Marry me?


「ルノアーナはいつコンラートと結婚するの?」
「……へぁ?」
「俺もツェリ様と同じこと思ってた。しないの?結婚」


ツェリ様とユーリにお茶に誘われ、中庭でのんびりお茶を飲みながら話をしていたら急に2人から爆弾を投下された。え、だって今の今までヴォルフやグウェンダル閣下の話をしていたんだよな?それが何で急に私とコンの話になったんだ?!それもけ、…結婚、とか!!
どう答えていいかわからなくてカップを持ったまま硬直していたら、ツェリ様に心配された。うん、ご心配かけて申し訳ないとは思いますが、原因は貴方とユーリですよ?とは思うものの、面と向かってそんなことは言えないのでその言葉は飲み込むことにした。
…けれど結婚、か。今まで一度も考えたことなかったし、コンとそんな話をしたこともなかったな…というのも、想いを告げたのは3年ほど前になるが、それが実を結んだのは1年前―――つい最近なのだ。
それに目を覚ました後は体調に波があったり、仕事に復帰したり、色々と忙しかったからゆっくり話す時間がなかったのもあるけど。私自身、結婚に憧れがないわけではないが、そんなに重要だとも思っていないんだよな。


「あ、でも付き合ってまだ1年くらいだっけ?それだと結婚とか考える時期じゃないのかな」
「いえ…多分、それぞれだとは思うが」
「わたくしは早くに結婚してあの子達を産んでいるから、もうそろそろいいんじゃないかしらと思っていたのだけど」
「うーん…私も彼も軍人ですから、家庭をもつというのには少し抵抗があると言いますか…」


戦争が減ってきたとはいえ、まだ人間の国との諍いは絶えない。こちらから仕掛けることはほぼないが、箱と鍵を狙ってくることが多々あるからなぁ…いまだ気の抜けない状況が続いているんだ。それでも昔に比べたら大分平和になってきてはいるのだが。
とはいえ、いざ戦争になったら私達は前線へと赴くだろう。結婚をして家族になっても、もしかしたらすぐに命を落とす結果になってしまうかもしれない。そう考えると今のままの状態の方がいいのでは、と思ってしまうんだ。
夫婦ではなく恋人のままの方が、ショックは少ないんじゃないかって。…きっと、どちらでも大切な人を失ったショックは変わらないとは思っているんだけどねぇ。どうにも踏み切れない気がする。


「怖い、のかもしれない…今以上に近くにいて、失ってしまうその時が」
「んー…ルナの気持ちもわからないでもないけどさ、人って守りたいって思う人がいた方が強くなれる気がすると思うけどなぁ」
「まあっ!陛下のそのお考え、とても素敵!!」
「守りたい、」
「うん。俺もさ、この国に住む人達やルナ達を守りたいって思うからもっと強くなりてーもん。ちょっと違うかもしれないけど、でもそういうことだろ?」


それにルナ達はもう恋人なんだから、夫婦になってもあんまり変わらないんじゃない?
ユーリのその言葉にツェリ様も和やかに笑って頷いた。確かになぁ…失うのが怖いならば、最初から恋人になどならなければ良かったわけだし。それでも今、彼とそういう関係になったのは―――誰にも取られたくなかったし、守りたいと思ったからだろう。そしていつだって一番近くにいたい、とそう…望んだから。

結局、それ以上話が膨らむことはなく程なくしてお茶会は解散となった。でも思っていた以上に私の心にその話は根深く残っていたようで、気が付くとそのことを考えている。こんなにも思考が流されやすいタイプだとは思っていなかったが、…無意識に望んでいることだということなのだろうか?
まぁ、これでも女だし結婚に興味が全くないというわけでもないし、憧れを持っていなかったわけでもないんだけれど。いつかは、と…幼い頃に思っていた時期もあったくらい。


