君の隣

君の隣はぽかぽかしてて、とても温かい。
まるで春の陽だまりの下で寝転がってるみたいに。そんな心地良さがあるんだよ?


「くっろがねー!」

―――抱きっ

「…なまえか。どうした?」
「んー?黒鋼が歩いてるのが見えたから、お迎えに来ちゃった」
「そうか」


一瞬だけ優しい笑みを浮かべて、私の頭を撫でてくれる黒鋼。この瞬間がとても好きなんだ。
私の、大好きで…大切な人。

最初はね?怖い人だなぁって思ってたんだ。とっつきにくいし、睨んでくるし、素っ気ないし…。
だけど、旅を始めて少し経った頃だったかなぁ?3組に分かれて、サクラの羽根の情報を集めに行った時のこと。
小狼とサクラ、ファイとモコナ、私と黒鋼に分かれたんだよね。確かジャンケンで。それは別に何も問題なかったんだけど…急に土砂降りの雨になって、おまけに雷も鳴り始めた。
…実は私、恥ずかしながら…雷が大の苦手なんです。大っ嫌いなんです。怖いんです。


―――ピカッ

ゴロゴロゴロ……

「〜〜〜〜…っ!!!」
「…おい?どうかしたのか」
「なっ何でもないよ!別に雷なんか怖く―――」

―――ゴロゴロゴロッ!

「ひっ?!!」
「怖いんじゃねぇか…」
「何で黒鋼は平気なのよぉ…!」
「はぁ…仕方ねぇなぁ」


雷の音が怖くて震えてた私を、そっと抱き締めてくれたんだ。音が鳴り止むまで。
それまで優しさの欠片も見せたことのなかった黒鋼が、ぶっきらぼうだけど…初めて優しさを見せてくれて。
落ち着くまで背中を撫でてくれていた手は、すっごく温かくて安心したのを覚えてる。

それからだ。私が彼のことを意識するようになったのは。
気持ちを伝えるつもりなんて、これっぽっちもなかった。恋愛をしていられるような旅ではないし、黒鋼も色恋に興味があるような人じゃなかったしね。
この想いは奥に仕舞い込んで、墓場まで持っていく気でいたの。…いつかは、自分のいた世界へと戻るわけだから。


「なーに考え込んでやがる」
「んー?私達の始まりをね、思い出してたの」
「始まり?」
「そ!始まり。…あの時はまっさか、黒鋼とお付き合いすることになるとは思ってもいなかったけど」
「んなの、俺も一緒だ」
「あれ?そうなの?」


実を言うと、きっかけを作ってくれたのって黒鋼なんだよ。意外でしょ?
彼のことだから、私の気持ちに気がついていて上手くいく自信があったから、気持ちを告げてくれたんだと思ってたんだけど。どうやらそうじゃなかったみたい。

「好きだ」

そう一言だけ告げられたあの日。一瞬、何が起こってるのか理解できなくてパニック状態でした。
…まぁ、すぐに舞い上がっておかしなテンションになってたんだけどさ。


「何にせよ、俺は嬉しかったけどな。お前が同じ気持ちだったこと」
「そっそんなの!私だって嬉しかったんだからっ…伝える気なんか、なかったし…。だから…黒鋼が一歩踏み出してくれて、良かったなって思う。そうじゃなきゃさ、こんな幸せな気持ちになってなかったもんね」
「…かもしれねぇな」


そっと肩を抱き寄せられる。恋人同士になったとはいえ、こういうのはいまだに恥ずかしくて…慣れないんです。
いっつも顔が真っ赤になって、黒鋼にからかわれる。…そういう黒鋼だって、実は真っ赤になってるの知ってるんだからね?言わないけどっ!
でもその姿を見て、緊張してるのは私だけじゃないんだなぁって安心するの。


「ね。まだおやつまで時間あるし、庭で日向ぼっこしない?きっと気持ち良いよ」
「ああ…今日は天気もいいからな。そうするか」
「本当?!やった!」


皆でわいわいするのも好きなんだけど、たまには黒鋼と2人きりでいたいって思っても…罰は当たらないよね?
だって大好きな人なんだもん。一緒にいたい、って思うのは…普通よね?黒鋼も、同じように思ってくれてたら嬉しいなぁ。

門をくぐって、庭へと足を向ければ良い感じに陽が当たっていて、絶好の日向ぼっこ日和!
庭の真ん中に植えてある大きな木が、また良い感じに日陰を作ってくれててね?すっごく気持ちいいんだ!
私やサクラ、小狼もたまにこの木の下でのーんびり本を読んだりしてる。ファイもお昼寝したりしてるみたい。


「へぇ…確かに此処は気持ち良いな」
「でしょー?皆もお気に入りの場所なんだよ」
「そういや、小僧が此処で本を読んだりしてたな…姫も一緒に。お前もなのか?」
「うん、たまにねー。あまりに気持ち良すぎて、寝ちゃったりもするけど」
「…今度は俺も呼べ」
「!…うんっ」


お気に入りの場所で、大好きな人とこうやって過ごせるなんて…何か夢みたいだよね?本当に。
サクラの羽根を探して旅をしている最中なのに、こんなに幸せでいいのだろうか。


「(これから先、何が起こるかなんてわからないし…無事でいられる保障もない。それなら―――今みたいに過ごせる時間を、無駄にしないようにするのも大切だよね)」


こてん、と黒鋼の肩に頭を預けてみる。
やっぱりこの人の隣って安心するなぁ…不安とか、そういうものが薄れていく。とても、とても…幸せな気分。
そう思えるのはきっと、黒鋼が隣にいてくれることを許してくれているからだね。
再確認して、私はそのまま夢の中へと落ちていった―――


「寝ちまったのか…。…なぁ。お前の居場所が俺の隣だって言うんなら、俺の居場所もお前の隣だ。なまえ」


伸ばされた綺麗な髪の毛を一房掴み、口付けを1つ。それになまえが、微かに笑ったような気がした。
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