おかしい!


ここんとこ、神楽の様子がおかしい。…らしい。


 side:勝呂


事の発端は志摩。何や知らんけど、神楽の様子がおかしい!と俺と子猫丸に言うてきた。


「神楽さんの様子が、」
「おかしい…?」
「そうなんです!お2人共、気ィついてなかったんですか?!」


…正直、気ィついとらんかった。まぁ、確かに最近のアイツは忙しそうにしてはったけど。
せやけど、神楽はよう奥村や杜山さんに勉強おしえてはるし…そないに気にしとらんかった。

が。志摩が言うにはここ1週間程、神楽の付き合いが悪いんやて。
つーか、アイツにも予定があるやろし…いっつも空いてるわけないんと違うか?俺らにばっかつきおうとるわけにもいかんやろし。


「前は休み時間とか、お昼休みとか、塾終わった後とか!ずぅーっと一緒におりましたでしょ?!」
「まぁ…言われてみれば、そうですねぇ。最近は用事があるとか、先生に呼ばれてはるとかでいませんどしたけど」
「それがおかしいねん!!」
「…何がや。何もおかしいことあらへんやろ」


別に用事があるんのも、先生に呼ばれとんのも…何もおかしいことやない。志摩は何が気に食わんのやろ。
確かに俺らは幼なじみっちゅー間柄で、ちっさい頃からよう一緒におった。
特に神楽は「青い夜」で両親を失って。本来なら身寄りののうなった彼女を引き取るんは、親戚や分家の奴ら。
せやけど、誰一人…幼い神楽に手を差し伸べる奴らはおらへんかったんや。"忌み家の子ぉはいらん"とか何とか言うてな。ほんで、和尚とおかんが保護者代わりになる言うて、神楽を引き取った。

…とは言っても、俺もそん時はまだ赤ん坊で記憶なんかあらへん。これは全部柔造や八百造から聞いた話。
まぁ、そんなわけやから…俺ら4人でおるのは至極当然のことで。
それに何の疑問も抱いとらんかったのやけど、俺らももう高校生やし、ずっとは一緒におれんくなる。徐々に一緒におる時間が減ってきてもおかしくはない。


「だってあのお嬢ですよ?俺らか明陀のお人ら以外と付き合うの嫌ってたあのお嬢が!こんなしょっちゅう用事あるわけあらへんでしょ!!!」
「……志摩さん」
「お前、神楽がおったらぶん殴られるで」
「でもほんまのことでしょ?」

……否定はせんけどな。
神楽は人付き合いが好きな奴やあらへんから、ほんまに気ィ許してる相手としか付き合わんのや。
友達が全くおらへんわけやなかったみたいやけど、ほとんど俺らとおったからなぁ…他の奴と出かけてるっちゅーと、柔造や金造達やった。
それを知っとるから、志摩の言うことを否定はせんけども。

様子がおかしいかどうかは置いといて…忙しそうにしとる理由は、気にならんでもない。
さっきまでは確かに気にならんかったんやけど、こう言われて意識してまうと…気になるっちゅーのが人間の性。


「(何でもかんでも詮索するつもりなんざ、あらへんけど…)」


志摩から様子がおかしい、と聞いた日の昼休み。
神楽は何や図書館に用事があるゆうて、此処にはおらん。そん代わりにおるんは、最近一緒にメシを食うようになった奥村で。
何故か志摩は奥村にまで最近の神楽のことを話しとるけど…ええんか?これ。


「神楽の様子?…別にいつも通りじゃねぇの?」
「普段はそうですけど、昼休みとか塾の終わりとか…最近、しょっちゅうおらへんの!今かて図書館に行っとるし…何しとんのやろ」
「……あぁ、そーいや」
「奥村、何や知っとんのか?」
「知ってるっつーか、最近よく雪男と一緒にいるとこ見るぜ?」
「若先生と?」


それも2人で。

奥村の話を聞いて、一瞬思考回路が止まったような気がした。
…え、何で若先生と一緒におるんや?や、真面目なあいつのことやさかい。塾の課題でわからんとことか聞いとるんやと思うけど。
せやから、あの2人の関係がどうこうとか…思ったり、してへん…けど……………気にはなる。どうしょうもなく気になる。


「え、もしかしてお嬢と若先生て付き合っとんの?!」
「ちゃうと思いますけど…神楽さん、勉強熱心な方ですからわからんとこ聞きにいってるんとちゃいますか?何でもそっちと繋げんでくださいよ。ねぇ?坊」
「えっ?あ、おん…」


俺も一瞬それが頭ん中、よぎったとは言えん…!


