桜の樹の下で、


季節は巡り、祓魔師になって4度目の春を迎えた。けど、京都で迎える春はえろう久しぶりでなんや懐かしゅうて堪らんわ。
そんな中、無理矢理休みを合わせたらしい燐くん達が、再び京都に遊びに来てくれたのは昨日のことや。またもたいきなりの連絡で、私達は急いでシフトを確認して何とか休みを合わせてもらおうと思ったんやけど…まぁ、年度末っちゅーのはどこも忙しいわけでして無理でした。
せやから申し訳ないけど、私達4人は夜に合流させてもらうことにしたんや。ちょうど夜桜見物をしたかったらしいから、都合がええって皆が笑ってくれて安心した。そんなわけですので、今日は何が何でも定時で仕事を終わらせて待ち合わせ場所に向かいたい。





「あっ神楽ちゃん!勝呂くん!」
「すまん、遅くなってしもた…っ!」
「大丈夫ですよ、僕と志摩さんもついさっき合流したとこですから」
「そうなん?でもごめんなぁ…仕事がなかなか終わらんで」


苦笑交じりにそう返せば、燐くん達も年度末の書類を必死に片づけて京都に来たからその苦労はわかる、て頷いていた。そっか、そうなんや…この時期に休みをもぎ取るっちゅーことは、その分、仕事を早めに終わらせなあかんっちゅーことで。
きっとデスクワークが苦手な燐くんはめっちゃ苦労してたんやろなぁ、と高校時代の彼を思い出してクスリと笑みが漏れる。所属部隊は違うだろうけど、今も雪くんに怒られながら書類整理をしたりしとんのかなぁ。
少しだけ思い返していたら、燐くんの元気な声が耳に届く。今回も宿は虎屋にしていて、彼は私達と合流する前に厨房を借りてお弁当を作ってきてくれたそうな。
立派な重箱に詰められているのは、めっちゃ美味しそうなおかず達。うわぁ、相変わらずすごいなぁ。


「うっま!相変わらず料理上手やなぁ、奥村くん!」
「美味しいよ、燐!」
「神楽、アンタ卵焼き好きだったでしょ?はい」
「わ、おおきに出雲ちゃん」
「勝呂くん、三輪くん、飲み物どうぞ」
「えろうすんません、若先生」
「ありがとうございます」


私達がちっさい頃からよく来ていた此処は穴場らしく、桜が咲くシーズンでもテレビで見るような混みようや賑わいはない。せやからこうやって大人数で突発的に来ても、レジャーシートを敷いてお弁当をつつくことも造作ない。そしてゆっくりお花見が出来るっちゅーわけ。
お弁当を頬張りながら見上げた桜はすでに満開に咲き誇っていて、時折、はらはらと花弁が舞っている。風が少し強めに吹けばザアッと桜のシャワーに変わって、ライトに照らされたその光景はとても神秘的だったりするんです。うん、めっちゃ綺麗や。


「神楽ー、ちゃんと食って飲んでるか?」
「燐くん。おん、食べとるし飲んどるよーお弁当、おおきにな」
「へへっ俺の唯一の特技だかんなー」


あれだけたくさんあったお弁当はあっという間になくなっていて、もう皆はまったり話をしながらお酒を飲んでいた。高校時代にはよく見ていたこの光景は久しぶりで、懐かしゅうて、胸の奥がきゅうっと締め付けられるような感覚や。決して寂しいとか切ないとか、そうゆうのやないんやけど……ああ、そうか。嬉しい、や。この気持ちはきっと、あの頃と変わらずに過ごせるこの関係性が、とても嬉しいんやと思う。
せやから、胸の奥がきゅうってするんやろうなぁ。
そっと口角を上げてお酒をチビチビ飲んでいたら、皆と話していたはずのタツがいつの間にか隣に移動してきとった。おお、ちょおびっくりしたわ…どないしたんやろ、と思ったら、こっそり抜け出さん?てお誘いでした。
それは構わんけど、皆は―――と視線を動かしてみれば、楽しそうに話しとるし、少しだけなら問題なさそうかな。ええよ、と頷いて立ち上がれば、嬉しそうに手を繋がれた。


