触れ合う熱
「ふう…」
ドサリ、とコンラッドが倒れ込んだのは私のベッド。本当は客間で寝る、って言っていたんだけど…私が無茶を言ってこっちに来てもらったの。
パパ達はもう酔っ払ってて寝ていたし、ママはお風呂、ゆーちゃんはどんちゃん騒ぎをし始めたパパとしょーちゃんに早々に見切りをつけて部屋へ戻ってしまっている。だから、コンラッドを自室に連れて行ったことは…私だけしか、知らない事実。
バレたらパパとしょーちゃんは顔を真っ青にするんだろうなぁ…もしくは、コンラッドを殴っちゃうかも。
(そんなことしたら私が許さないけど)
…別に、コンラッドを部屋に連れ込んで疚しいことをしようと思ってるわけじゃないの。恋人、に、なったばかりだし、それなのに何かする、とか、そんなの私、死んじゃうもん。
したいか・したくないかって聞かれれば…私だっていい大人だし、そういうことに興味がないわけでもないから「したいです」って答えになるとは思うんだけどね?でもそういうことじゃあなくって、…ただ、ゆっくり2人で過ごす時間が欲しくなっただけなんだ。
ゆーちゃんも眞魔国に骨を埋める覚悟をした、って聞いたし、私もあっちで暮らすことを決めた。私達はきっと近々、地球を離れなくちゃいけなくなると思う。ただの勘でしかないけど、でもそんな気がしてるんだ…多分、だけどね。
だから、だから…その前にコンラッドと過ごしたい、って思っちゃって。だってさ、眞魔国に行って事情を説明したらすぐに成人の儀を執り行いましょう!とか言い出しちゃいそうじゃん、ギュンターさんが。
「…アカリ?」
「ん?なにコンラッド、気分悪い?」
「いや、俺は大丈夫。様子がおかしいのは君の方だろう」
「あ……」
コンラッドが起き上がるのと同時に、小学生の頃から使っている年季の入ったベッドがギシリ、と音を立てる。銀の虹彩を散らしたような瞳がじっと、私を見つめてきて…ああもう、心臓がドキドキし過ぎて壊れちゃいそうだよ。好きだと自覚してるからこそ、彼の気持ちを再確認したからこそ、この真っ直ぐな瞳に見つめられるのはひどく恥ずかしい。真剣な瞳がふっと優しく緩む瞬間とか、それを目撃してしまったらもう堪らない。
赤くなり始めているだろう頬を隠すように下を向いたのに、それはあっという間に両頬に添えられたコンラッドの手によって元の高さへと戻された。私の顔を見て、彼が微笑む。それこそ、…愛しい者を見る瞳で。
「コ、コンラッド、恥ずかしいからあんまり見ないで…!」
「どうして?俺はもっと君の顔を見ていたいけど」
「わあああぁあああ!ダッダメ!そういうの言っちゃダメ!!」
もう夜中だということも忘れて、私は声を上げながらコンラッドの声を手で塞ぐ。もが、とマヌケな声が聞こえたけど、それに反応する余裕なんてこれっぽっちも残ってない!残ってたらきっと大いに笑ってる、大笑いしてるよ!!絶対に。
「ぷは。…アカリって案外、照れ屋?」
「う……」
「ははっ図星かな?そう言う所もユーリとそっくりだ」
「そりゃあ双子だもん…多少は似るよ、性格も」
今までにも何度か言われたことあるし、私自身も自覚があるから不快だーとかそういうのは全くないんだけど、なんでだろ…コンラッドに言われると、ゆーちゃんに嫉妬しそうだ。…そんなこと馬鹿馬鹿しすぎて言えやしないけど。
(―――私はきっと、今までも…そしてこれからも、ゆーちゃんに嫉妬し続ける気がする)
だって我が弟は偉大なる魔王様で、コンラッドはその護衛。姫であるらしい私の護衛でもある、って言ってくれたけど、でもそれでもさ?いざという時に優先されるのは…ゆーちゃんだと思うの。
「…コンラッド」
「なに?アカリ」
「ぎゅーって、して」
「―――いいよ、おいで」
おいで、という言葉と共に広げられた腕。おずおずとその腕の中にぽすん、と収まれば、ぎゅーっと抱きしめてくれた。痛くはないけど、でも決して弱くはない抱擁にゆるゆると心臓の辺りがゆっくりと溶けていくようで―――私はそっと目を閉じる。コンラッドに抱きしめてもらっている間だけは、淋しさも、嫉妬心も、何もかも気にならないような気さえした。
…私はこれからも下らないことでぐるぐるうだうだ悩むだろうし、淋しがるだろうし、コンラッドを傷つけることだってあるかもしれない。傷つけない、なんて、そんな綺麗事は言える気がしないもん。どうして?と聞かれたら、大好きだからって答えると思う。
―――矛盾してる?
