I miss you.
淋しいとか、会いたいとか…女ってそういうのすぐに口に出すもんだと思ってた。けど、姐さんとつき合い始めてわかった。そういうことを一切口にも、顔にも出さない奴がいるってことを。
元々、姐さんはポーカーフェイスで感情を表に出さない奴だったけどさ。それでも、…もう少しわがままっつーか、俺を頼ってほしいっつーか。必要以上に我慢をしてほしくないと、そう思ってしまう。
side:大和
「二階堂さん、和泉さん、本日の撮影終了です!お疲れ様でした!」
「お疲れ様でしたー」
「お疲れ様です!明日もよろしくお願いしまーす」
最近では珍しくもなくなった地方ロケ。今回はミツと2人旅の企画で群馬に来ています。泊まってるのは温泉が有名な旅館だし、ロケでも温泉巡りとかできてるしなかなかに楽しい。料理も上手いし、景色も綺麗だしな。
色んな所をロケとか、自由時間に歩いてると…こう、姐さんにも見せてやりたいなぁとかさ?思っちゃうわけですよ、ガラにもなく。気がついたらスマホの写真フォルダには見せたいな、と思った景色の写真がかなりのペースで増えていた。はー…俺、こんなにベタ惚れなんだなぁ。姐さんに。
「あ、大和さんこれ美味い」
「お前さんいつの間に団子なんて買ってたの…」
「おっさんが写真撮ってる間。…姐さんに送るの?」
「んー…まぁ、そのつもりで撮ってはいるんだけど。1本ちょーだい、ミツ」
「おう。…けど、って送ってねぇの?」
分けてもらった団子に噛り付きながらまぁな、と返事を返せば、送ればいいのに。喜ぶんじゃない?って返ってきた。あー、うん。そうね。喜んでくれるとは思うし、邪険に扱われることもないと思っちゃいるんだけど…何かこう踏み切れないっつーか。俺、こんなに行動に移せないタイプだったか…?
あの子と出会って、つき合って、今まで自分ですら知らなかった自分を見つけてるような気がするわ。それが嫌だとはさすがに思わなくなったけど、それでもやっぱりくすぐったさは残る。
(…そういや、ロケに来てから一度も連絡きてねぇな)
姐さんから連絡がくるのは、大体スケジュールのこと。プライベートで連絡がくることはそうそうない。てか、今まで一度もない気がするんだけど、俺の気のせいじゃねぇよな?まぁ、元々マメに連絡するようなタイプじゃないって本人から聞いちゃいるから、それを今更どうこう言うつもりは全然ねぇけどさ。それでも少し、ほんの少しだけ…期待している自分がいるのも本当で。あわよくば会いたいとか、そんな声を聞かせてほしいとも思ってしまう。
「でもま、無理な話だよなぁ…」
最後の一口を飲み込んで、独り言ちる。地方に泊まりで来ているのは仕事だから、その間会えないのは仕方のないことだ。歳の割には落ち着きすぎている姐さんはきっと、その辺りをよくわかっている。
もし淋しいとか、会いたいとか思ってくれていたとしても…あの子はその気持ちを言葉にすることは、一生ないだろう。そういう子だ。
「…大和さんと姐さんってさ」
「んー?」
「仕事のことに関してはしっかりと意見言うのに、こういう時は口下手だよな」
「…ちょっと待って?俺も?」
「うん。だって何も言わないのは、大和さんも一緒だろ?」
気持ちを素直に話してほしいなら、大和さんも言わないと余計に言いにくいんじゃない?