「なぁ、何処まで行くん?!あんまり離れると、」
「そないに遠くまでは行かん、こん坂上った先や」


手を引かれて上った先にあったのは、さっきまで見ていた桜の樹よりもかなり大きなもの。満開に咲いた花がはらはらと舞っている。
幾度も来ているはずの場所やったのに、こん桜の樹のことは知らんかった。聞いてみれば、此処はタツの秘密の場所で悩んだ時とかよく来ていたらしい。上京してからは全く来てなかったらしいんやけど、今日皆でお花見に来て、私に見せたいって思ってくれたんやって。


「それに、言うなら此処でって昔から決めてたんや」
「?言うって、何を」


一際強く、風が吹いた。
それによってたくさんの桜の花弁が舞う、そんな神秘的で幻想的な世界の中、タツが穏やかな笑みを浮かべてこっちを振り向いた。


「―――神楽、結婚せえへん?」
「へ、…?」
「今と何も変わらんと思う、けどそれでも、お前を今以上に独占したい」


せやから、俺と結婚してくれ。
そう言ったタツの顔は今までに見たことないくらいに真剣で、カッコ良くて、その姿に何も言葉を返せずただ静かに涙を流した。
急に泣き出した私を見て焦った表情を浮かべとるけど、別にアンタと結婚するのが嫌で泣いてるわけやないってこと…きっとわかってないんやろうなぁ。けど、それを説明する前にもう少しだけ…この暖かな幸せに浸らせて?そしたらきちんと、返事を返してあげるから。
涙を拭うこともせずに思いっきり抱きつけば、戸惑っているような感じはするけど、それでも優しく抱き留めてくれるタツがやっぱり大好きや。


「ありがと、めっちゃ嬉しい」
「え、じゃあ…」
「私がそないに嬉しい申し出、断るとでも思うとったん?変なとこ消極的なんやから」
「…うっさいわ」
「ねぇ、タツ。私をアンタのお嫁さんにしてください」
「当たり前や、お前以外に考えつかん」


タツの大きな手ェが私の目尻に残る涙を拭って、自然と顔が近づいた時、ガサガサッと茂みが揺れた。なんや動物でもおるのかと思えば、聞き覚えのある声が聞こえてきて一気に顔に熱が集まってきよった。
そっとタツの顔を見上げてみれば、羞恥に頬を赤くして、でもそれ以上に怒って…いらっしゃるようです、それもものすごく。


「お前ら…そこで何しとんねん」
「い、いや〜…2人共、何処に行っちまったのかなぁって思ってさ!」
「ほー?ほんで見つけてそのまま覗きか?ええ趣味しとるやないけ、奥村、志摩ぁ…!」
「うわ、やっべ!」
「けっけど坊!あそこでちゅーくらいせんと!!」
「そのピンク色のド頭かち割ったる!往生せぇやっ!!」


静かな公園に広がる怒号に、思わず苦笑が漏れる。追いかけっこをしている3人を横目にさっきまでお弁当を食べていた場所まで戻ってみれば、私と同じように苦笑を浮かべている皆がいた。


「全く…だからやめておきなよ、って言ったのに」
「しょうがないね、燐も志摩くんも」
「ほんっとにバカなんだから、あいつらは」
「まあまあ、神木さん…神楽さん、何か飲みます?お酒もジュースもお茶もありますよ」
「あ、ほんならお茶ちょーだい」


受け取ったペットボトルを開け、ごくりと一口飲めば、少し遠くからタツの怒号と燐くんと廉の悲痛な叫び声が聞こえてきた。
それがあんまりにも面白くて、ダメだと思いながらも皆で大爆笑。笑いはなかなか収まらなくて、それは3人が戻ってくるまで辺りに響き渡っていたのです。


「ああ…幸せや」





―――ねぇ、タツ。私ね、アンタに出会えて良かったって心から、そう思っとるんよ?
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