うん、私もそう思う…でもさ、真剣にこの人と向き合う以上、一生傷つけずに生きていくことなんて不可能に近いことだと思うのね。どう頑張ったって私もコンラッドも、生きてるからカッコ悪いとこだって見せちゃうと思うし、見ると思うから。
大好きな人だからこそ、なるべく隠し事はナシにしていきたい。それが例え、痛みになる可能性があったとしても。目を背けたりしたらそれこそ、やっていけないでしょう?
「アカリ、…アカリ。好き、君が好きだよ」
「…うん、知ってる」
「会えなかった時間の分も、離れてしまうご家族の分も―――俺が君を愛すから」
「ふはっ…相変わらずキザだなぁ、コンラッドって」
「茶化さないで」
「そんなつもりはないんだけど、…ここはありがとう、ダーリンとか言った方が良かったかな?」
語尾にハートがつきそうな感じで言ってみれば、コンラッドは私を抱きしめたまま吹き出して―――そのままくつくつと笑い転げている。いや、物理的には転げていないのだけれど。
「なーんでそんなに笑うのかな…」
「ふっ…くくっだ、だって急に面白いことを言い出すから…!」
「ダーリンって言っただけじゃんか」
「それが、だよ。はー…アカリのキャラじゃないだろう?」
まぁ、コンラッドの言うことは正しいかな。彼に恋してからは幾分、乙女思考になっているとは思うけど、それを差し引いたとしても「ダーリン」なんて言うようなタイプではないです。私が言ったら完全にお笑いでしかないでしょ、それを目の前で証明してくれた人物もいるわけですし?というか、言えって言われても言いたくないよね絶対に。なんだよダーリンって。実際に言ってる人を否定するわけではないけれども、恥ずかしくないのでしょうかって疑問が浮かびます。
…あれ?甘い雰囲気がどんどん遠ざかっていっている気がする。でも、あの、コンラッドはこの容姿だから引く手数多だったと思うけど、私は完っ全に恋愛初心者なわけですよ!自慢じゃないけど、今まで恋人なんていたことないからね!ゼロだからね!!恋くらいは、したことあるけど…でも片思いのまま終わっただけだから、多分、何の役にも立たない。
えっと、つまり何が言いたいのかと言うと―――甘い雰囲気に慣れないから、話を逸らしてしまうのも仕方がないということです。それをコンラッドがどう思っているのかは別として、だけど。
やっぱり多少はそういう雰囲気にもっていきたいものなのかな、と考え始めた時―――ふに、と唇に何か柔らかいものが当たった。そして視界に映ったのは、親指の腹で私の唇に触れているコンラッドのす、が、た………えっ?!な、ちょ、ど、してこの人は唇なんか触って、うわ、なんていうか…コンラッドの目が、いつもと違う気がして。
(わ、かった、…色っぽい、んだ、今のコンラッド)
だから余計にドキドキ、する、そんでもって唇に触れてくるからもっとドキドキして。わわっ…この鼓動の速さってさっき見つめられていた時の比じゃないよ?!
「―――アカリ」
「ッ、…」
「ああ、そんなに怯えないで。…困ったな、怖がらせるつもりじゃなかったんだけど」
「ち、違うの!怖いとかじゃ、なくて…その、ドキドキしてるだけ、で」
だからコンラッドは悪くない、…いや、ドキドキしてる原因は紛うことなきコンラッドなんだけど!でも悪いことされてるわけじゃない、し、嫌なことをされてるわけでもないから、だからやっぱり…コンラッドは悪くないわよね。うん。
「だ、だいじょう、ぶ。コンラッドなら、何しても大丈夫だ、から」
「…嬉しい言葉だけど、あんまりそういうことを言わないで」
「え?」
思わず顔を上げた瞬間―――温かい何かが唇を、掠めていった。それがコンラッドの唇だとわかるまでそう時間はかからなくて。
「あまり煽られると、…歯止めが効かなくなりそうだ」
余裕のなさそうな言葉なのに、顔に浮かんでいるのは焦燥でも何でもない―――苦笑。けれど、二度目のキスはとても熱かった。
「好きだよ、…コンラッド。ずっとずっと、好きだった」
「俺もです。離してなんかやれませんから、覚悟してくださいね?愛しいアカリ」
それはこっちのセリフ。私だってもう、逃がさないからね?コンラッド。
一生、私のことを愛し続けてください。私も貴方に―――同じだけの愛を返せるよう、精一杯愛すから。