泥棒と捜査官のいちにち。
米花町で会うことなんてもう二度と、有り得るわけがないと思っていたんだけど…世界は些か狭すぎるんじゃないですか?
そんなことを考えながら、隠すこともせずに大きな溜息を1つ。
「なんだ、でっかい溜息だな。幸せが逃げちまうぞー」
「…君がそんなことを言うなんてビックリだよ」
「ははっまぁ、たまにはな」
次元大介―――ルパン一味の1人で、天才凄腕ガンマンで、ルパンの右腕と言える存在だ。所謂、相棒ってやつなのだろう。
普段の活動拠点は外国だと聞いているのに、何故か今は日本、それも米花町にいて、私とカフェでお茶をしている最中だったりする。何で一緒にお茶するのOKしちゃったんだろう。沖矢くんに知られたら絶対怒られるやつだ、これ。見つからないことを祈りたいなぁ…大丈夫かなぁ。
「それで?何で日本にいるの。拠点は基本、外国なんでしょう?」
「まぁな。でもたまには祖国の空気を吸いたくなって、帰ってくるんだよ」
「へぇ」
そうか。ルパンは完全に海の向こうの生まれだけど、次元は日本生まれなのか。そうだよね、名前からしてそうに決まってるじゃん。気にしたことなかったからあれだけど。
「だから今回は泥棒として来てんじゃねぇんだ。一時休戦といこうじゃねぇか」
「一時休戦、ねぇ…?」
「おう。それにお前に会いに来たのも理由の1つなんだぜ?円香」
「…は?」
思いがけない言葉が飛んできて、思わず目を瞠った。ルパンならともかく、次元がこんな冗談を口にするなんて思いもしなかったから。冗談ではなく本気だとしたら、もっとビックリだけど。
(だけど…あの時、頬にキスされたことを考えるとあながち冗談ではないのかな)
さすがの私でもあそこまでされたら、あの行為に意味なんてないなんて馬鹿な考えは浮かばないよ。それを鵜呑みにして信じることもしないけど、かと言って頭ごなしに否定することもしない。銃までもらっちゃったし。
「次元にしては珍しい冗談ね」
「けっこんなこっ恥ずかしい冗談言うと思うか?」
「…思わないけど、裏があったら言うんじゃないかしら?」
「疑い深い奴だな。…言ったろう、泥棒として来てんじゃねーってな」
「ええ、そうね」
それを鵜呑みにすると思いますかっての。けど、嘘を言っているようには見えないし、声色も…聞き慣れたものだと思う。ということは、全部本当なんだと思うんだけどさ…それはそれで厄介な気がするのは私の気のせい?考えすぎ?
「円香を落としに来た、っつったら信じるか?」
「ぶっふぉ!」
「きったねぇな、オイ!」
「ゲホッゴホッ…だ、れのせいだと思って…っ!」
咳き込みながら訴えてみるけれど、俺のせいか?と涼しい顔。こんにゃろ、覚えてやがれ…!どうして私が関わる男性は、突拍子のないことを言い始めるのかしら。何とか呼吸を落ち着け、テーブルの上をペーパーで拭いた。良かった、テーブルにはあまり飛んでないみたい。
最後に自分の服が濡れていないかを確かめて、ようやく次元へと視線を戻したのだけれど…口元が弧を描いていて、なーんだか嫌な予感しかしないわ。それを隠すこともせず、前面に押し出した。次元はそれでも愉快そうに笑っているけれど。
「…何で笑っているのかしらね?君は」
「さあ?何でだろうな」
こっちが質問してるんだから、答えてくれたっていいじゃないの!カフェ内で大きな声を出すわけにもいかず、言葉はそのままグッと飲み込んだ。
気持ちを落ち着けるように紅茶を口にしていると、落ち着いた声音で名前を呼ばれる。名前を呼ばれると、どうしても反応しちゃうわよね。うん。
「今日はオフか?」
「そうだけど」
「アイツは?相棒の狙撃手」
「…彼と会う約束なんてしていないわ。残念だったわね」
「残念?一体、何を言ってやがんだ。好都合だな」
…はい?好都合って、一体、何を言っているんだ?この人は。全く意味がわからずぽかん、としていると、伝票を持って出るぞ、と一言。反射的に次元の後を追いかけるけれど、本当に意味がわからない。何を考えているの?この男は。
…てか、さも当たり前のように私の分まで会計されちゃってるし!
「ねぇ、用事が済んだのなら私は帰っていいかしら?」
「馬鹿言ってんじゃねぇよ、用事は済んじゃいねぇ」
「はぁ?」
「言っただろ?お前を落としに来た、と。仕事がねぇんなら、1日俺につき合え。暇なんだろ?」
「ちょっ…勝手に人の予定を決めないでよ!」
「いーから来いよ。…円香」
「わっ!じ、次元!!」
その言葉に嘘偽りなどない、と証明するかのように、本当に私は1日次元につき合わされました。なんなのこれ!