「ルナ?」
「ッ、…コン、ラート…?」
「ごめん、驚かせた?何度もノックはしたんだけど」
「そうだったのか、悪い、考え事してた」


ソファに座ってぼんやりと考え込んでいたら、目の前にコンのドアップが現れて驚いてしまった。…というか、こんなに近くに他人の気配があったのに気が付かなかったなんて…思考に耽り過ぎだろう、仮にも軍人だというのに。
もう一度コンに謝罪をして、2人分の紅茶を淹れるべく立ち上がった。のだけど、立ち上がった私を制しコンが紅茶の準備を始めた。彼が淹れてくれる紅茶はとても美味しいけど、部屋の主が座って待っているというのもどうなんだろう…でもまぁ、いいか。本人が気にしていないのなら。気にしてたらまず立ち上がった私を制したりしないだろうしね。
7
カチャカチャと陶器がぶつかる音をBGMにコンの背中をボーッと見つめてみる。
私達は恋人同士ではあるけれど、それぞれの仕事があるから普段は割と別々に行動することが多い。部屋も別々だから、丸一日会わないってこともたまーにある。お互い、陛下の護衛をしているから全く会わないってことは本当に極々たまに、なんだけど。
そのことに不満を持ったことはないし、別段寂しいと思ったこともない。それはきっと、それが当たり前だと思っているから。理解をしているからだと思う。
このままの関係でも構わない、と思ってはいるけれど…もしコンと結婚をしたら、きっと部屋は一緒になる…んだよな?そうしたら仕事が終わったらこんな風に一緒に過ごす時間が増えて、この後ろ姿をずっと眺めていることが出来るってこと?


「(…あ、それはちょっといいかも)」


今と大した変化はないと思うけど、部屋が一緒になるということはその分、コンを独り占めできる時間が増えるってことで、…私しか知らない彼を、知れるってことなんだ。長い付き合いだし、彼のことはある程度知っているつもりだけど…プライベートな時間を過ごしているコンは、まだあまり知らない。
弱い所とか、絶対に見せたくない所とか、…そういうのを全部曝け出すことになるのかもしれないけど、でもそれでもいいと思えるのが―――結婚したい相手、ってことなのかも。恋人と夫婦の違いってそういう所なのかもしれないな。…いや、違うのかもしれないけど!こういうのって感じ方は人それぞれ、ってやつなんだろうし。


「はい、ルナ」
「ありがとう、コン。…なぁ、」
「ん?何だ」
「…私と、結婚してくれないか?」


気が付いたらスルリ、と口をついて出ていた言葉。
我に返ったのはコンの真っ赤な顔と、ポカンとした表情を見た時だった。それでようやく自分が言った言葉のことの重大さに気が付いて、顔に熱が集まってきたのを感じる。きっと今の状態を誰かに見られたら、とてもシュールだと思う。だって見つめ合った状態で、お互い顔を真っ赤にしてるんだぞ?どう考えたってシュールな光景にしか思えないだろう。


「ごっごめ、今のは忘れてくれると助かるっ…!」

―――ギュ、…

「どうして?…俺、今すごく嬉しいんだけど」
「へ、」
「そりゃ驚いたし、先に言われちゃって悔しいけど…でも嬉しいよ。ルナがそう言ってくれて」


…本当にコンは、ズルいと思う。こうやって私が喜ぶ言葉を何の躊躇いもなく、すんなりと紡ぎ出してしまうんだから。
でも滅多に見ない照れた顔を見れたし、今だって心臓が私と同じくらいドキドキいってるから…別にいいか。コイツも私と同じように照れたり、ドキドキしたりするんだってことが改めてわかったから。


「本当は俺から言いたかったんだけどなぁ…」
「う、…何かゴメンナサイ」
「ははっ謝らなくていいよ。…さっきのルナ、俺より男前でちょっと得した気分だ」
「…それはちょっと複雑なんだけど」


喜んでいい所なのか?そしてコンはそれでいいのか?
むう、と考え込んでいるとコツン、と額同士がぶつかった。こんな至近距離にコイツの顔があるのは珍しいことではないけれど、やっぱりドキッとする。相変わらず近くで見ても綺麗な顔してるし、男前…だよな、コンって。さっきコイツは私のことを男前だとか言ったけど、実際はコンの方がずぅっと男前でカッコいいと思うんだけどね。


「…コン?」
「ねぇ、ルナ。俺もお前と同じ気持ちだ、…伴侶として、俺の傍にずっといてくれないか?」


お前の真似したみたいでちょっとアレだけど。
そう言いながら苦笑しているコン。だけど、そんなの別に関係ないさ…だって嬉しいことには変わりないから。もちろん、と言葉を返せば、そっと触れるだけのキスが唇に落とされた。
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