いつか、また。
何気にこの日を楽しみにしていたらしい私は、前日、なかなか眠ることが出来なかった。遠足前の小学生か。
でもまさか、此処がお別れの場所になるなんて…思いもしなかったんだ。
連休初日の土曜日。ただのショッピングモールとはいえ、たくさんのお店が入っていて、尚且つ映画館やゲームセンターなどの娯楽施設も充実している此処はいつだって混雑必至の大人気の場所なのである。時々、此処は某テーマパークか!ってくらい人が並んでることもあるくらい。
今日は人が多いなー、くらいで済んでるからそんなすごい列を見ることはなかったけど。
さってと!まずは何処から見ていこうかな〜私も見たいお店はあるけど、一応コンラッド優先で来てるからね…ひとまず私の行きたい所は後回しにしておこう。うん。
「コンラッド、何か見たいものとか欲しいものってある?」
「うーん、…これと言って欲しいものはないかな。アカリは?何処か見たい所とか」
「あるにはあるけど…コンラッドを案内する為に来てるんだし、後でいいわ」
「どうして?行きたい所があるならそこへ行こう、せっかく来たんだから朱里も楽しまないと」
ほら、と私の手を引くコンラッドはとても楽しそうだ。こういうお店、眞魔国にはないのかな?だからこんなにもはしゃいでる(ように見える)のかもしれないなぁ。そしてまたもやさり気なく女の子が喜びそうなことを言ってくれちゃってまぁ、…それで叫びたくなるくらい喜んでしまってる私も至極単純な脳をしているとは思いますが。
手を繋ぐのだって2回目だけど、何だか胸がドキドキとうるさいくらいに鼓動を刻んでいる。この鼓動の音が、コンラッドには聞こえませんように。こっそりと胸の中で幾度も願いを反芻する。
どうして胸がドキドキするのか。他の女の子達が彼を見て何か言っているのを見てモヤモヤしたのか。彼に名前を呼ばれると嬉しいのか。
どうしてそんな風に思うのか、わからなかった。だから気にしないフリをしていた、わからないフリをしていた。…でもダメだ、もうそんな誤魔化しもきかない。私は―――
「(コンラッドが、好きなんだ)」
だから話せるのも嬉しいし、触れられたら嬉しいし、彼の笑顔をずっと見ていたいって思うんだ。…けど、コンラッドは?彼は、どう思っているのだろう。
…ねぇ、コンラッド。こういうこと誰にでもしてるの?慣れてるから出会って間もない私にも、そうやって簡単にできるの?
一瞬、ネガティブな思考に全部を持っていかれそうになったけれど、さっきコンラッドが言っていた通りせっかく来たのなら楽しまなくちゃ、よね!これはいったん考えるのを止めて、目一杯楽しもう。
それで家に帰ったら…また最初から考えればいいんだから。今だけは、コンラッドと(自称)デートっていうこの状況をこっそり喜んでおくこととします。
一度立ち直ってしまえば早い私は、ここぞとばかりにデート気分を楽しんでます。いや、さすがに世間一般の恋人がするようなことは断じてしていないけれども。
最初に繋がれた手は、ひょんなことから離れてしまった後は繋がれてないし。ちょっとだけ残念に思ったけど、付き合ってるわけじゃないんだからこれが当たり前だよね。
「あ、見て見てコンラッド!これゆーちゃん好きそうじゃない?」
「ははっ確かにユーリは青と獅子が好きだよね」
「そうそう!好きな野球チームのマスコットとチームカラーだからなのかなぁ」
でも青は私も好き。いい色だよね。
見れば見るほどにゆーちゃんが浮かんできてしまうので、青い石を持ったライオンちゃんのぬいぐるみはそのままお買い上げ。帰ったらすぐに渡してあげよう。喜んでくれるといいなぁ…でももう高校生だし、尚且つ男の子だしぬいぐるみは好きじゃないかも。そう思ってももう遅いので、微妙な顔をされたら私の部屋に飾ろう、そうしよう。
その次は私のお気に入りのアクセサリーショップへ。此処のお店の商品ってどれも細かい装飾が素晴らしくてね、めちゃくちゃ可愛いの!来た時はいっつも衝動買いしちゃうくらいに大好きなお店なんだ。
今日は何か可愛いアクセサリーはあるかなぁ。ネックレスがダメになっちゃったから、新しいの欲しいんだよね。
真剣に物色していたら後ろにいたコンラッドがクスクスと笑ってらっしゃいました。あれ?何か面白い物でも見つけたのかな?不思議に思って振り向いてみれば、とても穏やかな笑顔を浮かべててちょっとびっくり。
そしてドキッとしたんです、だって、その穏やかな笑顔を浮かべて見つめていたのは私の後ろ姿だったから。…多分。
「ああ、ごめんねアカリ。真剣に見ている君が可愛くて」
「かっ…?!」
「それで?何か気に入ったものはあったの?」
さり気なく肩に触れて後ろから覗き込んでくる彼。あまりの距離の近さにドキドキが治まりませんがどうしたらいいですかね?!うっわ、これは…想像以上にヤバイ、心臓もたない!
