銀の弾丸と拳銃
これで黒の組織を潰せるかもしれない、と教えてくれたのは、新一だった。
それはやけに唐突にやってきたようにさえ、思う。もしかしたら尻尾を掴めたのは、あっちの罠かもしれないと思ったけれど…ただでさえ、アイツらは証拠を掴ませない厄介な奴らだ。好機があるのなら逃すわけにはいかない、というのが新一の、そしてFBIの意見らしい。
「…ねぇ、博士。ちょっと作ってほしいものがあるんだけど」
「咲羅くんがそんなことを言ってくるなんて珍しいな。なんじゃ?」
「あのですね、実は―――…」
好機を逃したくないのは、私も同じだ。色んな人に止められるだろう、ってことは百も承知で、今の私の頭の中はどうしてやろうかということでいっぱいになっている。
様々なシチュエーション・パターンを考え、それを振りきる作戦を次々に挙げていかなくちゃいけないな。1つの作戦に縛られていたら、こっちが殺されてしまうだろうから。
「…咲羅、オメーなんつった?今」
「『私も連れてけ』」
「……」
「……」
「連れてくわけね、「嫌だって言っても、ついていくぞ」」
食い気味に言えば、新一はグッと唇を噛んだ。隣でそれを聞いていた志保も、博士も心配そうな顔。私の身を案じてくれる人がいる、というのは、有難く嬉しいものだな…だからこそ、素直に手を引くべきなのかもしれない。新一に言われた通り、帰りを待っていた方がいいのかもしれない。
私がもう少し臆病で、探偵なんかやっていなくて、…こんなこと考えるなんて馬鹿げているけれど、どれか1つでも歯車が噛み合っていなかったのなら―――きっと、黒の組織を壊滅させてやろうなんて思わなかったんだろうなぁ。でもそれは全て”もしも”の話。現実はまるっきり違う、だから私は大人しく待っていることなんて、できない。
「ただ待ってるだなんて、んなことできない。手伝わせろ、新一」
私の意志は固い。一度決めたことは梃子でも曲げないし、どんな手を使ってでもやり遂げる頑固者なんだ…幼なじみであるお前なら、このくらいわかっているだろ?止められようが何だろうが、私が決めたことは最後まで成し遂げたい。それが大切な人達を悲しませたり、傷つけることになったとしても、絶対に。私は強欲でわがままだから、だから1つになんて絞れないんだよ。…ごめんな?
「オメーが頑固なのは知ってっけど、…ぜってー許さねぇと思うぞ?赤井さんなんか、特によ」
「だから新一に頼んでんだろ」
「〜〜〜俺だったら許可する、って何で思うんだよ…!」
断られるだろう、というのは予想していたさ。だけど新一、お前は昔から頼み込むと最終的には承諾する節があるだろう?卑怯かもしれないが、今回ばかりは何が何でも引きたくないからそこにつけこませてもらったんだよ。
こういう時、昔から知っている相手というのはいいものだと思うな。心の底から。…今回ばかりは利用した、と言われても文句は言えないけど。それでもいいと思うくらい、私は―――
「両親の復讐、ってのも多分、あるんだけど…」
「咲羅…?」
「私のいない所で、死なれたら困る」
「……勝手に死ぬこと前提にすんじゃねーよ、バーロー」
仕方ないじゃないか、お前、今までにどれだけ危険な目に遭ってきたと思ってるんだ。心配になるのも当然のことだろう。というか、毒薬を飲まされて生きている今だって十分不思議なことなんだってことわかってるのかね?新一は。
飲まされた他の奴らはほとんどが死んでるんだ、もしかしたら新一だって同じように命を落としていたかもしれないんだから…だから尚更、放っておけないんだ。
「咲羅、」
「ん?何だい、志保」
「組織のアジトにあるかはわからない、でも…探してほしいものがあるの」
「…もしかして、薬の研究データ?」
「!よくわかったわね…」
「志保が欲しがるものなんて、あの組織の中には1つしかないはずだろ?」
だが、普通のパソコンじゃあ開けないように細工がしてあるんじゃなかったか?もしデータが入ったUSBを見つけて持ち出せたとしても、肝心のデータが見れないんじゃあ意味がない…尚且つ、データが全部消えちゃいました、復元なんて無理ですーなんてオチ、笑えやしないだろ。
心配事を素直に口に出せば、志保が1つのUSBを差し出した。ああ、成程…データを向こうのパソコンで開いてこのUSBにコピーしちまえばいいってことか!さっすが志保だ、ちゃんと考えてるんだねぇ。
だけど、念には念を入れておいた方がいいかもな。必要ないかもしれない、でももしかしたら必要になるかもしれない。今はあらゆる可能性や不安をどうにかする術を、考えておいた方がいいはずだ。それが実現できるかは別の話だけど、こればっかりは神のみぞ知る―――かも。
「…ねぇ、博士。ちょっと作ってほしいものがあるんだけど」
「咲羅くんがそんなことを言ってくるなんて珍しいな。なんじゃ?」
「あのですね、実は…見たモノをデータ化か写真として相手に送れるメカが欲しいんだ」
「また難しそうなものを…」
「うん、私も無茶言ってんなぁって自覚はあるよ。…でも、必要になるかもしんないから」
うーん、と渋る博士に苦笑しながら言えば、その言葉の意味を汲み取ってくれたらしく、何とかしてみようと心強いお言葉を頂きましたー。そうと決まれば、と早速博士は発明部屋へと引っ込んでいった。
これで私が打てる手は全て打てた、かな…一応、博士が頼んだメカを作れなかった時の為にカメラでも用意しておこうかな。まぁ、画面を撮った所でカメラを壊すことなく逃げられるかは、別問題になるけれど。保険はかけられるだけかけておいた方がいい、ってやつだ。役立つ・立たないは別として。
あと残った問題は、…FBIの面々と言った所だろうか。一般人とはいえ、黒の組織に深く関わり、何度も一緒に事件を解決してきた新一は問題ないが―――私は、完全な一般人なのだ。探偵を営んではいるが、黒の組織に深く関わりを持っているわけではないから。まぁ、両親が黒の組織に殺されているから、深く関わってはいるんだろうが…頭の切れる両親のことだ。きっと私の存在は上手く隠していたのかもしれないなぁ。そうでなければ、今頃、私もあの世に旅立っている可能性が高いもんね。
(案外、マヌケな一面もあるのだろうか…いや、そういうわけではないか)
それはさておき、どう踏み込むべきか。もうこの際、無理矢理乗り込んで強行突破するのが一番いいかも。秀さんはともかく、ジョディさんやキャメルさんは押しに弱い一面があるから。一度、懐に入り込んでしまえばどうにでもなる。だってそうなったら、追い返すことなんてできやしないからさ。卑怯だって何だっていい、何と言われようと私はもう覚悟を決めたから。
「新一のことは、何が何でも守るから」
「バーロー。それは俺のセリフだっつーの」
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