04
「こっちの方からだな、………あった、やはり爆弾か」
「何もしてこねーな、と思ってた所にこれかよ」
「残り20分ですか。…どう考えても、警察が来るのを待っていたら全員あの世行きだ」
「私達で解体するしかない、ってこと?」
「死にたくないのなら、それしか方法はありません」
安室さんが慎重に爆弾の蓋を開けた。中にはたくさんの色のコード、爆弾には詳しくない私はどんな構造になっているのかさっぱりだ。私を除く3人は爆弾の知識があるみたいで、これなら簡単に解除できるだろうと言っていますけど。
…秀さんと安室さんは仕事柄だろうけど、何で新一まで知ってるんだろ。こういうこと。探偵に必要な知識か?って言われたら、私は即座にNO!と答える。そうそうその知識を使う日が来て堪るか、チクショウ。
とりあえず、私は爆弾解体に関しては何の役にも立てそうにない。ここは詳しい人達に任せて、黙って見守る他ないと思う。何もできないっていうのは歯痒すぎるけれど、変に首を突っ込んでドカンといってしまうのは避けたい所だからね。グッと唇を噛んで、解体に取り掛かろうとしている3人をただ見つめていた。
「…大丈夫だ、咲羅」
―――ぽん、
「新一……うん」
頭にのせられた温かい手に、安堵する。そうだ、大丈夫、新一達がいるんだから…絶対に、大丈夫だ。すう、と息を吸い込んで吐き出せば、もう気持ちは落ち着いている。
―――ガチャンッ!
これなら落ち着いて解体している姿を見ていられる、と思った瞬間、扉の方から大きな音がした。私が開かないかな、と取っ手を引っ張った時のような…そんな音。一瞬、美和子さん達が来たのかな?と思ったけど、そんなはずがない、だって早すぎる。
これから向かう、と言っていたのは今から数十分前のこと。どう考えたってまだ着けるはずがない、此処が米花町だったらそれも可能かもしれないけれど、残念ながら隣の県だからね。―――だとすれば、犯人のご登場ってこと?
「この期に及んで登場かよ…いい趣味してんな」
「全くです。何も解体しようとした所に来なくてもいいんじゃないですかねぇ」
それは完全に私達の都合で、あちらさんにとってはどうでもいいこと。それに解体されては困るのだろう、殺すつもりでセットしたんだろうし?…けど、放っておけば死ぬかもしれないのにどうして今頃やって来たのだろうか。奴らの行動に首を傾げたが、安室さんの姿を見て合点がいった。
もしかしたら解体されて逃げられてしまうかもしれない、と思ったんだろうね。
タイムリミットは20分、それだけあれば私達を全員殺せる…そう考えているのかもしれない。そして時間までに脱出してしまえば、私達の死体は爆弾によって黒焦げになる。証拠も残らない、ときた。
うーん、悪い手ではないんだろうけども―――だからといって、そう簡単に殺されるのは嫌だし癪だ。拉致監禁されたことだって癪だし屈辱なのに、その上、殺されて黒焦げなんて洒落にならないもの。
そうこうしているうちに犯人の手によって施錠されていたであろう分厚い扉は、ギギギ、と重い音を立てて開いた。入り込んできた光に思わず目を細めるけれど、次第に慣れて扉の先にいる奴らが見えてくる。
「しぶとい奴らだな、…やっぱりこの手で殺してやらねばいけないらしい」
「覚悟しやがれ!!」
うーわお。本当に容赦ないね、少数VS多数って卑怯だと思わないわけ?…思わないか、そんな真っ当な考えを持ってたら麻薬密売なんて犯罪に、自ら手を染めようと思わないもんね。
チラリ、と安室さんに視線を移せば、どこから出したのかわからないナイフでコードを次々と切っているのが見える。爆弾解体は順調のようだし、…何とかタイマーを止めるまで、彼に危害を加えられないようにするしかない。
「秀さん、」
「ああ。…安室くん、ボウヤ。爆弾の解体は任せたぞ」
「は?!ちょ、赤井さんっ咲羅?!」
「ちっ…どいつもこいつも。工藤くん、僕達はこっちに集中しましょう。赤井に命令されるのは癪ですがね」
「ああもう…!」
向かってくるスーツの男達を片っ端から殴り、蹴り、はっ倒していく。1人だったらキツかったかもしれないけど、めちゃ強な秀さんが一緒なら何とかなりそうだ。
