塾生名簿


塾が終わって、さあ帰ろうと思った時。タツから1枚の紙が渡されはった。


「神楽、若先生からやで」
「なん?このプリント…」
「塾生の管理名簿に使うやつ。お前まだもろてへんかったやろ?」
「おん、全然知らん。タツはもう書いたん?」
「さっき出してきたわ」
「さっすがやわ〜。で、いつまでなん?これ」
「明日」
「早っ?!」


どうやらこれは私が体調崩して休んどった時に配られたもんやっちゅーこと。結構前のことなんやけど、珍しく奥村先生が忘れておったらしく…今日、タツが代わりに預かったらしいです。…でも締め切り前日て…。
まぁ、嘆いてもしゃーないし…ってことで、プリントに目を通してみると所謂、自己紹介に似たようなもんで。残念ながら私の苦手分野や…こういうんは得意やない。あ、写真も貼らなあかんのか。証明写真まだ残っとったかなぁ?なかったらまた撮りに行かんと。


「…タツ。もう帰るん?」
「あ?何や、用事か」
「これ書くん手伝ってくれへんか?1人やと心折れそうやねん」
「何でこんなんで折れんねや…まぁ、しゃーないから付きおうたるわ」


うん。やっぱりタツは優しいわ。


「書いてったるから、ペン貸し」
「ん」
「まずは名前と性別と歳と肩書か」
「そんなん今更の気ィがするけどなぁ。えっと、佐伯神楽。生物学上は女。15歳。肩書は正十字学園 高等部の1年生で、祓魔塾 訓練生(ペイジ)やね」
「ほな次はー…誕生日と血液型」
「8月25日のAB型ー」


…ほんま自己紹介のプリント版やね…。


「身長と体重は?」
「…そういえば、タツって今何センチあるん?」
「俺か?俺は181」
「ええなー…私ももうちょい欲しいわ。170やもん」
「女としては十分ちゃうか?んなことより体重はいくつなん?」
「いくつやったかな…最近は計っとらんけど、健康診断やった時は45くらいやったかなぁ」
「お前の身長ならもうちょいあっても大丈夫やろ…メシ食うとるんか?」
「朝と昼は食べとるけど…夜は忘れがち」
「何で忘れんねん!!」


やって、経や致死節の暗記しとると時間忘れてまうんやもん。気ぃついたら夜中ーとかザラやから、食べ損ねてしまうんよね。ルームメイトにも怒られたわ。


「はあ…全くお前は」
「しゃーないやん、忘れてしまうんやから。次、なに?」
「開き直んなや。…次は趣味」
「趣味は読書と日向ぼっこ」
「女っぽくない趣味やんなぁ…相変わらず」
「あんたかて男っぽくない趣味やんか。暗記と掃除と座禅やろ?」
「……平均の入浴時間は?」
「(誤魔化しよった…)んー…1時間くらい、かなぁ?」
「なっが…ようそんなに入っとられるなぁ」
「ボーッと入っとるとすぐやけどね」


倒れんようにな、と頭を撫でられた。


「次はー…好きな言葉?」
「おん。なん?」
「……『努力は必ず報われる』。頑張らな、って気になれるから好き」
「神楽らしいわ」


努力すればするほど、それは確かに返って来ると思うんよ。だから、それを怠りとうない。そしたら今は遠い夢でも、いつかは手が届くようになるかもしれへんやろ?


「音楽のジャンルは?…って、お前聴くんか?」
「勉強中はよう聴くよ。邦楽と洋楽とサントラとー…あ、その他にクラシックって書いて」
「クラシック?」
「結構、集中出来てええの。『月光』とかオススメ」
「あれ、暗ない?」
「まぁ、否定はせぇへん」


カリカリとタツが紡ぎ出す文字を眺めながら、苦笑い。明るい曲ではないけど、集中力を出したい時には最適なんよ。…暗いけど。
けど、集中し始めてしまえば音楽なんて右から左に抜けていってしまうことが多いからなぁ。せやから、そこまでは気にならんのも事実。


「次が最後や。好きな休日の過ごし方」
「本読んだり、カフェに行ってお茶したり、本屋巡りかなぁ」
「1人で行くんか?」
「たまにルームメイトの子ぉと行くこともあるけど、大体は」
「……ほんなら誘え。そんくらい付きおうたるわ」
「あはは。次からはそうさせてもらう」


タツのこういう面倒見の良いとこが、昔っから好きや。それがただの幼なじみに対する気持ちでも、私を見てくれているのんが嬉しくてしゃーないんよ。


「これで完成やな。今日、出してくか?」
「あ、明日でええ。まだ写真貼ってないし」
「さよか。ほな、帰ろうや」
「おん。……あ、タツ。ちょお寄り道してかん?美味しい鯛焼き屋さん見つけたんよ!」
「おま…夕飯前やぞ?」
「ええやんか!塾の後って甘いもん欲しくなるんやもん」
「たく…しゃーないから行ったるわ」
「ありがとぉ!」
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