マスカレード

十貴族の生まれである以上、舞踏会などのパーティーに参加せざるを得ない。しかも遺伝なのかよくわからないけれど、ウチは女系家族らしく1人も男が生まれなかった。それこそ男は父と祖父だけなのだ。

そうなると家督を継ぐのは―――長女である私、ということになってしまう。

だからこそ舞踏会に誘われれば、社会勉強の一環だと家族(大半は父だ)に言われて放り出される始末。…賑やかな場は苦手なんだけどなぁ、社交的じゃないから。

今日は主催者である上王陛下の提案で仮面舞踏会になっている。仮面で顔を隠せるから、普段よりはまだ恥ずかしさはないけど…それでもこういう煌びやかな場所は場違いだって思うのよねぇ。私は剣の稽古をしたり、身体を動かしている方が性に合っているんだ。

(性別は女だから?こういう華やかなドレスに憧れがないわけではないんだけど…)

普段は軍服ばかり着ているから、まず最初に出てくる感想は「動き辛い!」なんだよな。それを言うと母が淋しそうな顔をしちゃうから、最近ではなるべく口にしないように心掛けてはいるけれど。…つくづく思う、私は絶対に生まれてくる性別を間違えたって。


「レディ、お相手がいなければ一曲踊って頂けませんか?」
「あ、すみません、私は―――…」


踊るつもりなんて毛頭ない。壁の花を決め込むつもりで来ていたのに、声を掛けてきた人物を見て断りの言葉が中途半端な所で止まってしまった。見慣れている軍服でもないし、仮面で目元も隠れているからちょっとやそっとじゃわからないはずなのに、…何でかしら、わかってしまったのよね。
声を掛けてきたのは上王陛下の次男・ウェラー卿コンラートだって。


「…驚いた。貴方、そういう格好も似合うのね」
「その言葉、そっくりそのまま返すよ。君こそ、とても似合っている」
「あ、ありがとう…」
「けど、よく俺だとわかったね?」
「私も自分でちょっと驚いてる」


コンラートだってわかってから声を聞いてみれば、聞き慣れた声だし、ちゃんと彼だってわかるんだけど。でもさっきは彼がいるとは思っていなかったのもあって、最初は気がついていなかったの。本当に。でも顔や身体付きを見て何となく似てるな〜あ、違う、本人だって思っちゃったんだもん。そして当たりだった。すごいな、私。
改めてコンラートに視線をやると、普段の彼だったらあまり身に着けないであろう黒色の服を身に着けていた。見慣れない色のはずなのに、すんごい似合ってる。黒の短めのジャケットに白の詰襟シャツ、そして首元には少しだけレースがついたリボンが結ばれていた。
そして特徴的な瞳を隠す仮面は、濃いめの青で煌びやかな装飾が施されていて綺麗です。…何と言うか、この人は本当に何でも着こなしちゃうんだなぁ。


「なまえが赤色のドレスを着るとは思わなかったな」
「母と妹達のオススメなの。派手な色は嫌だ、って先に言っておいたのに…」
「今宵の舞踏会は仮面舞踏会だからね、そのくらいの色の方が映えて綺麗だよ」
「…もう。相変わらず口が上手いのね?」
「心外だな、本心なのに」


―――そういう所が、コンラートのズルい所。
しれっと何でもないような顔で、人好きのする笑みを浮かべて、歯が浮くようなセリフをスラスラと言う。
本心なのかお世辞なのか、微妙にわかりづらいラインで言ってくるもんだから、いつだって私はドキドキしてしまうんだ。期待するだけ無駄だ、とわかっているはずなのに、それでもこの人が紡ぐ言葉で一喜一憂してしまうの。
それがどうしてなのか、まだわからない。わかりそうなのに、でもこの気持ちの名前を私は知らなくて首を傾げてしまう。そんな私を見てコンラートが楽しそうに笑みを濃くするけれど、何だか面白くなーい!!


「お腹空いたからご飯取ってくる!」
「ああ、俺も行くよ。…さ、お手をどうぞ?お姫様」
「ッ、!〜〜〜〜コンラートのそういう所、嫌い」
「それは残念」


俺はこんなにも愛してるのに。
耳元で突然紡がれた言葉に一気に顔が熱くなって、思いっきり距離を置いた。多分、2〜3メートルは後退りしたと思う。だってすっごいびっくりした…!な、何で急に愛してるとか言うのこの人は?!だって、…それって、好きな相手に言う言葉、で、軽々しく言葉にするものじゃないんでしょう?


「ねぇ、なまえ」
「な、なに…っ!」
「―――俺は本気。本気で君のことが好きで、手に入れたいって思ってる」
「ぅ、え……?!」
「絶対に落としてみせるから、覚悟していて」


最後に額にキスを1つ。とんでもない爆弾を落としてくれたコンラートは、いつも通りの笑みを浮かべて料理を取ってくる、と行ってしまわれましたとさ。
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