全身全霊の祝福


その場の勢いで求婚をしてしまった私だったが、コンも同じ気持ちだったことがわかりすんなりと恋人から婚約者になった。気が付けばその日から1ヶ月ほど経過していたわけです。
結婚式を挙げることは私もアイツも考えていなくて、でも報告だけはしないといけないよなーと話してはいたんだが、コンが遠征でしばらく眞魔国を離れていたりしていたからなかなか皆に告げるタイミングがなかったんだよ。
そんなわけで婚約をしたものの、その事実を知っているのは誰もいないという事態。…さすがにユーリに報告していないのはマズイよなぁ。


「……へっ?」
「あ、面白い顔になっちゃってますよ陛下」
「陛下って言うな名付け親!」
「すみません、ユーリ」


遅くなってしまった婚約の報告をしにユーリの私室を訪ねた私達なんだけど、婚約しましたと告げたらとても驚いた顔のまま固まってしまわれました。すぐにコンの陛下呼びで我に返ったみたいだけど。
驚いた表情を浮かべたユーリだったけれど、次第に満面の笑みを浮かべておめでとう、という言葉と共に私達をぎゅうっと抱きしめてくれた。何度もおめでとう、と言うユーリの声は少しだけ震えていて、何て言うか…こう、胸がきゅーっと締め付けられるような感じがした。
この方はとても優しい方だからきっと、3年前のあの時のことを思い出しているんだと思う。そして心から私達のことを祝福してくれているんだと。ちょっと自意識過剰かな、とも思うんだけどね。


「喜んでくれてありがとう、ユーリ」
「俺が結婚するわけじゃないけど、すっげー嬉しい!良かったな、コンラッド、ルナ!」
「ユーリにそうやって祝福してもらえて、俺達も嬉しいです」
「あ、式はいつ挙げるんだ?」


ワクワクした表情でそう聞いてくるユーリはとても可愛らしいけど、うん、ごめんね?私達、式を挙げるつもりはこれっぽっちもないんです。
コンが苦笑を浮かべながらそう告げると、嬉しそうな表情から一転、とても残念そうな表情に変わった。昔から思っていたけど、ユーリって表情豊かだよなぁ…まるで百面相だ。コロコロと変わる表情を見ているのはとても楽しいけれど、そんなに残念そうな顔をされるとちょっと罪悪感というか何というか…すごく申し訳ない気分になるな。


「大好きな2人の門出だし、ちゃんとお祝いしたいんだ」
「ユーリのその気持ちだけで私達は十分なんだが…」
「ダメ!俺がしたいだけなんだって!…そうだな、式じゃなくてもお祝いのパーティーしよう!城の皆を呼ぶだけのものになると思うけど」
「それでも十分嬉しいです。ありがとう、ユーリ」
「へへっ絶対、心に残るパーティーにするから楽しみにしててくれよなっ!」





ユーリのあの言葉から更に1ヶ月が経った。パーティーの企画は魔王であるユーリ自らが行っているらしく、何だか余計に申し訳ない気持ちになったよ…いや、すごく嬉しいんだけどね。…うん、これ以上考えても仕方ないだろうからやめよう。
私達が婚約したことはユーリに報告した次の日には、城中に広まっていて会う人、会う人に祝福の言葉を頂いてしまった。コンの兄弟であるグウェンダル閣下とヴォルフに至っては言葉だけではなく、祝いの品まで頂いてびっくりしたんだ。
でもやっぱり、こうやって祝福してもらえるのは、…すごく嬉しいな。あの日はずっと私は顔がにやけてしまって大変だった記憶がある。


「ルノアーナ!準備はできて?」
「ツェリ様、…はい、まぁ一応…」


そう、今日はコンと私の婚約を祝うパーティー当日だったりする。ユーリは城の者を呼ぶだけの、と仰っていたが…気が付いたら参加者の数がとんでもないことになったとフォンクライスト卿が苦笑いで教えてくれた。
その事実を聞いて困惑していた私に、彼はそれだけコンラートと貴女のことを祝いたいと思ってくれているんですよと優しく諭してくれたのだけど。


「ツェリ様が選んでくださったこのドレス…私には似合わないと思うんですが」
「そんなことないわ、とっても素敵よ!よく似合ってる。…ようやく貴方も幸せになれるのね、ルノアーナ」
「…長い間、ご心配をかけてしまいました」
「いいのよ、そんなこと。でもそうね、そう思ってくれているのなら―――これからたくさん、笑ってちょうだい」


