていかんとー!せっかくのキャラがもったいないやん!」
「くくっ…あはははは!」
「神楽、笑い過ぎじゃね?!」
「つーか、そこイチイチ許可取らんでもえーわ!」
「ふふっ…そうそ!許可取らんでも皆撮ってくれるよー?友達、なんやし」
タツと一緒に燐くんの背中を叩けば、嬉しそうに顔を綻ばせて。
こうやってからかってはるけど、みーんな燐くんのことを友達やって思ってるはずやよ?友達には許可なんていらんのやし、もっとグイグイきたらええねん。遠慮なんていらんのやから。
…せやけど、多分からかうのはやめへんのやろなぁ。おもろいし。やって、今も―――――
「はいっチーズッ!」
「おい!!!まさかSATAN?!」
「あははははっええ写真撮れて良かったねぇ、燐くん!」
タツが「S」、出雲ちゃんが「A」、ねこが「T」、廉が「A」で…「N」がまさかの雪くんで!思わぬ参加者に私は尚更、大笑いしてしもて。
「SATAN」を人文字で表現した5人と、普通に笑顔やピースの2人と、ビックリ顔と大笑いしてる2人…何とも奇妙な9人の集合写真が撮れました。
ある意味、一生忘れん思い出になった気ィがするわー。
けど、一生大切にするわ。この写真。