「塾がある日はよく一緒にいるし、ない日でもたまに校内で見るぜ?昼も学食とかで見るし」


…せやから、最近は昼休みおらんのか。若先生と一緒におるから。

―――ドクッ…

何や嫌な気分やな。別にあいつが誰とおろうが、干渉するつもりなんざあらへんけど…気に食わん。
神楽とは付き合うとるワケやないし、ただの幼なじみやし、そないに気にしても仕方あらへんのやけどな。


「(俺は―――…ずっと昔から好きやけど、あいつはどう思ってんのか知らんし)」


そもそもあいつは恋愛とか、そういうもんに興味なさそうやしなぁ。
俺も恋愛に現抜かしとる場合やない、ちゅーのはわかっとるつもりやけど…昔っから好きなんやから、今更どうこう出来るもんと違うから。
…そない簡単に諦められたら苦労せんわ。

せやから、誰にもバレへんように…隠し続けることを選んだ。神楽に伝えるつもりもあらへん。
伝えてこの関係が崩れるよりも、ずるかろうが何だろうが…あいつの隣におれる"幼なじみ"の立場を保ちたいんや。卑怯なんは認識しとるけど、誰にもここは譲らん。


「今まで一緒におるとこなんて見たことなかったのに…何や怪しくないですか?坊」
「…別に怪しくあらへんやろ。ちゅーか、神楽が誰とおろうが俺らに何や言う権利はないやろが」
「坊の言う通りですよ、志摩さん。神楽さんには神楽さんの交友関係があるんでしょうし、いつまでも一緒にはおれませんよ」


子猫の言葉が、えらい奥まで刺さった気がした。


「お嬢!この後、皆でお茶でも行きません?」
「あー…堪忍。ちょぉ用事あるんよ」
「またですかー?最近、用事あるゆーて全然俺らと一緒におらへんやないですかぁ」
「ほんまごめん!!もーちょいしたら落ち着くからっ」


そう言うて、神楽は慌ただしく教材を鞄に突っ込んで、教室を出て行った。
えらい急いではったな…最近はいつもバタバタしとるけど。
普段はもーちょい余裕持ってはるし、あないにバタバタ忙しなく動いとる奴やない。奥村や志摩はバタバタうるさく動いとるけどなぁ。


「(そういや、もーちょいしたら落ち着くとか言うてたけど…期間限定なんか?)」


朝、志摩から神楽の様子がおかしいて聞いてから、ここ最近のアイツの行動を思い返しとったけど…京都から帰ってきてからや。
それからよう図書館に籠ったり、塾が終わった後も遅くまで居残りしとることが増えた。休み時間も何や分厚い本やカタログみたいなんをずーっと眺めとる。それも1人で。
何を読んどるんか気になって一回覗きこもうとしたけど、えらい勢いで隠されてしもた。苦笑しながら「見んといて」て言われたら…大人しく引き下がるしかないやんか。…志摩やないんやし、多分祓魔に関する本やとは思うけど。
疑っとるつもりはないんやけど、隠されたら余計気になるいうんは…ほんまやな。


「…あれ?神楽さん、ファイル忘れてはる」
「ほんまや。急いで出ていきよったからな、しまい忘れたんやろ」


授業で使てるのとは違う、ルーズリーフを挟んどるファイル。忙しなく動くようになってから、よう持ち歩いてるもんや。復習や予習用なんやろな。
一瞬、中を見たい衝動に駆られたけど―――寸での所で思い止まった。気になるんはほんまのことやけど、何や俺が見てまうのはあかん気がして。

…この後は用事もあらへんし、塾も終わったし…コレ届けたるか。
明日渡したらええんやろうけど、きっと必要なもんやろし…そうしたろ。何しとるんか…気になってしゃあないし。


「子猫、志摩。先に帰っとってや」
「坊、何や用事ですか?」
「神楽にコレ届けてくるわ。必要なもんやろし」


自分の荷物を鞄に詰めて、子猫達にそう告げれば。
昼休みに奥村から聞いたことが気になるのか、志摩も一緒に行くて言い出した。
別に一緒に行くんは構わんけどな…こいつ喧しそうなんやけど。絶対。


「やって気になりますやん!お嬢と若先生の関係!!」
「関係も何も…ただの講師と塾生とちゃいますのん?」
「そうかもしれんけど、図書館で2人きりでーとか聞いたら気になりますわ」


……気にならん、て言うたら嘘にはなるが…志摩が言うてることはアホらしと思ってしまう。
さて、さっさと探しに行くとするか。腹も減ってきたし。

神楽を探しに塾で使うてた教室を出て、早一時間弱。
図書館にいるやろ、と思ってたのにそこはハズレで。正十字学園の空き教室も探してみたものの、何処にもおらへん。
もう放課後やし、すぐに見つかると思ってたんやけど…何処におるんや?

