帰国
卒業して祓魔師になって、もう3年の月日が経った。
それはつまり、アイツが俺の隣からおらんくなったのと同じ時間が経っとるわけで。いい加減、寂しいとか、そんなんを思うような歳ではあらへんけど…それでもやっぱり、会いたいと願わないわけやない。
俺の隣は、アイツだけのもの。
そう決めて、気持ちを告げて。ほんで同じ気持ちを返してもらったけれど。
…けど、アイツの気持ちが今でも俺に向いてるかどうかなんてわからん。連絡も取ってないし、この3年の間、一度も会っていない。こんな状態で付き合うとるのか、と聞かれたら…当の本人である俺やって首を傾げたくなる。
告白してすぐ遠距離、やからなぁ…そもそも付き合おう、と言ったわけでもあらへんし。帰ってくるまで待っとる、とはきちんと伝えたけど。
いつか帰って来た時、君は…あの大好きな笑顔で笑ってくれるんやろか。
「あっ勝呂くーん!こっちだよー!」
「おお、杜山さん。久しぶりやなぁ…神木も」
「…久しぶり。三輪と志摩は一緒じゃないの?高校時代はいっつも一緒だったくせに」
「あいつらは別任務。そろそろ来るんとちゃうか?鍵、持っとるはずやし」
今日は昔の馴染みで集まって同窓会…という名の、飲み会。発案者は奥村や。
全員が成人してからずっと集まりたい、て言うてたんやけど、なかなか都合が合わんでな…結局、集まろうて言い始めてから2年ほど経ってしもた。ようやく今日、全員の都合が合うたわけや。
…まぁ、若先生と神楽は当然ながらおらんけど。
それでも久しぶりに集まれんのは、実は結構楽しみだったりするんや。ガラやない、て笑われるやろうから絶対に言わんけどな。
「あっもう皆揃ってんで子猫さん!」
「ほんまや!遅なりましたー」
「志摩くん、三輪くん、久しぶり!」
「お久しぶりです、杜山さん、神木さん。…あれ?奥村くんは?」
子猫に言われて、発案者である奥村の姿がまだないことに気ぃついた。ちゅーか、発案者が遅刻するてどないやねん…3年経っても相変わらずなんやなぁ、アイツは。
杜山さんによれば、今日は簡単な任務だったはずだからそれが理由で遅れとるわけやないらしい。あるとすれば、報告書作成で手間取ってるんやないか、やて。ああ、何となしにその光景、目に浮かぶわ。
学生ん時も座学が苦手な奴やったしなぁ…ああいうちまちま作るもんとか、苦手そうではある。
…ま、予約しとる時間まではまだ少しあるし待っとればええか。
「ん?あれ、奥村じゃない?」
「本当だ!りーんー!!」
「わりぃ、わりぃ!出る時に電話きちまってさ…」
「しゃあないやっちゃなぁ。…ほんで?これで全員やんな?」
「おー。宝とシュラにも声かけたけど、2人とも長期任務で無理だってさ」
…宝、長期の任務がなかったら来る気やったんか。なんや意外やなぁ。てか、霧隠先生にまで声かけてたんやな…まぁ、同窓会っちゅー名目やし、あのお人がおっても間違いではないけど。
けど、霧隠先生が来てたらえっらい量を飲みそうやなぁ。
「人数が人数だからさ、奥の個室予約しといた。だから周り気にしなくても大丈夫だぜ」
「ふぅん…アンタにしては気が利くじゃない」
「久しぶりに揃うし、その方が気兼ねなく話せるから嬉しい!」
案内された部屋は確かに大人数用の個室。襖で仕切られとるから、周りの目ぇとか気にせんでええな…至る所から声が聞こえんのは、まぁしゃあないやろ。個室言うても居酒屋やしな。
各々、好きなように座って、好きな酒や料理を注文していく。皆で飲むんは初めてやけど、女2人はどれだけ飲むんやろか。勝手なイメージやけど、杜山さんはあんまり飲めそうにないやんなぁ。神木は、…多少飲めそう。
…と、思っとったら2人は生ビールをジョッキで頼んどった。あれやな、これは飲める人らや。うん。
そうこうしとるうちに注文した酒と簡単なつまみがきて、飲み会スタート。
「そういえば燐。雪ちゃんと連絡取ってるの?」
「たまにだけどなぁ。研修っつっても、任務にもばんばん行かされてるらしくて忙しいみたいだぜ?」
「まぁ、元々祓魔師として働いてたわけだし…そうなるでしょうね。そういえば、アンタ達は神楽と連絡取ってないの?」
神木の問いかけに、志摩と子猫と顔を見合わせ、3人揃って首を振る。
意図的に取ってない部分もあるけど、アイツ、携帯を海外用にしとらんからなぁ…連絡しても無駄なんとちゃうかな。
…それにもし、取れたとしても。連絡取ってしもたら、余計に会いたくなりそうやとも思う。声なんぞ聞いてしもたら、もう完全アウトや。
俺達の答えに気のない返事をした神木は、少しだけ寂しそうにも見えた。こいつもアイツと連絡は取ってないんやろな…もしかせんでも、アイツがどうしとるか気になっとんのやろか?
「…あ、神楽も元気にしてるみたいだぜ?たまに雪男がアイツの近況も教えてくれる」
「えっそうなの?!」
「元気なら良かったわぁ、無茶するお人やから心配やってん」
「ちっこい怪我はやっぱりしてるみたいだけどさ、大きな怪我はいまんとこ、雪男も神楽もしてねーって」
奥村の言葉を聞いて、めっちゃ安心した。
志摩の言う通り、神楽はちっさい頃から無茶する奴やったから、もしかしたら向こうでも怪我とかしとるんちゃうか、て思っててん。せやから、ほんまに元気やという事実に安堵したんや。
会えんでも、怪我なく元気でおるんならそれでええ。それだけ聞ければ十分や。
そういや、俺ん中では高校ん時の姿で止まってるんやけど、今のアイツはどうなっとるんやろ。杜山さんや神木を見る辺り、やっぱり大人っぽくなっとんのかなぁ。
…あかんなぁ。こんなことばっか考えとると、どうしても会いたくなってまう。早く、帰ってこんやろか。
頭を緩く振って、盛り上がっとる皆の会話の輪に混ざり直した。
「あれ?奥村くん、携帯鳴っとるよ?」
「ほんとだ、サンキュー子猫丸!……もしもし?」
俺達から少し離れた所で話し始めた奥村。なんや、ああいう気遣い出来るようになっとるんやなー…ちょお意外や。
程なくして電話を終えた奥村はえらい嬉しそうな表情で席に戻って来た。何ぞええことでもあったんか?全員、気になるらしく首を傾げとる。
「アンタ、なにニヤニヤしてんの?」
「んー?来れない、と思ってた奴らが今から来るんだよ!」
「来れない、て…宝くんと霧隠先生のこと?でも長期任務や、て会うた時言うてなかった?」
結局、誰が来るのかよくわからぬまま。奥村自身も決して名前を言おうとせえへんし。
ま、もうすぐ来るらしいからすぐに誰のことかわかるからええんやけど…何でこないに嬉しそうにしとんのやろ?
疑問は数多くあれど、ひとまず新しく頼んだ酒に口をつけることにした。
電話を切ってから数分。賑やかな声に交じって足音が聞こえたような気がした。
その足音は俺達が飲んでる部屋の前で止まり、襖が遠慮がちに開いて…そこから顔を出したんは、誰も来ると予想しておらんかったお人ら。
「来たか、雪男!神楽!」
「お久しぶりです、皆さん」
「お久しゅう、皆」