あの人に感じるもの


志保に沖矢さんについて調べてほしい、と言われて1週間足らず。聞き込み、尾行をして身辺調査をしてみたものの、黒の組織と繋がっているのかどうかはいまだに確認できていない。
少なくとも、尾行している間は変な行動を起こしていないし、怪しい人物と会うようなことも一切なかった。さすがに家の中までは見ることができないから確実、とは言い切れないけれど…でも、組織と繋がっている可能性は低いんじゃなかろうか。

…ま、そう断定するのは時期尚早だとは思うけどさ。妙な違和感は今でも感じているものの、何つーのかな…こう、肌に感じるような殺意とか危険を感じるようなものっつーの?ざっくりしすぎてて自分でもどーなの、とは思うけど、そういうものは一度も感じたことがない。
向けられたことがない、というだけで、何の根拠にもならないことはわかっちゃいるけど。だけど、悪い感じ―――は、感じないのが本音。


―――コンコン、

「はーい?開いてっぞー」


ベッドで寝転がりながら考え事をしていたら、静かな室内にノックの音が響き渡った。入っても大丈夫、という意味を込めた言葉をドアの外にいるであろう人物に投げかければ、すぐにドアが開く音。そこに立っていたのは新一…もとい、コナンだった。


「よう。今日は家にいたんだな」
「は?」
「昨日も訪ねたんだけどよ、オメーいなかったから」


とことこと部屋の中に入ってきた新一はそう呟いた。
昨日、…あ、冲矢さんの尾行してて帰ってきたのは夜になってからだったっけ。何となくそのことを言うのは憚られてただ出かけてた、とだけ言えば、納得したのかしていないのかはわかんないけど、ふぅんとそっけない言葉が返ってきただけ。…何か急に機嫌悪くなってないか?コイツ。

身体を起こすことはせず、ベッドの端に座った新一の背中にそっと視線を移す。うん、やっぱりどことなーくオーラが不機嫌だ。意外と拗ねやすい性格の新一は、態度には出すクセにその理由は一切言おうとしないんだよなぁ…素直に口にしてくれりゃあ、こっちとしても大分楽なんだけど。
素直じゃない性格してんのは重々承知してっけどさー?でも不機嫌な理由なんて、言ってもらわないとわかんねぇことの方が多いだろ?


「しーんくーん」
「…母さんみてぇな呼び方すんな、バーロー」
「んーじゃ単刀直入に言うけど、人の部屋入ってきた途端に不機嫌になるたぁどーゆー了見だこの野郎」
「う、」
「お?そういう反応するってことは、何か理由があんだな?」


お前も鋭い洞察力を持ってるけど、こっちだって探偵業を営んでんだ。そのくらい察するのは朝飯前なんだよ参ったか!
へへん、と笑ってみせれば、グッと悔しそうな表情を浮かべて溜息を1つ吐かれた。多分、降参だって意味の溜息なんだろうけど、目の前でそれやられると結構グサッとくるもんなんだな。私もきっとやってるであろうその行為は、あまりやらない方がいいのかもしれない…あれだ、呆れさせてしまったかとちょっとだけ心配になるから。


「…オメーに、咲羅に……隠し事されたみてぇで嫌だっただけだっ!」


仕事だったら内容話せねぇのはわかってるし、俺だって探偵だからそのくらいは理解できる。…けど、そう言わなかったから。だから隠し事されたみてぇだな、って思って…それで嫌だって思っただけだ。
早口でまくし立てられた言葉達に、私はただ口をあんぐりと開けたまま固まってしまった。だって、あの!新一がこうも素直に自分の気持ちを吐き出すとは思っていなかったから…だから、何と言うか、すげー意外だったんだよな。何でもねぇよ、って言われることが多いんだから、そう思っていたって仕方ないだろう?
だけど顔を真っ赤にしている新一はものすっごく可愛いなぁ。うっかり口を滑らせて言ってしまったら、きっと今度こそ拗ねて口をきいてくれなくなるんだろうけどさ。だからせめて、と頭を撫でるだけに留めておく。


「隠し事をしてるつもりは更々ないんだけど、…うーん、でも結果としてはそうなっちゃうのかなぁ」
「…オメー、言ってることめちゃくちゃ」
「うん、自覚はある。でも、」


寝返りを打って新一の方を向けば、座ったままこっちを見下ろしていた視線と絡み合う。


「…咲羅?」
「ちょっとね、言えないんだ。仕事じゃあない、個人的な調べものなんだけど―――でもまだ、言えない」


新一なら私の疑問を、志保の疑問を、あの人への疑念を晴らしてくれる答えを持っているかもしれないと思った。答えをもらうことは簡単だ、だけど…何となくね、この答えは自分で確かめたいって思っちゃったんだよ。これも探偵としての悪いクセ、ってやつなのかな?

ああでもきっと、本当の理由は―――新一だったら、絶対に自分で答えを見つけるだろうから。そう思ったから、なんだろう。


「ごめんな、新一」
「別に、…謝ることじゃねーだろ。さっき言っただろ?俺だって探偵だ、って。そのくらい理解できる、って」


だから、謝るな。それと無茶するんじゃねーぞ。
そう言って新一は優しく頭を撫でた。それが尋常じゃないくらいに嬉しくて、胸の奥がぎゅうっとして、…顔が熱出した時みたいに熱くなったんだ。小学生のくせに、実年齢だって私より下で高校生のくせに、それなのにこんな風に嬉しくなってしまうなんて…ああやっぱり、私は工藤新一が好きで仕方ない。


「そろそろ帰る。何かあったら連絡しろよ?相談くらいのれる」
「ははっ小学生に相談する成人した女って、…洒落にならないんじゃないか?」
「別にいいだろ、そのくらい。たまには頼りやがれバカ咲羅」
「…納得したように見えて、実はちっとも納得してないだろお前」
「よくおわかりで。…このくらい許せってんだ」


いや、別に怒っちゃいないけどさ。…というか、ここで私が怒ったら逆ギレってやつになる気がするし。そもそも私が怒る理由なんて1つもないんだった。
でもそうだな、何か困った時は…新一に相談させてもらうとするか。何だかんだ言って、私が一番頼りにしていたのは昔っからコイツだったんだろうし。さっき言いそびれてしまったありがとう、を口にすれば、新一は頬を赤く染めてじゃあな、と部屋を出て行った。

新一が出て行った後、何となしに時計に目がいった。ついでだから、と時間を確認してみると、もう17時を回っていた。ああそうか、だから新一は帰っていったんだなぁ…蘭が夕食の準備をし始める頃だろうし。
私も夕食の準備を始めるとしますかね。うーん、と大きく伸びをしてから1回に下りてリビングに通じる扉を開けると、テーブルの上にはクッキーが置いてあった。あれ?私、最近はお菓子なんて作ってなかったはずだけど。


「…それ、あの男が持ってきたのよ」
「あの男って沖矢さん?」
「ええ。作り過ぎたんですって」
「いや、大の男がお菓子作り過ぎるってどういうことよ…」


つーか、カレーもらった時も思ったけど、どうすれば1人分の食事を作り過ぎることになるわけ?どうしたって間違いようがないものだと思うんだけどな?分量とか。だって途中で気がつくじゃん、材料が多いとか、そういうことにさ!
疑念は消えちゃいないんだけど、ちょっと、ちょっとだけ―――あの人ってもしかして天然?っていう疑惑が生まれてしまったのは、言うまでもない。

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