それがわたくしへの恩返しだと、そう思ってちょうだい。
慈しむように笑うツェリ様はとても綺麗で、美しい。うっかり泣きそうになってしまったけど、涙を飲み込んで笑みを浮かべる。私が笑ったのを見てツェリ様はとても嬉しそうに笑って、ぎゅうっと抱きしめてくれた。そして幸せになって、と言葉をくれた。
その言葉に応えるように私は、ツェリ様の背中に腕を回して同じようにぎゅうっと抱きしめたのだ。


―――ガチャッ

「ルナ、上王陛下、そろそろお時間です」
「ギーゼラ、…わかった、すぐ行く」


呼びに来てくれたギーゼラに返事をすると、ツェリ様は先に行っているわねと一足先に控室を出て行った。


「…さすがに緊張してきた」
「あら、珍しいわね。でも大丈夫よ、コンラート閣下が一緒なんだから」
「それは心強いんだけど、…元々、パーティーとか苦手なんだ」
「知っているけど、でも今日くらいは我慢なさい。…お祝いの場なんだから」


ギーゼラと共にパーティーの会場へと向かうと、大きな扉の前に正装をしたコンがヨザと共に待ってくれていた。わ、…アイツの正装を見るのは初めてじゃないのに、何だかすごくカッコ良く見えてドキドキするんだけど!緊張、してるせいもあるのかもしれないんだけど。
思わず足を止めてしまった私を見つけたヨザがにんまりと笑みを浮かべて、手を挙げた。それを見たコンが同じようにこっちを向いて、穏やかな笑みを浮かべたのが見える。いつも見ているはずの表情なのに、どうしてこんなにも心臓がうるさく跳ねてしまうのか。


「よーう、お嬢!」
「…ああ」
「あれ?めっずらし、緊張してんのか?」
「するに決まってるだろ…私を何だと思ってる」


からかい口調で尋ねてくるヨザにぶすっとした顔で返せば、私の横にいたギーゼラが思いっきり吹き出した。何事かと思えば、2人のやり取りを見るのが久しぶりでと言われた。…そういえば、昔はこんな風なやり取りを常にしていたような気もするな。クスクスと楽しそうに笑うギーゼラを見て、私も自然と笑顔になれた。うん、さっきよりは少しだけ落ち着いたような気がする。
そっと詰めていた息を吐き出すと、頭の上に温かいものが載せられた。視線を上げてみるとその温かいものの正体はコンの手。大丈夫、と言うようにぽんぽんと軽く叩いてからその温もりが離れていった。
それは昔から私を落ち着かせる時にしてくれていたこと…軍人となってからはほとんどしてもらう機会はなかったけど、うん、いまだに効果は抜群みたいだな。
緊張はしているけれど、少しだけ解れた。これならきっと大丈夫だ。


「では閣下、ルナ。扉を開けますよ、準備はいいですね?」
「ああ」
「ん、大丈夫」


ヨザックとギーゼラによって開け放たれた扉の先に見えた光景は、とても眩しくて、でもとても幸せを感じるものだった。


「…ルナ、行こうか」
「え、あ、うん」


そっと差し出された左手におずおずと右手を重ねれば、そのまま優しく握られた。ずっと感じてきていた彼の体温に、温かさに胸がぎゅうっと締め付けられるような気がした。でも嫌な感じじゃない、僅かな切なさはあるけれどそれ以上に幸せだって思えて、今まで以上にコンを愛しいって…そう思ったんだ。

―――やっぱり、これから先の長い人生を共に歩んでいくのはコンがいい。コンでないと、嫌だ。

胸をぎゅうぎゅうと締め付けるほどの思いの丈を、この愛しさを伝えたいけれど何て言葉にすればいいのかがわからない。だから、それを全て込めるかのように繋いでいる手に一層力を込めるんだ。手からコンへ、伝わりますようにと願いを込めて。


「―――コン、…私はお前と出会えて本当に良かった」
「俺もだよ。これからもっと幸せにするから、だからずっと…笑ってて」



(ルナー!コンラッドー!おめでとっ…本当におめでとう!!)
(ユーリ!魔王であるお前が一番泣いてどうするんだ!)
(そういうヴォルフも少し目が赤くなってるぞ?)
(…コンラート、ルナ。おめでとう)
(うん、ありがとうグウェン)
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