2本目の団子を美味そうに食いながら、でも痛い所を突いてきやがったな。ミツの奴。周りをよく見ているコイツだからこそ、こういうことに気がつくんだろう。ほら、また知らなかった自分が出てきやがった。
舌打ちしたい気分ではあるけれど、でもミツの言うことも一理あるとは思う。確かにこっちは何ひとつ言わないのに、向こうにばっかり求めるのは…少し違うのかもしれない。言ってほしいから嘘を言うわけじゃない、あの子が―――なまえが、自分の気持ちをすんなり言える環境を作ってやれってことなんだ。
「ミツ、ちょっと電話してきてもいい?」
「いいけど…旅館に戻ってからの方が絶対いいし、先にラビチャで連絡しとけよ。仕事中の可能性高いんだから」
「……お前さんってよく頭回るよね」
「いつもの大和さんなら気がつくだろ。なーにテンパってんの」
ふはっとミツが吹き出して、俺はようやく冷静になったような気がした。
ああ、そうだよな…いきなり電話したら出れないかもしれないし、逆に何かあったのかもしれないと不安にさせちまう可能性もあるんだ。考えなしにするもんじゃねぇな…助言してくれて助かったわ。ひとまず、ラビチャで「電話したい」とだけ送って旅館に戻ることにした。
「大和さーん、オレちょっと売店行ってくるな!」
「んー、いってら」
元気よく出ていったミツを見送り、時計に視線をやると時刻は22時。深呼吸をして姐さんの番号を呼び出した。何故、時間を確認したかと言いますと、彼女からこの時間なら大丈夫です、と返信があったから。
発信ボタンを押せばすぐにコール音が鳴り始めて、無意識にスマホを持つ手に力が入る。そんなに長い間離れてるわけじゃねぇのに、何でこんなに緊張してんだろ…電話するのだって初めてじゃないのに。もう一度だけ深呼吸を、と息を吸った瞬間、コール音が途切れた。すぐに姐さんの声が聞こえるかと思ったのに、バタバタと走る音やドアが閉まる音、何かが倒れるような音に重なるようにして「いった!」と小さな声。
…あれ、もしかして俺かけるタイミングミスった?
『す、すみません…!お疲れ様です、二階堂さん』
「あ…うん、お疲れ姐さん。悪い、タイミング悪かったか?マズかったらかけ直すけど」
『いいえっ大丈夫です、もう家なので…あの、リビングにいたので慌てて自室に』
「ああ…だから色んな音が聞こえたのか。そういえばいった、って声が聞こえたけど大丈夫か?」
『聞こえてましたか…ゴミ箱蹴っちゃっただけなので、全然大丈夫です』
電話越しでもやっぱり、好きな子の声が聞けるって幸せかもしれない。さっきまでの緊張はどこへやら。ロケで言った温泉とか、旅館で食った料理とか、綺麗な景色とか…俺にしてはよく喋ってる方だと思う。色んなことを姐さんに話したくて、ついつい喋ってしまう。それでも姐さんは相槌を打ってくれるし、時々楽しそうに笑ってくれてる。
「…ごめんな、急に電話したいってラビチャして」
『いいえ、構いませんよ。ロケも順調なようでホッとしました』
「うん、ミツと一緒だしね。明日で全部終わる予定だから、夜にはそっちに戻れると思う」
『そうですか。予定通りですね』
「だな」
ふっと落ちる沈黙。お互い、黙り込んでしまって静かな空間が俺達を包み込んでいる。それもまた、嫌じゃないんだけど。姐さんの声を聞いて気が緩んだんだろうか、それとも…あの時、決意したからなんだろうか。
するりと「早く会いに行きたい」と零れ落ちた。向こうで姐さんが息を飲んだ、音がする。
『ず、るいですよ…急に、そんなこと』
「長い間、離れてるわけじゃねぇけど…やっぱり綺麗な景色見たり、美味いもん食ったりすると会いたいなぁって思うんだ。見せてやりたい、食わせてやりたいって」
『…はい』
「俺さ、お前さんが思っている以上に惚れてるよ。少しの間でも淋しいって、そう思ってる」
『ッ、』
ねぇ姐さん。お前さんは?お前さんは、…今、何を思ってる?
「―――なまえ」
『そんな声で、名前呼ばないで…』
「うん、ごめん」
『私だってっ…淋しい、です。早く大和くんに……会い、たい』
「ん。戻ったら一番に会いに行くから、だから俺の為に時間空けてくれる?」
『当たり前じゃないですか…!』
ちょっとだけ拗ねたような声音に、俺は声を上げて笑った。
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