1つの手がかり
―――パサッ
「咲羅、何か落としたわよ……ッ?!」
「え?ああ、サンキュ…志保?」
「灰原、何に驚いてんだよ。ん?それ、咲羅の両親じゃねーか」
私が落としたのはパスケース。その中には唯一残っていた両親の写真が入っているんだけど、志保はその写真を驚いた顔で凝視していた。何でそんなに驚いてるんだ?もしかして写真に変なものでも映ってた、とか?…いや、それはないか。私はそれを何年も見てきているし、オカルト的なモンが映っていたような記憶もないしな。
だとしたら、志保が驚いているのは…両親自身ってことになるけど。
「この人達が、咲羅の…?」
「ああ、ウチの両親。探偵やってて、…って言っても、私が高校を卒業する少し前に亡くなってんだけどな」
そう。あれは高校卒業間近の2月末のことだった。卒業後は両親の探偵事務所を手伝うことに決めていて、無事卒業も内定していたからもう学校に行く必要はなくて…あの日も、仕事で忙しい母さんの代わりに買い物に行っていたんだ。ただいまって言えば、おかえりって言ってくれる2人がそこにいるって、…いつもの光景が存在しているはずだったのに、それは儚くも砕け散ったんだよな。
事務所のドアを開けた私の目に映ったのは、血塗れになった両親の姿。
部屋の中もめちゃめちゃに荒らされていて、素人目に見てもこれは殺人だっていうのは明らかだったのをよく覚えてる。
でもそれを、幼なじみである新一と蘭は知らない。もちろん、警察には連絡して捜査してもらったけど…だけど、あの2人は優しいからさ?きっと知らせたら私以上に傷ついて、そんで怒りそうな気がしたから伏せてもらったんだ。目暮さんにも、小五郎のおじ様にも、優作さんと有希子さんにも、博士にも新一達には絶対に言わないでくれって念押ししたくらい。
それからマスコミにもリークしないでくれ、このことは警察内だけで処理してくれ、ってお願いもしたっけ…その甲斐あって、父さん達の死は警察の一部・私・工藤夫妻・博士だけが知っている。まぁ、新一には今言っちゃったけど、いい加減いいだろ。
「おい、咲羅。俺、知らねーぞおじさん達が亡くなったこと…!」
「言ってないからな。父さん達の意向で、葬式もやってないし」
「は…?どういうことだ、それ」
こうなることをあの人達は予想していたのだろうか?父さん達が亡くなった2日後に、1通の手紙が届いたんだ。宛名は私で、差出人は両親。中に書かれていたのは、…自分達の死後、葬式はやらないでほしい・そのまま埋葬してくれという2人の遺志。
…考えれば考える程、自分達が命を落とすこと―――いや、殺されることを予期していたかのような手紙なんだよな。確かに探偵という仕事をしていたから、危ない事件に遭遇することもあっただろうし、目暮さんに協力を頼まれることもあったみたいだから犯人から恨まれるってこともゼロではなかったと思う。
でもだからといって、殺されることまで…予期をしてこんな手紙を残すことが果たしてできるのか、ってこと。
「さあ?そこまではあの手紙からは読み取れなかった。…ただ、殺されたのは確実だな」
「殺人、だったのか?」
「目暮さん達、警察の見解はそうだったな。それに素人目に見ても、自殺とは思えなかったさ」
あの日の光景は、どれだけの時間が経とうとも決して忘れることはできない。いや、忘れてはいけないのかもしれない。
「ったく…その時に言えよ。傍にいることくらい、できただろ」
「傷つくだろう?私以上に、もっと…お前と蘭は。だから言えなかった」
「だからって全部1人で抱えて、それで黙っていなくなることねーだろうが!」
新一の言う通りかもしれないけれど、当時の私はとにかく隠さなくちゃいけない気持ちでいっぱいだったんだ。そして私が選んだのは、父さん達を殺した犯人を何が何でも見つけ出す茨の道。
…さて、私の話はここまでにして―――そろそろ志保が驚いていた理由を聞くとしようじゃないか。志保、と名前を呼べば、俯いたままだった彼女の肩がビクリと揺れた。何かを、恐れているかのように。
「君は、私の両親を知ってるんだな?」
「ッ、」
「お、おい。咲羅、灰原、どういうことだよ」
「―――咲羅は、…前に一度だけ、あの組織に忍び込んできたことがあるの。工藤くん、覚えているでしょう?彼女が私達の正体を見破った日を」
「あ?…ああ、そういやオメーのコードネーム…」
私は志保の正体を知っていた。コードネームも。それが意味するものは、私が黒の組織に関わりがあったということだ。
「何を調べようとしていたのかはわからない。でも彼女は確かに、あそこにいた」
「ああ、男の姿でだけどね。…それで?私の両親のことは、どうして?」
「…偶然、耳にしてしまったの。重要な証拠を握った邪魔な奴らがいる、って。その時に写真を見て、」
「そういうことか……やっぱりあの人達を殺したのは、黒の組織だったってわけかぁ」
何となく予想はしていたんだ。あの人達が亡くなって、この町を出ようと決心して遺品を整理していた時―――黒の組織関連の書類が山ほど出てきたから。きっと部屋の中を荒らされていたのはこれを探していたから、ってことなんだろうな。どうやら見つけることはなかったみたいだけど。
予想していたからこそ、私は無謀としか言いようのない行動に出た。必死で情報を掻き集めて、父さん達が手に入れた情報も駆使して、…それでようやく黒の組織の末端に辿り着くことに成功したんだから。まぁ、忍び込んだまでは良かったんだけど、うっかりヘマしちゃってすぐ追われる身になったけどね。オマケに怪我までして身動きが取れない、ときた…あの時、志保が拾ってくれなかったら今頃、私も両親の元へ旅立ってただろう。
「おまっ……無謀にも程があんだろ?!」
「るさいなぁ…わかってるっつーの。だから大人しく逃げ出したんだって」
「私からすれば、よくバレずに逃げ出せたわねと言いたいけれど」
「あはは、何とかなるもんだよなぁ」
だから貴方は無鉄砲で向こう見ずなのよ。
志保は呆れたように言葉を紡ぎ、溜息を1つ吐いた。けれど、彼女の顔に浮かんでいたのは呆れではなく僅かな…悲しみ、とでも言えばいいのだろうか?何故、志保がそんな顔をするのかはわからないけれど、何かを後悔しているようなそんな気がした。
「…別にさ、志保のこと恨んだりしないから。だからそんな顔、しなくてもいいよ」
黒の組織は憎い。私の両親を殺し、更には新一に得体の知れない薬を飲ませやがった奴らだからな。…でも志保のことは恨んでなんかいないんだ、これはマジな話。助けてもらった恩もあるし、…それに彼女が望んで薬を開発したとは到底、思えないんだよねぇ。「毒なんて作っているつもりはなかった」って、出会ったばかりの頃に彼女が口にしていたって新一が言っていたし。今じゃアイツに手を貸してくれてもいるみたいだしな。
「貴方も工藤くんも、…とんだお人好しね」
「おいおい…俺を巻き込むなよ」
「いーんだよ、別に!…私は自分の勘と直感に素直に生きていくって決めてんだから」
それがいつか、自分の首を絞めることになったとしても…それでも、私は自分の信念を貫くって決めてるんだよ。
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