でもそんな動揺をこの人に悟られるわけにはいかない…必死に押し殺して、一際目を引かれた四葉のクローバーのネックレスを見せた。ほら、四葉のクローバーって幸運を呼ぶって言うない?だからいつも目に留まるんだよねぇ。特別クローバー好きってわけじゃないし、いつも選ぶのはもっとシンプルなもの…そう、例えば石が1つだけついたものとか。
うん、でも今日はこれが気に入った。たまにはこういうモチーフのネックレスもいいよね!
そうと決まれば早速お会計だ、と思っていたら、手に持っていたネックレスは誰かに奪われてしまった。誰かに、って言っても確実に私の後ろから覗き込んでいた彼しかいないんだけど。でもまさかの行動に一瞬、反応が遅れてしまって奪い返そうと思った時にはもうお会計が済んだ後でした。
「ちょっとコンラッド…!」
「はい、今日誘ってくれた分と、昨日たい焼きを奢ってもらったお礼」
「べ、別にそんなのいいのに…というか、お金どうしたの…」
「ええっと、…アルバイト、って言うんだっけ?知り合いの所でさせてもらってたんだ」
だから大丈夫。もらってくれると嬉しいな。
そんな顔で笑われちゃったら、そんな声で言われちゃったら、…断れないよバカ。どうしよう、舞い上がりそうな程に嬉しくて顔が勝手ににやけちゃう。ああ、きっと今の私は最高にだらしない顔をしているに違いない。誰かに恋をする、ってすごいなぁ。こんな風になっちゃうんだ。
もらった小さな袋で口元を隠してありがとう、と伝えれば、私が一番好きだと思った顔で笑ってくれました。片思いだけど、この人はいつか異世界へ帰ってしまうけど、それでも今この時は…世界中の誰よりも、一番幸せだ。
「どこかで休憩しようか。そのネックレスもつけてあげる」
タイミング良く目に入ったカフェでしばしの休憩。コンラッドは有言実行タイプなのか、飲み物を頼んだ後に私の後ろに回ってさっき買ったネックレスをつけてくれた。胸元で光るネックレスはじわじわと嬉しさを増幅してくれるけど、うん、あの…公共の場でそんなナチュラルにされるととっても恥ずかしいな私…!
ただでさえ彼は目立つんだから、更に目立つことしたら逆効果だと思うんですよ。ああ、でも嬉しい…!どうしよう、この葛藤!!
「…やっぱり天然タラシ…」
「やっぱり、って…ひどいなぁ」
「でも、つけてくれてありがとう」
「どういたしまして。…うん、よく似合ってる」
だからすんなりとそんな恥ずかしい台詞を吐かないでください!そろそろ嬉しさと恥ずかしさで爆発できそうだよ私!!!
「この後はどうする?」
「そうだなー……あ、もう一か所だけ付き合ってもらってもいい?」
「もちろん。何処へでもお供致しますよ、お姫様?」
「…コンラッドって本当にキザよね」
それなのに様になってる、ってどうしてなんだろう。不思議だ。
カフェでの休憩が終わった後は、さっきちょっとだけ覗いた男性もののアクセサリーが売っているお店へ。コンラッドにはお店の外で待機を命じて、私はお目当ての物を捜しに1人店内へ。まぁ、探すって言っても場所は覚えてるからさほど時間はかからないんだけどね。
買いたかったのはシンプルな皮のブレスレット。偶然見つけた時に一目惚れして、これコンラッドに似合いそうだなぁってカフェで休憩している間も考えてたんだ。彼からはお礼に、とネックレスをもらってしまったし、私も何かお礼がしたくて。今日1日、私のわがままに付き合ってもらったからね。
買ったものを片手に足早に戻れば、にっこり爽やか笑顔で出迎えられました。
「コンラッド、手を出して」
「?はい」
「えっと、これをこうして、……よし、出来た!」
左手首につけられた茶色の革のブレスレット。それは予想通り、彼に似合いすぎるくらいにピッタリで内心ほくそ笑む。よしよし、私のセンスも捨てたもんじゃないよねー。
「アカリ、これは…」
「私からのお礼だよ。ネックレスと今日付き合ってくれたお礼」
「……ありがとう、大切にするよ」
いつの間にか外は夕日で赤く染まっていた。ああ、そろそろ帰らないと夕飯に遅れちゃう。もう少しだけこの雰囲気に浸っていたいけど、そうすると帰りが遅くなって皆に心配かけちゃうだろうし。
コンラッドに帰ろう、と声をかけた時だった。彼が珍しく何かに足を引っ掛けてよろけたの、よろけた先にあったのは大きな噴水。危ない、と思ってすぐに手を伸ばしたけど、私の手は彼の手を掴むことが出来ずに空を切っただけ。
その直後にバシャーンッと大きな水音がしたけど、一向にコンラッドが顔を出す様子がない。この噴水ってもしかして深いの?!バッと噴水を覗き込んでみたけれど、そこには誰も…いなかった。ただゆらゆらと水面が揺れているだけ。