ピロートークにはほど遠い


「う……」


ゆっくりと目を開けると、私はベッドの中で丸まっていた。あれ?いつの間にベッドに入ったんだろう…首を傾げながら起き上がれば、腰に激痛。そしてずり落ちた布団の下から現れた自分の姿に、思わず悲鳴を上げそうになったのは仕方がないと思うんです。
急いで頭から布団を被り、何でこんなことになっているのかと記憶の糸を辿っていく―――と、ここに至るまでの経緯を全て思い出し、やっぱり叫び出したくなりました。そのままベッドに突っ伏し、顔の熱が引くのをひたすら待つ。

(いや、先に手を出してきたのはあっちだけど、結局受け入れたのは私…!)

完全に同意の上で行われた行為だ、誰に文句を言えようか。うん、誰にも言えるわけないよね!無理矢理だったらともかく、私、承諾しちゃったし。というか、シてほしいと思ったのも、事実、だし………ダメだ、自分で自分の首を絞めている気がしてなりません!!というか、何で裸なのかな?確か服を着たままシたはずだよね?!


―――ガチャッ

「円香?起きたのか?」
「…はい、起きてます…今、何時ですか」
「ちょうど0時を回った所だな。風呂はどうする」
「入りたいですけど、」


動けない程に、腰が痛いのだ。床でシてしまったせいなのか、それとも何度も求められた結果なのかは判断つかないけど。
さて、本当にどうしようか…と布団に包まったまま悩んでいると、剥ぎ取られました。何が?布団が!!今度こそ遠慮なくギャーッと叫ばせてもらったぞ。


「バカバカバカ!秀一の大バカー!!!」
「ひどい言いようだな」
「当たり前じゃないですかっ何で布団剥ぎ取る―――わぷ!」
「それを羽織れ」


顔面にかぶせられたのは、黒のワイシャツ。微かに煙草の香りがするそれは、秀一が着ているものだ。いや、これじゃなく布団を返して頂きたいのですが…!それか私の服をくれれば万事解決なんじゃないかな、何故に貴方のシャツを羽織らねばならんのですか。
恥ずかしい気持ちの方が先行しているから、大人しく着るけど…うわ、わかってはいたけど大きいなぁ。袖も長いし、丈だって私が着ると短めのワンピースになっちゃうじゃない。
これ立ち上がったらマズイやつや、と内心独り言ちていると、ふわっと体が浮き上がった。ギョッとしていると、涼しい顔をした秀一に横抱きにされている。所謂、お姫様抱っこというやつです。
何だろう、この人は私を辱めて殺したいのだろうか…!もう一度だけバカ、と呟いて、彼の首筋に顔を埋めた。


「歩くのがキツイのだろう?」
「キツイですけど、こっちのが辛い。何でお姫様抱っこ…!」
「担がれるよりマシだろう?」
「う…確かに」


肩に担がれたらもう頭に血が上ることが目に見えているからね。諦めるしかないな、と溜息を1つ。


「というか、何で裸…?服、着てましたよね?」
「ああ…汚れてしまったからな、脱がせた」


汚れたって、…ナニで、ですか。これ以上は聞いてはいけない気がして、口を噤んだ。昨日の記憶がないわけではないけど、正直途中から曖昧だったりする。だってもうワケがわからないくらいに攻め立てられて、よく覚えてないんだもの。特に最後の方とか。
…そりゃ、気持ち良かったです、けれども。思い出せば思い出す程にドツボにはまっていっているような気がして、顔が熱い。

いつの間にかバスルームについていたらしく、洗面台の前に置かれている椅子に下ろされ―――シャツを脱がされました。

何なの?この人ほんとにバカなの?アホなの?!叫ぶ間もない、というか、あまりにもナチュラルに脱がされちゃったもんだから、事の次第に気がつくまでタイムラグがあるんです。顔が真っ赤に染まる頃にはもうお湯が張られた湯船の中に下ろされていて、肝心の秀一はそのまま出て行ってしまった。
まぁ、出て行ったといっても脱衣所にいるんですけど、…あ、あれ?シルエットを見る限り、あの人ってば服を脱いでいやしませんか?頭上にクエスチョンマークが浮かんでいる中、案の定、服を脱いだ彼が入ってきて勢い良く背を向けた。
無理無理無理…っ!直視できるわけないじゃないか!ああでも、チラッと見た腹筋は相変わらず締まっていらっしゃる。って私は変態か!痴女か!!


「そこまで勢い良く逸らすこともないと思うんだが」
「だっだって、…!」
「さっきまで散々シていただろう」
「わーっ!それ言わないでくださいっ!だけど服は着たままだったじゃないですかっ!!」


そう、そうなんです。確かに散々シましたけど、裸にはなってないのだ。お互いに。…いや、裸だったとしても今とは状況が違うし、どっちにしろ直視できなかったと思うけど。そっと溜息を吐いて、背後から聞こえる髪を洗う音や、シャワーの音に耳を傾ける。
うーん、ただの生活音のはずなのに…どうしてこうも恥ずかしく感じてしまうのだろう。一緒にお風呂に入っているのが女の子だったら、多分問題ない。相手が異性、というか恋人である秀一って所が緊張する要因なのだろうなぁやっぱり。

(ヨリを戻したって言っても、一緒にお風呂に入るのって初めてだし…)