ファイル片手にあちこち歩き回る。もう探してない場所なんかあらへんやろ、てくらい歩き回って。
これだけ探して見つからんっちゅーことは、やっぱりあっちにおるんやろか。しゃあない。もっかい戻ってみよか。
渡されとる塾直通の鍵を使うて、再び塾へと足を踏み入れた。


「先生方が使てる部屋はもう電気消えとりますね…」
「今日はほとんどの先生方が任務で出とるらしいからな。残っとるんは若先生くらいみたいやで」


廊下に響くんは、俺ら3人の靴の音のみ。
電気はついとるけど、いやに静かで、誰もおらんような…そんな不思議な感覚になる。別に怖いとかは思わんのやけどなー…何なんやろ、この感覚。

ん…?何や薄らと灯りが見える。あそこも空き教室やったはずやし、神楽の奴あそこにおるんやろか。
何故かそっと近づいて、教室ん中を覗いてみると…そこには探しとった人物がおった。
えらい真面目な顔して黙々と何かを書いとって。その隣には―――…


「若、せんせ…?」
「え、何やええ雰囲気やないですか?ほんまにつきおうとるんじゃあ…」


ドクリ、と心臓が嫌な音をたてる。
志摩の言葉を鵜呑みにしとるわけやない。せやけど、目の前に広がる光景に何とも言えんで。
見たくない。けど、目を離せない。2人でおる空気が何とも言えんほど、自然で。
まるで昔っから一緒におったかのように錯覚してまう程に…馴染んでるっちゅーか、それが当たり前っちゅーか…。

忘れモンを届けに来たことさえ忘れてしもて、声をかけることも出来んまま…そこに立ちつくしてしもた。
ボーッとそこにおったら、不意に神楽の視線がこっちに向いて…俺らに気がついたらしい。
少しびっくりした顔したけど、すぐいつもの笑顔になってこっちにやって来る。座ったままの若先生もよう見る笑顔や。


―――ガラッ

「お三方、お揃いでどないしたん?」
「え、あ、の…コレ、忘れとったから」
「あっ私のファイル!良かったぁ、失くしたと思ってたから。ありがとぉ」


へにゃり、と笑う神楽は拍子抜けしてしもたくらいに、いつもと変わらん態度。
見られたらヤバイとか、何や隠しとるとか…そんなんは全然なくて。ほんまにただ、若先生に勉強を教えてもろてただけのように感じたんや。
せやけど、教えてもろてただけにしては…近過ぎとちゃう?それに何でわざわざ場所変えて教えてもろてるんやろ。別に塾で使てる教室でも出来るやないの。


「神楽さん」
「あ、雪くんごめんな?遅くまでつきおうてもろて」
「大丈夫だけど…そろそろ帰った方が良いと思うよ?ちょうど勝呂くん達も来てくれたし」
「ん、そうする。ありがとぉね」
「このくらいお安い御用だよ。…じゃあ、気をつけて帰って下さいね?4人共」
「若先生はまだ帰らんのですか?」
「僕はまだ仕事が残ってるので」


教材を広げっぱなしやったのか、神楽はパタパタと教室内に戻って荷物をしまい始めとる。…何や日に日に荷物増えてないか?あいつ。
学園指定の鞄の他に大きめのトートバッグ。その中にも図書館で借りたであろう、分厚い本が何冊も入っとるようで。
他にもノートやら何やらが入った紙袋も持ってはるなぁ。女子が持つ量とちゃうで。


「…神楽、そっちのトートバッグ貸せ。持ったるわ」
「え?ええよ、自分で持てる。重いし」
「重そうやから持ったるって言うてんのや。ええから貸し」
「ほんなら…お願いしよかな。ありがとぉ」


さっきまでぐるぐるぐるぐる渦巻いてた、何やもやもやした感情。神楽と喋っとるうちにそれは消えとった。
こいつの隣におるんは、いつまででも俺でありたいなんて…どんだけ醜い独占欲なんやろ。
自分の思考に溜息をつきたなるけど、誤魔化しは出来ん。


いつか―――…こん気持ちを告げることが出来るんやろか。
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