背中を預けて、預かって…口にしたわけではないし、されたわけでもないんだけど、何となく流れというかノリというか?でも意外とそういうのって上手くいくんだ、現に今だって―――お互いがお互いを、助けるような形になっているんだからね。
私の蹴りが、秀さんの拳が最後の1人を吹っ飛ばして、全員ブッ倒すことに成功したみたい。
あーでもやっぱりしんどい…こんな数をいっぺんに相手するなんてこと、普通に生活してたら絶対にないことだもん。いくら探偵を営んでいたってそこまで危険な現場に1人で行くことはないし、あったとしても捜査一課の人達が一緒だからなー今みたいな目に遭ったとしても、何とかなってしまう。
「相変わらず無茶すんなぁ、お前は…」
「新一は運動神経良くても、こういうのは得意ではないだろ?私は得意分野だからね」
「だが、真っ先に突っ込んでいくのは頂けないな。…ほら、頬を怪我している」
そういやナイフの切っ先が掠ったような記憶もあるな。心配そうに傷口に触れる秀さんにそのうち治る、とだけ口にして安室さんの手元を覗き込む。あれだけたくさんあったコードは、あと1本という所まできていた。
残り時間は5分…間に合うだろう、と思ってはいるけれど、安室さんの手が止まっているのが気に掛かる。何か問題でも起きたのだろうか?どうしたんです、と声を掛けると、最後の1本はどちらかを切ったら爆発するタイプのものなんだ、と溜息交じりに返された。ええっと、…それはつまり、運任せだってこと?
「単純な構造の爆弾には、割とよくあるパターンだ」
「だからこそ厄介なんです。最後の最後で知識が役に立たない…!」
―――カチ、カチ…
残り時間はあと3分を切った。これ以上悩むのは、危険すぎる。安室さんの言う通り、知識が役に立たないパターンの爆弾なら…潔くいくのも、アリなのかもしれない。ええい、ままよ!
安室さんの手からナイフを奪い取り、私はそのままの勢いで赤いコードをブツンと切った。お願い、止まって…!!
―――カチ、……
音が、止まった…?
バクバクとうるさい心臓を押さえながら、タイマーを覗き込むと『01:02』で止まっているのが確認できた。数字が進む様子もないし、もしかして解体成功?
「…どうやら止まったようですね」
「咲羅……」
「うわ、そんな怖い顔しないでよ秀さん!結果オーライ!!」
「そういう問題じゃねーよ、バカ咲羅」
爆弾は解体成功、その数十分後には美和子さん達が来てくれて私達はようやく米花町に帰ることができた。
そして今、私は事情聴取など諸々を終えて工藤家に転がり込んでいる。
「っはー…疲れたぁ」
「濃い一日だったからな。おら、コーヒー」
「さーんきゅ、新一。…ん、美味しい」
「そりゃ良かった。泊まってくのか?今日」
新一の言葉にんー、と考える。どうすっかなぁ、家に帰っても1人だし泊まっても何ら問題はない…けど、着替えは持ってきてないから悩む。すっげー悩む。
かと言って、一回、家に帰るのは面倒くさくて仕方ないし―――
「俺はオメーがいてくれると、嬉しいけどな?」
「ぶふっ!」
「何で吹き出すんだよ!変なこと言ってねーだろ?!」
「いっいきなり甘い雰囲気出すから!!慣れてないんだっつーの!」
「俺だって慣れてねーよバーロー!!」
うぐっと黙るしかなかった。そう、そうなのだ、互いが初めての恋人である私達は、総じてこういう恋人特有の…甘い雰囲気が苦手というか、慣れないんだ。いつまで経っても。もう付き合い始めて半年が経つというのに。
…気持ちが通じ合った日の方が、お互いに無我夢中だった気がするなぁ。本能で動いていた、というか何というか。でも、それでもやっぱり新一の傍にいたくて、触れていたくて、触れてほしくて…胸の奥がぎゅうっと締め付けられるように痛むんだ。
「……泊まる。一緒に寝て、新一」
「ぶっふぉ!!」
今度は、新一が吹き出す番だった。
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