体を繋げたことはもちろんあったけど、でも片手で事足りるくらいだったと思う。そんなにハッキリ覚えているわけじゃないけど、でも友人達に少ないよっ!って言われた記憶があるから間違ってはいないんじゃないのかな。
…まぁ、こういう行為自体が久しぶりだったりするのだけれど…それは黙っておこう。言う必要はない、私が恥ずかしい思いをするだけだ。絶対に。


「…秀一、お腹空きました」
「ああ、そういえば夕食がまだだったな」
「冷蔵庫に何かあったかなぁ…」
「サラダに使った野菜がまだ少しあったはずだ。サンドイッチでも作るか?」
「食べます」
「わかった。…ああ円香、湯船に浸かったままでいい。縁に頭を預けろ」
「へ?こ、こうですか?」
「髪を洗ってやるから、大人しくしていろよ」


そう言って秀一はシャワーで髪の毛を濡らしていく。多分というか絶対、湯船から上がった方が洗いやすいとは思う。だけど敢えてそうしなかったのは、…彼の優しさなのかなぁ?裸を見るのも、裸を見られるのも異常な程に嫌がってたからねぇ私。タオルを持ってきていれば隠せるから、そこまで嫌がらなかったのかもしれないけど。まぁ、今更そんなことを言っても仕方がないのでね。

わしゃわしゃと洗われる感覚が気持ち良くって、そっと目を閉じる。はー…他人に髪を洗ってもらうとか、美容院以外ではそうそう経験しないけど気持ちいいなぁ。このまま寝れちゃいそうだ、と思うくらい、秀一の手は優しかった。
疲労もまだあるのだろう、うとうととしているとベチンッと額を叩かれた衝撃に一気に意識は覚醒。もうちょい起こし方も優しくしてくんないかな…!


「寝るなよ、沈めるぞ」
「沈むぞ、じゃなくて?!」
「ああそうだな、言い間違えた」


…嘘だ。絶対、言い間違いなんてしていないと思う。


「もういいです、意地悪。体洗いたいので、あっち向いて今すぐお湯に浸かってください」
「なんだ、体まで洗ってやるつもりだったんだが?」
「やですよ!恥ずかしいのもあるけど、絶対洗うだけじゃ済まないですもん!!」


私の言葉にきょとんとした秀一を見て、ようやく爆弾発言をしてしまったことに気がついた。ばふっと両手で口を押えてみるものの、紡いでしまった後ではもう遅い。
だってあんなの、まるで、まるで―――…


「…期待、していたか?」


直接注ぎ込まれるように囁かれる声に、ビクンッと過剰な程に反応してしまった。でも今のは私悪くない悪いのは絶対に秀一だ…!あんな声で、耳元で、あんなこと言われちゃったらあんな反応しちゃうでしょう?!不可抗力ってやつですよ!!ああもう…顔があっつい。

(期待したか、とか言われちゃったら…どうしようもなくなるじゃない)

少し前まで愛されていたこの体は、少しの刺激で反応を示すし、あの時の感触とかその他諸々を鮮明に思い出してしまうというのに。きっかけを作ってしまったのは私かもしれないけど、でもやっぱり秀一にだって非はあると思うのだ。彼の口癖でもあるフィフティ:フィフティというやつです。


「…もうやだ。秀一って本当に意地悪。ドS」
「ククッすまなかった、少しからかいすぎたな…俺は湯船に浸かるから体を洗ってしまえ」
「……ん」


秀一がこっちを向かないうちにささっと体を洗って、そのままバスルームを出ようとすれば、グイッと引っ張られてもう一度湯船の中へ。もうビックリし過ぎて無反応です。というか、そろそろ叫ぶ気力もなくなってきたんじゃないのかな…私。


「肩が冷えてる。少し温まってから出ろ」
「割と平気なんですけどねぇ」
「また風邪をひいても知らんぞ」
「う、それを言われると弱い…」


あ、そういえば…


「秀一、何であんなに不機嫌だったんです?」
「不機嫌?俺が?」
「はい。それで、あ…あんなことに、なったんだと、思っていたんですが…っ!」


最後の方は言葉になっていたのかどうかも怪しい所。だけど、何とか聞きたいことは彼に伝わっていたらしく「ああ、」と呟いて思案顔。
あれ?もしかして私が勝手に不機嫌だと思っただけで、実際はそうではなかったのかな?私も彼に倣って考えてみる…というか、あの時のことを思い出してみたけれど、どう考えたってあれは不機嫌だったよね?!怒ってたよね?!笑顔を浮かべてたけど立派な般若だったよね?!
うん、やっぱり不機嫌だったよあれは。


「…円香が、バーボンと会っていたからだろうな」
「へ?」
「言っただろう?他の男に渡したくはない、と。彼だってその1人だ」
「いや、あの、…アイツは私になんぞ興味はないと思うんですが」
「それでも、だ。…愛しい恋人が男と2人で会ったとなれば、嫌になる気持ちは理解できないわけでもないだろう」
「わかる、けど…」


秀一の言う通り、わからないわけではないけど…でもバーボンは組織の一員で、私達にとっては捕えるべき対象。つまりは敵だ。それなのにそんな風に思ったの?


「つまり、……嫉妬?」
「…………まぁ、そうなるか」


嫉妬してくれたのは嬉しいんだけど、秀一のスイッチはどこで押されるのかちょっとわからない…と、場違いなことを考えてしまった。だってどう考えても、嫉妬する要素なんて1つもないんだもの。
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