大切な家族
コンラッドが地球にやって来た日の夜。案の定、ママは大喜びでごちそうを作ってるし、パパはコンラッドとお酒を飲むんだって張り切ってる。しょーちゃんはちょっとだけ不機嫌…でも前に来た時よりは、友好的かな?って感じになってました。仲が良い、とは言い難いけど、一方的に彼を睨んだりしなくなっただけマシというものだ。
そしてゆーちゃんは驚きの声を上げつつも、嬉しそうにいらっしゃーいって言ってた。さすが。
「でもあーちゃんは本当に彼に懐いてるのね!」
「へ?」
「確かに前に来た時も、気がついたら仲良くなってたもんな」
「そう、だったかな…」
パパとママの言葉にちょっとだけ気恥ずかしくなる。ゆーちゃんにもいつの間にか懐いてたよな、って言われたことあったし…もしかしなくても私ってわかりやすい?
「コンラッドも朱里も、互いに気に入ってるみたいだもんなー」
「なっそうなのか?!ゆーちゃん!!」
「お前までそう呼ぶなっつーの勝利!!」
「お兄ちゃんと呼びなさい!」
「ゆーちゃんは絶対に呼ばないって…諦めようよ、しょーちゃん」
お味噌汁を飲みながらそう言うと、どうしてお前までお兄ちゃんと呼んでくれないんだあーちゃん!!って半泣きになったんですけど、この人。別にさ、しょーちゃんが嫌いなわけでも何でもないんだけど…こんな反応をされるとウザい、って思っちゃうのは仕方ないと思うの。絶対。だってこの人、もう社会人だよ?呼び方くらいで泣くなよ、って思うでしょ。
うん、もうアレだ。放っておこう。相手しちゃうとどんどんエスカレートしていく気がするから。
「ふふ。ユーリとアカリの家族は仲が良いですね」
「ま、悪いとは思ってないけど…勝利は行き過ぎだろ」
「あはは。ゆーちゃん、しょーちゃんに聞かれたらまーた言われちゃうよ〜?」
6人でご飯を食べながら、色んな話をして。久しぶりにちゃんと笑えたような気がする…今までだって笑っていたと思うんだけど、コンラッドが来てくれただけでこんなにも素直に、そしてたくさん笑えるようになるなんて思ってなかったなぁ。
好きだ、好きだとは思ってたけど…想像以上なのかもしれない、コンラッドの存在って。
ギュッとスカートの裾を握る。やっぱり私の心はもう、揺るがないと思う…これが正解だとは思ってないし、そんなもの存在していないとも思うんだけど…でも、後悔しないってことだけは―――わかるよ。
「―――パパ、ママ、しょーちゃん、ゆーちゃん。…お話が、あるの」
声が、震えた。それに気がついたらしいコンラッドがそっと、スカートの裾を握ったままの手を握ってくれる。たったそれだけなのに私はホッとして、平常心を保てるようになるんだ。
すう、と大きく息を吸ってパパ達に向き直れば、4人もそれまでしていたことを止めて私を見据えたんです。
「あの、…あのね、私、わたし、も…ゆーちゃんと同じ世界の、魔族の魂が入ってるんだって」
「ええ。ゆーちゃんに聞いて知ってるわ」
「それで?他にも言いたいことが、あるんだろう?」
パパとママが優しく微笑んで、先を促してくれた。
ああ私は本当に…渋谷家に生まれてきて、良かったって心の底から思う。
「っ、…パパもママもしょーちゃんもゆーちゃんも大切、だけど、私―――…向こうの世界で、暮らしたいの」
家族のことを大切に思う以上に、彼のことが、コンラッドが大切だって傍にいたいって思ってしまったの。親不孝だって言われてもそれでも、コンラッドの傍にいられないまま過ごすことだけはしたくないって。
パパ達に簡単に会えなくなることも嫌だけど、きっと彼と離れることを選んだら一生後悔する気がしたんだ。…それだけは、どうしても嫌だった。
ごめんなさい、と繰り返しながら泣きじゃくる私の背中を、コンラッドの温かい手がさすってくれた。まるで大丈夫だよ、と言ってくれてるみたい。それでも一度流れ出した涙は止まらなくて、ぐすぐす鼻を鳴らしながらも顔を上げられずにいる。
うう、今の私、絶対にひっどい顔になってる…!
「こんな時に俺が言葉を発するのはどうかと思うけど、」
「コンラッド…?」
「俺は―――アカリが好きです。ずっと傍にいてほしい、と思ってます」
背中にあったコンラッドの温もりが、離れていく。ようやっと顔を上げた時には、隣に座っていた彼は頭を下げていた。
椅子に座っていなかったら、土下座をしていたかもしれない…この人。
「えっちょ、コンラッド!」
「俺に彼女を―――アカリさんをください」
テンプレートなセリフ。だけどどうしてだろう、コンラッドが言うと何故か様になってしまうのだ。
ぽかん、と口を開けて呆けてしまった私、ゆーちゃんも同じような表情を浮かべている中、一番最初に反応を示したのはしょーちゃん。ガタンッと勢い良く立ち上がったと思えば、そのままコンラッドの胸倉を掴み上げちゃったんです!ダ、ダメ!暴力は絶対ダメー!!と立ち上がろうとしたら、パパとママに朱里、と優しく名前を呼ばれた…それはきっと、黙って見ていなさいということだ。
心配で仕方ないけど、パパ達がそう言うってことは大丈夫だってことなんだよね。ゆーちゃんもじっと座ったままだし、…あの子が止めに行かないってことは、しょーちゃんがコンラッドに暴力を振るう心配はないってことなんだって自分を納得させて、大人しく腰を下ろす。
「お前っ…!」
「殴られることは、覚悟してます」
そう言ったコンラッドは目を瞑った。…でも、1分経とうと2分経とうとしょーちゃんは一向に動く気配を見せない。けれどボソリと、何かを呟いたんだ。私は聞こえなかったけど、コンラッドには聞こえてたみたい。何か驚いたみたいに目を見開いてたから。
「…しょーちゃん?」
「あーちゃんを泣かせたら、今度こそぶん殴るぞ」
「はい。肝に命じておきます」
その後はまるで宴会みたいになっちゃって。パパとしょーちゃんはもう、浴びるようにお酒飲んじゃってもー大変ったらありゃしない!!さっきまでぐすぐす泣いてた私だけど、そんな光景を見ちゃったら涙も何もかも引っ込んじゃうっつーの。
「あーちゃん」
「ママ」
「…あーちゃんの人生は、いつだってあーちゃんが決めるの。貴方が悩んで、考えた末に出した結論ならパパもママも何も言わないわ」
「うん、ありがとう」
「でも忘れないでね?向こうに行っても、此処はいつまでも貴方の家だってこと」
いつだって帰ってきていいのよ。もちろん、彼と一緒にね。
ママがそう言って私の頭を撫でるから、引っ込んだハズの涙がまた溢れてきた。…でもいいや、泣きたいだけ泣いたらまた―――笑えるはずだから。