秘めた想いを貴女に。
ただいま、と言う私に、大好きな笑顔でおかえり、と言ってくれる彼はもういない。
出会いが突然なら、別れも突然だ。
ショッピングモールへ出かけた帰り、彼は突然姿を消した。その時は何が起きたのかわからなくて呆然としてしまったけれど、家に帰って、私より後にびしょ濡れで帰ってきたゆーちゃんを見てようやく理解した。
彼は、在るべき世界へ帰っていったんだと。
いつかは帰ってしまうとわかっていた。だってコンラッドはあっちの世界で生まれて、育って、今もそこにいる。今回こっちに来てしまったのは何かの手違いなんだ、とたくさんお喋りをした日に教えてくれたのを覚えてる。
根本的に住んでいる世界が違うんだ、それはきっと一生交わることがない事実。真実。
「好きになっても辛いだけ、なんだよね…」
「朱里?」
「ううん、何でもないよゆーちゃん」
彼がいなくなってもう1週間だ。少しずつ彼のいない生活に慣れ始めてきたけれど、それでもやっぱり寂しさは拭いきれない。…変なの、一緒にいたのはたったの7日間だ。とてもとても、短い時間だったのに。
こんなにも寂しさを感じてしまうのはきっと、私が彼を好きで…いまだに思い焦がれているから。彼と過ごした7日間が、今までで一番楽しくて光り輝いてたからだと思う。
うう、いつか楽しかったと笑顔で言えるような思い出になるのかなぁ?今はまだ思い出すだけで涙が滲むものだと、しても。
ぐすん、と鼻をすすりながらゆーちゃんの背中に寄りかかれば、重いよーとは言われたけど決してどかそうとしない我が弟はやっぱり優しいなぁ。このまま真っ直ぐなゆーちゃんに育ってね、変わらないでね。そしてしょーちゃんのようにはならないでね…野球大好きな健康優良児な君だからきっと大丈夫だとは思うけど。
「寂しい?コンラッドがいなくなって」
「…うん、さみしー」
「いつの間にかコンラッドに懐いてたもんなぁ、朱里。やっぱり俺と双子だよ」
よしよし、と頭を撫でてくれる彼の手はとても温かい。というか、双子だからってそんな所まで似るものなの?同性の双子だったら好きな人の好みとか似そうだけど、異性の双子でそういうことあるの?え?ってことは、もしかしてゆーちゃんってば…そっちの趣味?!
「ゆーちゃん男色家?!」
「何がどうなってそんな話になった?!」
だってさっきの言葉って、俺と好きなタイプが一緒だなーはは☆って意味でしょ?ということは、ゆーちゃんのタイプは爽やか好青年ってことで…つまり男色家。男の子が好き。
「ちっげーよ!いや、コンラッドは確かに好きだけどそれはそういう意味ではなくてだな…!」
「親愛、って意味でしょ?わかってるよ」
「…わかってるなら何でそんな意味不明な発言するの朱里ちゃん…」
「寂しさを紛らわすのにちょうどいいかなー、って」
ゆーちゃんって律儀にツッコんでくれるからからかいがいがあるんだもん。楽しいんだよ。
ボソリ、と呟けば、本気の顔で「お願いだからやめて?!」とお願いされました。しょうがないなぁ、可愛い弟のお願いなら聞いてあげないこともない。今だけは。そのうちさっぱりきっぱり忘れてまたからかうと思うけどねーきっと、というか、私の場合は絶対?
背中に寄りかかったまま持ってきてたココアをズズーッと飲んでたら、はい、と真っ白な紙を差し出された。紙、というか…封筒?でも宛名もないし、差出人も書かれてない。更に言えば、切手も貼られていない。どうしてこれを私に渡すのだろうか、この人は。
受け取るだけ受け取って、でも封を開けずにそのままじーっと眺めていれば、後ろから苦笑交じりの声で読んであげろよ、と言われてしまった。読んであげろ、ってことは…やっぱりこの手紙は私宛、ですか。
疑問はたくさん浮かんでは消えるけれど、とりあえず読んでみようか。手渡されたってことは危険性は一切ないんだろうし。
ピリピリと封を切ってみれば、中に入っていたのは封筒と同じ真っ白な便箋1枚。中に書かれていたのは当然文字、なんだけど…まさかの英語でした。いや、私、外人の知り合いなんかいないですよ?それに手紙をもらうような間柄の人もいないんだけども。
ええっと、英語は得意だけど筆記体だし読むのに時間かかりそう。あと念のため、英和辞書用意しておこう…ゆーちゃんの机に置きっぱなしになっている辞書を拝借して、今度は彼のベッドへと体を投げ出す。
ええっと、まず差出人はー……こん、らっど…?えっコンラッド?!
『Do you make it fine?
(元気にしている?)
That day disappears suddenly, and, I'm sorry. I think I have made them surprised surely. That isn't liked really.
(あの日、突然いなくなってごめんね。きっとびっくりさせてしまったと思う。本当にごめん。)
Everyone of you and Shibuya person couldn't also make a return present to that it was under care. Only that's regret.
(君にも渋谷家の皆にもたくさんお世話になったのに、お礼ができなかった。それだけが心残りだ。)
Time I spent with you and that are the best treasure for me.
(君と過ごした時間は、俺にとって最高の宝物だ。)
Thank you very much for your happy time.
(幸せな時間をありがとう。)
If I said this, I might think strangely, but you were being loved sincerely.
(こんなことを言ったら変に思うかもしれないけど、心から君のことを愛していたよ。)』
そこに綴られていたのは、彼の素直な想い。それがストレートに胸に響いてきて、自然と頬を涙が伝っていた。
こんなの、ズルいよコンラッド…!私はもう貴方に返事をする術がないのに、好きもありがとうも、何も伝えることが出来ないのにこんなの、本当にズルすぎる。
「私だって、貴方のことが大好きだったよ…コンラッド」
この時は思いもしなかったんだ。5年後、彼と感動的な再会を果たすなんて。