真夏のバースデーケーキ

夏は、苦手だ。何をしてても暑いし、どんな格好をしていたとしても涼しくなんてなってくれない。唯一、夏祭りや花火は好きだけど…でもやっぱり、夏は暑くて苦手。
それを言うと必ずと言っていいほど、「夏生まれなのに?」って聞かれるんだ。あのねぇ、夏に生まれてても苦手なものは苦手なの!その季節に生まれたからって大好きになるとは限らないし、強いとも限らないの。そんなの少し考えればわかることでしょー?…っと、何か愚痴みたいになっちゃった。

まぁ、そういうわけだからさ?誕生日も特に思い入れがない。というか、祝ってくれるはずの家族も私が小さい頃に蒸発しちゃっていないし。引き取ってくれた親戚も私には興味がなかったから、誕生日を祝ってくれたことなんか一度もないんです。それが当たり前だったから、淋しいって思ったことはないけどさ。…だから余計に、今の状況を理解するのに時間がかかってるんだと思う。


「えっと、…」
「なーに呆けちゃってんのよ、なまえちゃん。ほら、こっち座れって」
「貴方が好きなものを用意したつもりですけど、食べられないものがあったら遠慮なく言ってくださいね」
「なまえ、見て見て!この飾り、八戒に教えてもらって作ったんだ!」
「…いつまでマヌケな顔をしてやがる」


いや、三蔵さん。状況を理解できてないんだから、マヌケな顔にもなるってば。つーか、相変わらず歯に衣着せない言動だなぁ、この人は。


「あれ?もしかして、日にち間違ってました?」
「ひ、日にち…?」
「だって今日はなまえの誕生日なんだろ?」


悟空のきょとんとした顔。そして言葉。それにハッとしてカレンダーを見てみれば、確かに今日は私が生まれた日でした。決して日付感覚がなくなっていたわけじゃあないんだけど(これでも仕事してるし)、さっき言った通り、誕生日に思い入れが一切ないから…今日はただの日曜日、としか思っていなかったの。
だから、皆が集まってる理由も、八戒がたくさんのごちそうを作ってくれている理由も、悟空が飾りつけをしたって理由も―――何ひとつ、わからなかったんだ。でも悟空の言葉でようやく合点がいきました。


「まさかとは思うけど、忘れてた?」
「うん、バッチリ忘れてたよ…」
「その言葉遣いはおかしいだろ。…だが、貴様らしいな」
「それって忘れっぽいってこと?三蔵」
「フン。珍しく理解が早いじゃねぇか」


ああもう!ほんっとーに癇に障る言い方するなぁ、三蔵は!!


「…仕方ないじゃない。誕生日なんて、今まで祝ってもらったことないんだから」
「ええ、知っていますよ。だからこうして、集まって祝おうと考えたんです」


グッと胸が詰まるような感覚。今まで一度も祝ってもらったことがないのに、それなのに…こんなにも嬉しいって思えるなんて、すごい不思議だ。
泣きそうになるのを堪えながら笑って、それでありがとうってお礼を言えば4人も笑ってくれた。特に三蔵の笑顔なんて激レアだと思う!


「おめでとうございます、なまえさん」
「誕生日おめっとさん」
「おめでとう、なまえ!!」
「…今日くらい、祝ってやる」
「うん、……ほんと、ありがとう。皆」


夏は苦手。誕生日なんてどうでもいい。確かにさっきまでそう思っていたはずだったけど、でも今はそんなことはこれっぽっちも思わない。
…いや、夏は相変わらず苦手だけど―――4人とこうやって過ごせる時間だけは、悪くないって思うよ。



(あれ?ケーキはないんだ?)
(ほら、貴方、夏が苦手でしょう?だから、)
(八戒の提案で、ケーキはフルーツポンチになったんだよ)
(わっ私の好きな果物がいっぱいだ!)
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